人々の努力
程なくして辿り着いた目的地――リーゲン山には多数の観光客がいた。先ほど話をしていたような商人、町の近くに住んでいるのか比較的軽装な若夫婦。さらに言えば、俺達のように冒険者風の人物もいて、年齢だって多様だった。
「思った以上に人が多いな」
「それだけ有名ってことかしら?」
ミリアが言う。そこでアルザが、
「まあ王都でも観光名所、として話題に上がるくらいだから」
「つまり、遠く離れた王都でも音に聞こえると」
「そういうこと……ディアス、もう少し歩くんだよね?」
「ああ、山の中腹だからな」
道は整備されており、比較的なだらかな坂が続いている。俺達は順路に従い先へ進むことに。
その途中で、観光客目当ての店などもある……最寄りの町には宿もずいぶん多かったし、この周辺は観光を主軸にしているようだ。
「ねえねえディアス」
道中でアルザが俺へと声を掛けてくる。
「観光名所だから、ということでこの場所へ赴いたわけだけど、今まで来たことはなかった?」
「一度もないな。この周辺で仕事をしたことはあるけど……そもそも『暁の扉』の活動拠点は王都だったし、主に北部で仕事をしていた。ここは位置的に聖王国の中央付近だ。魔物も少ないし、足を向ける理由はなかったな」
そこまで言うと、俺は肩をすくめた。
「聖王国中央部には、人々を楽しませ、癒やすものがたくさんあるわけだけど、冒険者で剣を握って魔物と戦い続けた俺は、戦士団に入って二十年、無縁だったわけだ」
「それは私も同じだけどね」
「アルザも戦う理由からすれば、当然かもしれないが……それはやっぱりもったいないと。で、自分探しということで足を向けてみれば、何か変わるかもしれない」
「例えば?」
「花々に感動して植木職人とか志そうと思うかもしれない」
「それは、良いのか悪いのか……」
「植木職人を馬鹿にするのか?」
「職人さんがどうとかじゃなくて……まあいいよ。つまり、新たな人生を得るきっかけになるかも、と思ったわけだね?」
「その通りだ」
話をしている間にとうとう山の中腹へと辿り着く。ちなみに俺達の会話を聞いていたミリアが横で笑っていたのは、言及しないでおいた。
そして、目前に現れたのは……山が削られ、一部分が平面となっている場所に埋め尽くすように咲いた白い花だった。小さい花で、地面を埋め尽くす勢いで咲いている光景。花びらは五枚で一輪一輪見ると他の花と比べ取り立てて特徴があるわけではないのだが……それが密集し、なおかつ太陽の光によって白く照らされる光景は……確かに、見るものを圧倒する迫力があった。
「へえ……」
それはミリアが小さく呟くほど。単純に花が咲き乱れている……言葉で表現すればそれだけなのに、俺達は視界に広がる白い花を前にして、圧倒されて動きを止めた。
「……なるほど」
そうした中で、俺は一つ呟く。
「こういう光景とは無縁だったけど、魔力とか気配以外で圧倒されるものというのがこの世界には存在するんだな」
「……最初に出た感想がそれ、というのはどうにも思考が戦いに向いているわね」
どこか呆れたようにミリアが俺へ言及した。
「ちなみに感動しているの?」
「それはもちろん」
「……正直見た目でわからないけど。アルザは?」
「なんというか、綺麗とは少し違うね」
アルザは白い花から目を離さないまま言葉を紡いだ。
「なんだろう、ただ単純に綺麗なだけだったら、たぶんこんなに人は集まらないと思うし」
「色とりどりの花、とかだったらもっとわかりやすいけれど……何か不思議な魅力があるからこそ、こうして人が集まるのでしょうね」
ミリアの言葉に俺とアルザは小さく頷く。
「匂いとかも良いけれど、それだけが理由ではない……もしかすると、ここを管理している人々の努力かもしれないわね」
「人々の、努力?」
さらなるミリアからの言及に対し、アルザは聞き返した。
「どういうこと?」
「この場所はたくさんの人が訪れるわけだけど、私達が今見ている花々はきっとちゃんと管理されて、圧倒されるように計算されている……と、私は思う」
「自然に生えているわけじゃないってこと?」
「放置していたらここまで綺麗にならないでしょう」
「ま、それは同意だな」
俺は腰に手を当て、なおも花を見ながら応じる。
「観光名所というのは、人の手が入ってこそだ。もちろん自然のままに、という場所もあるけどな」
「……こういう場所があったら、私の村にも人が戻ってくるかな?」
「一から作るのは大変だと思うけど……確かに、産業になり得そうなものがあったら可能性はゼロじゃないな」
「そっか……」
花々を通してアルザは何を見ているのか……俺達はしばし、この場所に留まり白い花に圧倒され続けたのだった。




