ダンジョンを知る
「ねえねえ、二人が悩んでいるのは、魔族の探し方だよね?」
確認するような問い掛けに、俺は小さく頷く。
「ああ、そうだけど……何か案があるのか?」
「案、というか……どこかに隠れている魔族をあぶり出す方法が一つだけあるよ」
思わぬ発言だった。もしかしてアルザが何か――と思っていたのだが、彼女は首を振りつつ、
「私が直接何かをするんじゃないよ。ミリアが」
「私?」
「そう、簡単に言うと――」
一連の説明を受けて……俺とミリアは、納得してアルザの作戦を採用した。
というわけで、俺達は一度第二層まで戻ってくる。なんだか行ったり来たりしている感じだが……まあ状況は進展しているので良しとする。
「それじゃあ、ミリア。やってくれ」
「わかったわ」
頷くミリア。そこで俺は彼女に掛けていた魔法を解く。その瞬間、彼女がまとう魔力がほんの少しだが、露出した。これで気配を探れば、彼女が魔族だとわかるようになった。
とはいえ戦闘などをしなければ、普通の人が……いや、並の冒険者では気付かないくらいのレベルだが、このダンジョンを攻略している人間に見つかれば、気付かれる可能性はあるので……周囲は警戒しておく。
ただ、その気配は初めて出会った当初と比べても薄い気がする。
「ミリア、もしかして気配を消す鍛錬とかしたか?」
「あっさりと気付いたわね……ええ、まあ。改めて旅を始める際に、私のことを誤魔化す術を手に入れるって言っていたけど、それを期待して何もしない、というのは違うかなと思って」
「修行で達成できるならそれはそれでいいけど……このダンジョン探索でヒントを得られればいいけどな」
異界化を主軸とする魔族であっても、何かしら魔法に関する資料とかありそうだし、期待しても……と、考えていたところでミリアはさらに魔力を発した。
「これで、歩けばいいのよね?」
「そうだな……ただし、あくまで人がいない場所だから。もし誰かが近くに来たら即座に中断するからな」
ミリアはそれに頷き……俺達は改めて探索を開始する。
――アルザが提示した策は、ミリアの魔力によって相手は反応するのではないか、というものだった。つまり同じ魔族の気配を発していれば、このダンジョンに今も存在する魔族は反応を示すだろう、というのがアルザの主張だった。
俺やアルザという人間が近くにいるため、魔族の気配を発したからといって馬鹿正直に出てくるとは思えないが、何らかの反応はあるだろう……それを俺とアルザが察知してしまえば、というのが狙いだ。
本当はミリアが単独で動き回れば確実なのだが、同業者と出会う可能性を危惧してこういう形になっている。あと、攻略済みとはいえ一人は危ないからな。
俺達は人気のない第二層の草原を歩き回る……途中魔物がいて、ミリアの魔力に気付いて近寄ろうとする個体も現れた。もっとも俺やアルザの気配を察知してすぐ踵を返したのだが……魔物には通用しているので、魔族もミリアの気配はわかるだろう。
そして俺とアルザは周辺の気配などを探る……俺達は常に周辺を警戒しなければならないため、作業的には俺達の方が大変だ。ミリアの方はただ歩いているだけで済むのだが。
「第四層まではこれで調べる?」
アルザが問い掛けてくる。俺はそれに頷き、
「そうだな、まずは攻略済みの場所……未調査の領域もあるわけだから、魔族がいる可能性は決してゼロじゃない。上層部で魔族を発見できれば競争において有利に働くだろうし、探してみる価値はある」
「もし見つからなかったら……」
「当面はニックと共闘して、攻略することになるかな。とはいえ向こうだって競争である以上はこちらを出し抜くために色々とやるだろ。俺はダンジョンの踏破経験はあるけど、探索するということについてはニックの方が上だ。不利になるのは間違いないな」
現在ニックはこのダンジョンの魔物などについて実際に潜って調べているはず。その作業が一段落した時……おそらく相当な速度で攻略を始めるだろう。
もし共闘するという形になったら、当面の間は一緒に戦うことになるだろうけど、第九層とか最下層の際になったら俺達を置いて突き進むなるだろう。そのための方法というのはおそらく彼は持っているだろうし、一方で俺達にはないので相当不利だ。
「それに、今回の勝負は競争だけどあくまで実力を測る戦いだ。例えばの話、漁夫の利で最下層に到達してもニックが負けを認めるはずがない……どこかで俺達三人の力で攻略する必要があるわけで……それなら、情報を得てニックを追い越せる手段を確保するのが確実だ」
「私達だけで最下層付近の敵に勝てるかな?」
「そこも可能であれば情報を手に入れたいところだな……」
――結果的に、ニックとは異なるアプローチで俺達は攻略しようとしている。彼は正攻法、俺達は情報集めによる抜け道探し。まあ俺達の方が邪道だけど……。
「ま、ダンジョンを知る……それ自体に価値があるかもしれないし、試すだけ試してみよう」
その言葉に、ミリア達は小さく頷いた。




