草原
以降、俺達は第二層で地図の埋まっていない場所を見て回ったのだが……結果から言えば全て行き止まりだった。
「これで全部埋まったか?」
「ええ」
ミリアへ確認の問い掛けをした後、俺は視線を第三層へ繋がる階段へ向ける。
「それじゃあ次にフロアへ……とはいえ階段にも草が生い茂っているし、たぶん草原が続いているんだろうな」
その予想は……正解だったようで、第三層も同じような草原が広がっていた。
ただ、第二層と比べてもかなり広い……下に行けば行くほど異界化が進み広がっているのか、それともこの空間だけが広いのか。
「ミリア、攻略済み階層の地図と一緒に貸してくれ」
実際に見てみると……ふむ、縮尺の関係でわかりづらいけど、三層のここが結構広いみたいだな。
じっと地図を眺めていると、ミリアから疑問が飛んできた。
「未踏破の場所を探索するということでいい?」
「ああ、それでいい」
「魔族などと遭遇した場合はどうするの?」
「微妙なところだが……逃げるばかりであったら、捕まえるのも選択肢か」
とはいえ、戦意がない場合は……ただ、その魔族についてはどうするのか決めなければならない。俺やニックが攻略してしまった場合はこのダンジョンそのものは残らないだろう。であれば、生き残った場合魔族の対策は必須だ。
「ただ、友好的であっても冒険者ギルドとかがそれで納得するかどうかは微妙だな」
「ダンジョン内にいた魔族だからよね?」
「そうだ。このダンジョンは人間界に侵攻するために用意された拠点である以上、さすがに友好的だからと魔族を野放しにするのは難しいな」
「その辺り、冒険者ギルドへ確認するのがいいかしら」
「……正直、魔族にとってあまり良い未来はなさそうだけど」
そもそもダンジョンの入口付近は人間が固めているので出ることもできないし……ま、この辺りは遭遇したら考えることにしよう。
そういうわけで俺達は未踏破の場所を調べていく……それは言うなれば、穴埋めが終わっていない宿題を一つ一つ確認するような行為。草原が広くても洞窟を利用した異空間であるのは間違いなく、だからこそ未踏破の小部屋も第二層と同じような形で形成され、数もそれなりにあった。
そうして逐一調べて、成果なしに終わる……魔物との交戦もないため、アルザなんかは少し退屈してきたかあくびをしている。
「アルザ、油断しないでくれよ」
声を掛けてみるが、魔物が来ないことから緊張感がなくなるのも理解はできる。
そうこうしている内にあっという間に調べ終わり……このまま三層目へと踏み込もうかと考えた時、
「……ん?」
俺達と同じように転移ゲートではなく階段を使って降りてくる冒険者の姿を発見した。
「自分が言うのもあれだけど、ずいぶん変わっているな」
試しに話し掛けてみようかと思い、近づいてみると……知り合いの冒険者だった。
「ん、おおディアスじゃないか」
「やあ……元気そうだな。そっちは何の用でここに?」
「何でって……理由としては一つしかないだろ。一攫千金狙いだ」
自信を持って答える彼。これだけはっきり言う人も今では珍しいかもしれない。
「にしては、転移魔法を使わずわざわざ階段で降りてくるとは」
「一応階層構造の詳細なんかを確認しておこうと思ってだな。あ、そういえば英傑の――」
「ニックだろ? 知っているさ。彼と勝負ということで俺達はここにいるからな」
「勝負? ダンジョン攻略で?」
「ああ」
「はあ、やっぱりディアス達はやることが違うな」
どこか感心するように男性は言う……いや、無茶苦茶だなと呆れているのかもしれない。
「ま、そういうことなら頑張れよ。あ、この第三層については――」
「俺達が一通り探索したよ。結論から言えば、何もなかった」
「それは残念だ……なら俺はさっさと階段を降りるか……そっちはどうする?」
「……もう少しここを調べてみる」
「どうしてだ?」
「いや、第二層と比べても広い異空間……とくれば、隠された何かがあるかもしれないだろ?」
「そうかい? ま、納得がいくまで調べてみるのが良いだろう。それじゃ、お先に」
手を振り男性は俺達の所から去った。ちなみにミリアはアルザのことは完全スルーだった。
「ディアス、まだ何か残っていると?」
アルザが尋ねてくる。
「地図上では全部調べたけど……」
「異界化して、放置されていたにしても……草原で罠の類いもない、というのはなんだか奇妙だと思って」
「草原にしたこと……それに意味があるってこと?」
「かもしれないし、あるいは草原という見た目はカモフラージュで、侵入者を追い出すために何か仕込みがあるかもしれない……冒険者ギルドの情報でも第二、第三層は攻略が難しくなかったと語っているけど……調べたいな」
「納得いくまで調べてもいいのではないかしら」
と、ミリアが提言した。
「私も、ただ単純に広い草原が広がっている、だけでは違和感があると思ったし」
「なら、調べてみよう」
そう提案し、俺達は歩き始めた。




