通路の検証
俺達は第六層へ繋がる階段前で話をしてから――今一度、上層を調べることとなった。
「アルザとかは、正々堂々と勝負するとか言い出しそうだったけど」
「別にそれで勝たないと意味がないってわけでもないよ」
俺の言葉に対し、アルザはそんな返答をした。
「それにほら、私達は勝つために動き回っているわけだし、ズルしようとしているわけじゃないでしょ?」
「それもそうだな」
そんなやりとりをしつつ、俺達は第二層へと戻ってきた。そこから見つけていた隠し通路の位置などを確認し、その内の一つに入ってみる。
「普通の階段だな」
中はちゃんと魔法の明かりも存在している。これはダンジョンを構成する魔力を基にしているようで、このダンジョンが存続する限りは灯り続けるものだろう。
なおかつ階段は石造りであり、草原を模した第二層から突然第一層の神殿に逆戻りしたような雰囲気がある……この道は本来魔族の配下などが利用するものだ。よって、わざわざ異界化させる必要がなかったということだろう。
そして俺達は階段を抜けるのだが……その先にあったのは洞窟。
「これ、第二層にあった異界化されていない洞窟だよな?」
「そうね」
ミリアは地図を見つつ、確認する。
「ここを出て場所を確認してみましょう」
彼女の言葉に従い俺達は洞窟を出ると……草原が広がっていた。これは第三層の光景だ。
「ミリア、位置はわかるか?」
「ええ、見覚えがある……この辺りね」
地図で指し示すミリアの指を俺は確認。俺達が通ってきた洞窟は……どうやら未踏破の場所であったらしい。
「……あの洞窟は全部、隠し通路へと繋がる場所だったのか?」
「どうかしら? 隠し通路の数と洞窟の数については、合わないわよ? 洞窟の方が圧倒的に多い」
「カモフラージュしているという意味合いもあるんだろうな……なら一度洞窟へ戻って入口を確認しよう」
改めて洞窟へ入って俺達が通ってきた場所を調べる。俺達が抜けると隠し通路の入口は閉じてしまったのだが――
「通路とわかる切れ目とかもないな。魔法によって違和感ないようにしてある……そういう幻術が自動的に掛かるような仕組みになっているな」
「なら、洞窟から通路を見つけ出すことは難しそうね」
「そうだな。加えて洞窟から伸びる道、というのはたぶん上層部へ繋がるだけだろうし、検証して入口を見つけてもあまり意味はなさそうだ」
――おそらく、上層にいる敵を奇襲するべく、下層の洞窟から隠し通路を通って……という形だろう。ただこれは魔族の指示がなければ使用しないようになっており、ここまでで得た情報を統合すれば、現在残っている魔物達が使用している様子はない。報告しなくても問題はなさそうだ。
「魔族が通路を使う場合、ダンジョン内にいる敵の動向を把握し、適した通路を選択して魔物を送り込む……ということだろうな。ここまで大規模な異界化があるダンジョンだ。作成した魔族はおそらく、ダンジョン内を全て把握できる手段を構築していたに違いないし」
「そうでしょうね……」
ミリアは相づちを打ちつつ、地図を見ながら考察する。
「洞窟の中には魔物が潜んでいたり、あるいは魔力を秘めた小さな泉とかがあったし、私達が調べた上層部でも、魔法の明かりがあって使用していた痕跡とかがあったけれど……」
「それはたぶんカモフラージュだろうな。実際は隠し通路の入口であることを露見されないために、わざといくつも洞窟を用意した」
当然ながら隠し通路の方が数は少ないし、誤魔化すには十分だ。
「うん、隠し通路についてはおおよそわかった……これを利用すれば、ニックを出し抜くことも可能だろうな」
「なら次は、私達が単独で動いても問題ないような対策を立てないと」
「そうだな。隠し通路を通って先行して、結局助けを求める必要性に迫られる、なんていうのはさすがに避けたい。それをするのに一番なのは、下層の情報を得ることだけど……」
「ここまでくまなく歩いてみたけど、魔族らしき気配はないわね」
「問答無用で襲い掛かってくる可能性はあるから、無視してもいいんだけど……もし上層部のどこかに隠れているのなら、悪さをする可能性はある。転移ゲートが破壊されるだけでもかなり面倒だ」
「なら、次は魔族探しかしら?」
「そうだな。問題はどうやって見つけるのかだけど……」
俺とミリアは考え込む。ちなみに俺はダンジョンを見て回りながら索敵はしていた。でも、気配を捉えることはなかった。
これは二つの可能性が考えられる。一つは当該の魔族が隠れることに特化した技能であること。魔王と戦った身ではあるけど、だからといってありとあらゆる敵を探知できるわけではない。特化した能力を所持しているなら、スルーする可能性は高い。
もう一つは、このダンジョンと魔力の質が同じで、索敵に意味がない。ダンジョンと同じ魔力ということはダンジョンの構造物と同義であり、それだとさすがに見つからない。
どうしたものか……そんな風に考え込んでいると、突然アルザが口を開いた。




