幕間:城に残る者
――オーベルクはディアス達を見送った後、一人自室の書斎で考え事をしていた。
「ふむ……」
それはこの城に滞在していたディアスのこと。厄介な魔物を倒してくれた礼などもあり、今後何かあれば喜んで協力しよう、という腹づもりなのだが――
「何か、抱えていたように感じられたな」
それは魔王のことだろうとも推測した。なぜオーベルクがそう思ったのか。
理由は、魔王に関する話をしていた時、彼自身何かしら表情に変化があったためだ。無論それは、死闘を繰り広げた脅威であるからだと説明はつくし、もしオーベルクが尋ねていたら彼はそう答えていたに違いない。
だが他ならぬオーベルクは違うと内心で思っていた。表情からすると、戦いの記憶を脳裏によぎって不快に感じるというより、魔王と相対して何かがあった――だから、表情を変えたのだ。
「彼は戦士団に所属し、そこからは魔物や魔族と戦い続けた経歴がある……その過程で、魔王に対する何か特別な感情を抱いたか?」
そう考えるのが一番理に適っているし、自然ではあった。けれど、
「恩人に詮索するつもりはないが……魔王が起こしたあの謀略による戦いと何か関係があるのか?」
もしかすると、彼にあの話をしたのは――もし今後、ディアスが行動を起こすとしたら、それは良くも悪くも真相に近づく結果に繋がるかもしれない。
「ある意味、彼に打ち明けたのは正解と言えるのかもしれないな――」
そう呟いたところでノックの音が。オーベルクが返事をすると、赤い髪を持つ侍女が入ってきた。
「お客様が」
「ああ、通してくれ」
侍女が客人を招き入れる。現れたのは、魔物を弱らせる結界を構成していた聖王国の宮廷魔術師。
「どうも」
「わざわざディアス君がいなくなったタイミングで話をする、というのは何か理由があるのか?」
「……彼がいれば、首を突っ込んでくる可能性があると思ったので」
「それは、彼が厄介だと?」
「いえ、違います」
と、魔術師は首を左右に振る。
「むしろ逆です。戦士団を抜けて自由に旅をしているのであれば、余計な物事に関わらせたくないというわけです」
「……私は彼にいくつか依頼をした。魔王に関連する事柄であれば、もしかすると彼も関わるかもしれないぞ?」
その言葉に宮廷魔術師は「ほう」と小さく声をこぼす。
「魔王関連、ですか」
「とはいえ、手がかりなどない状況だ。彼が興味を持つか情報源を見つけるかしなければ進展はしないと思うが」
「なるほど、そうですか……魔王の話ではありますが、私達の話はこれからの魔王に関するものなので、ディアスさんが関わる可能性は低そうですね」
「つまり魔王候補についてか」
「はい……その辺りの情報はお持ちですか?」
「魔界の情勢は常に調べてはいるからな」
「なるほど、そうであれば現在の魔界は危うい状況にあることは認識しているかと思います」
「……聖王国側も情報収集に余念がないようだな」
「それはもちろん、現在国の上層部の関心事は次の魔王は誰になるのか、ですからね」
「下手すれば年単位の歳月が必要な事柄だが……もしかして、人間側が干渉して都合の良い魔王候補を選ばせよう、などと考えているのか?」
「介入すれば逆に魔界から恨まれるでしょうから、そこまではしません……誰が次の魔王になるかを予測し、それに対し備えをする……というのが目的です」
「なるほど、な」
国を守っていく――他ならぬ魔王が攻め込んできたのだ。今回は英傑の力によって食い止めるどころか逆に倒すことができたわけだが、次の魔王が動いたらどうなるのかわからない。
「それで、国側としては私に何をして欲しいのだ?」
「より詳しい情報提供……具体的には現状の魔王候補に関する情報を」
「そのくらいであれば、構わない……こういうことをすると確実に同胞から報復が来そうだが」
「その代わり、私達からは今回の施策以外にも助力を」
「……同盟関係にまで発展させると?」
「そのように考えています」
「大盤振る舞いだな」
オーベルクは考え始める。メリットはある。少なくともこの城を守れるだけの何かを得られる可能性は高い。
(彼らの協力によって守りが万全となれば、ミリアを迎え入れても問題はなくなるかもしれないが……いや、あの子が魔王候補から外れるまでは、無理か)
真に厄介な存在は、敵ではなく彼女を祭り上げようとする同胞――
「これを機に友好な関係を築けるのであれば、手を貸そう」
「わかりました。この場ですぐに情報交換というわけではなく、一度こちらも話をしてみます」
「ああ、わかった」
返答の後、宮廷魔術師は立ち去った。そこでオーベルクは背もたれに体を預ける。
「さて、彼はどう動くだろうな。そしてミリアは……」
呟いてから、オーベルクはディアス達の旅路に思いを馳せる。
「土産話を、楽しみにするとしようか」
小さく笑うと、オーベルクは席を立ち動き始めた――




