次の目標
俺とミリアとアルザ……三人は魔族オーベルクが住む城を離れ、最寄りの町へ辿り着いた。その時点で夕刻を迎え、今後の方針を話すべく酒場で夕食をとることにした。
「二人は、行きたい所とかあるか?」
そして料理が運ばれるより前に、俺は二人へ尋ねた。
「もし候補があるなら言ってくれ」
「私はないよ」
と、アルザはあっさりと答える。彼女が旅をする目的は資金集め――そうである以上、優先すべきは仕事、といったところか。
「確認だけどアルザ、仕事については俺の判断でいいのか?」
「うん」
「例えば俺が観光へ行く、とか言い出した場合はどうする? さすがにそれだったら一人で仕事をするか?」
「そこまで性急に行動しようとは思っていないから、ディアスについていくことにするよ」
なるほど……では、俺が今後の方針を決めていいというわけなので、
「じゃあ少しの間、魔物討伐などとは離れて旅をしようか」
「具体的には?」
「この地方には色々と観光名所があってさ」
――聖王国の中央から南部は、肥沃な大地が広がっていて良い場所も多い。王都から観光としてここにやってくる人も多いため、だからこそ見て回る価値がある名所がある。
「ここまで路銀稼ぎとかで色々と動き回っていたし、少し足を止めて自分探しの一環として面白そうな場所を回ってみようかと」
「うん、いいんじゃない?」
「私も同意するわ」
と、アルザとミリアは俺に同意の言葉を告げた。
「それに、魔族の私にとっては見るもの全てが新鮮だし」
「そっちは興味あるってことか……そういうわけで、明日から行動を開始だ」
そのタイミングで料理が運ばれてきた。それらを食べ進めつつ――穏やかな一日が終わりを告げた。
翌日から俺達は冒険者ギルドに顔を出すことなく町を離れた……見て回りたい場所については他の町を拠点にした方がいいので、俺達は旅を再開したわけだ。
その道中で、ふいにアルザが俺へ一つ問い掛けてくる。
「ねえねえ、まずはどこに向かうの?」
「リーゲン山という場所。そんなに標高のある山じゃないんだけど、そこにしか咲かない白い花というのがあって、綺麗らしい」
「へえ、花か」
「アルザはあまり興味がなさそうだな」
「そう見える?」
「ちょっとだけ。つまらなさそうだと感じたら別行動でもいいけど」
「いや、さすがに単独行動はしたくないかなあ」
などと会話を行いつつ、俺達の旅を進んでいく……と、アルザとミリアが会話を始めたのを契機に、俺は魔族オーベルクから得た情報について頭の中で吟味する。
魔王は自らの意思ではなく、謀略によって人間と戦うことを強いられた……まあだからといって魔王がやらかしたことを帳消しにするわけにもいかないので、同情の余地はないけど。
ただ、その謀略については人間側も関係していたらしい――で、見つけられるかどうかは不透明だけど一応候補はある。
ただ、それを調べる場合はどうしたって国側に相談する必要はある……というか、その候補と呼べる人物は王室に関連している人物なのだ。
オーベルクの説明を吟味すると、場合によっては魔王に関連していた人物は国の上層部にいるかもしれない……魔族と手を組んでどういうメリットがあるのかと疑問に感じるところだが、まあ動機については推測しかできないので置いておく。
実際、魔族と手を組んで色々やっていた人間も過去にはいたし、あり得ない話ではないのだが……調べる当てはあるにしても、それをやると俺達の所にまで影響が出てくる可能性はゼロじゃない。
「とりあえず、ギルド経由で調べてみるか……」
俺はそういう結論に達する。情報源の候補については、冒険者ギルドとも関わりがあるので調べることはできるはず。本当は王都に赴いて……というのが一番ベストなのだが、そこまでして調べようとは思わないので、とりあえずのんびり旅をして気が向いたら――あるいは、王都へ戻る機会があったら、調べるということでいいだろう。
頭の中で結論を出しつつ、俺達は街道を進み続ける……と、
「そういえば、ディアス」
ふいにアルザが声を掛けてきた。
「オーベルクさんと色々話していたみたいだけど、何かやることはあるの?」
「ミリアのことを含めて頼まれただけだよ……まあ、興味があれば調べてくれみたいな仕事とは違う話ももらったけど、すぐにやる必要もないからな」
やや曖昧な表現だったがそう答えると、アルザは「そっか」と応じ追及はしなかった。
「気になるのは戦士団の動向だけど」
と、アルザは一つ言及。具体的に言えば俺が所属していた『暁の扉』についてだろうな。
「俺達の居所はわからないし、干渉してくることはないだろ」
「そうかな? セリーナは探査魔法とか使って私達の居場所くらいはすぐに捕捉できるんじゃない?」
「そこまでする必要性もないだろうし……」
と、言いつつもなんだか押しかける予感も――いや、考えないでおこう。
「さて、戦士団のことはともかくとして、先へ進もう」
そう告げ、俺は街道の先を指さしたのだった。




