三人
騎士や魔術師達の作業が終了し、オーベルクは今後国側と色々話をするという約束を交わし……そこでようやく俺とアルザの役目が終了した。
よって、最後はミリアのことだけ……ここに残るのか、それとも俺達と旅をするのか。
俺とアルザは城を出る日だけオーベルクに伝えて、ミリアには何も訊かずその日を迎えた。城の入口でオーベルクは俺達を見送る形となり、外へ出て最後の挨拶をする。
「本当に助かった。君達がいたことでこの場所にも平和が訪れる」
「とはいえ、警戒は続けないといけないんだろ?」
「多少は、な。しかし仕込みをしていることは同胞にも伝わる上、国側と関係を深める事実がある以上、過度に干渉はしてこないだろう……が、無論注意はしておく」
――ミリアはここにいない。オーベルクもそこはあえて話をしない。
「君達二人は今後も当てのない旅をするようだが、もし疲れたら是非とも立ち寄るといい。最高の待遇でもてなすことにしよう」
「それはどうも……そうした時が来たら、甘えさせてもらうよ……ところで――」
「ああ、そのことについては君の自由にしてもらって構わない」
主語のない言葉。けれどそれが魔王に関する真実についてのことなのだと、俺はすぐにわかった。
「わかった。ま、期待はしないでくれよ」
「ああ」
アルザは何の会話なのかわからず眉をひそめたが、追及はしてこなかった。
そこで言葉が途切れ……俺とアルザは一度視線を重ねた後、出発しようかと思い立ち――その時だった。
「……お待たせ」
ミリアの声だった。見れば旅装姿の彼女が俺達へ近寄ってきた。
「行きましょうか」
「……ここまであえて話をしてこなかったけど、それでいいんだな?」
「ええ。頼るところがなくて叔父様の下へ来たわけだけど、ここも私にとっては危ない場所みたいだから」
「危ない、か」
「ディアスも叔父様も言わなかったけど、私はここに留まれば魔界へ情報が渡る……場合によっては魔族が来るかもしれない、でしょう?」
俺とオーベルクは沈黙したが……無言の肯定だとミリアは認識したらしい。
「不安はあるけれど、少なくともあなたの旅に同行できるのだから、それに頼ろうと思うわ」
「俺は別に構わない……けど、魔界の方が落ち着くまでは流浪の日々が続くかもしれないな」
「そうね。あるいは……人間界に拠点を置いてもいいかも。ただしそれは、私のことがバレないようにすることが前提だけど」
……辺境なら、魔族の手だって届かないかもしれない。安住の地……彼女にとってそうした場所を見つけ出す、というのも良いかもしれない。
「……どうするのかはミリアの判断次第だ」
そこで俺は口を開く。
「俺は当面気ままに旅を続ける。自分探しなんてすぐ答えを出せるものじゃないからな。俺が動き回っている内は好きにしてもらっていい。ただ、もし俺が一つどころに腰を落ち着けることになったら――」
「その時どうするかは改めて考えるわ。そこで再び叔父様に頼る場合は、護衛をお願いね」
「……ちゃんと報酬はとるからな」
「ええ、それはもちろん」
「私もそれで構わない」
オーベルクが同意する。なら、と俺はこれ以上話をする必要はないと判断し、
「それじゃあ、旅を再開しよう……改めて、よろしくミリア」
「よろしくねー」
「ええ、二人ともよろしく」
――そして、俺達はオーベルクに見送られて山を下りた。最寄りの町へ向かい、まずは冒険者ギルドで情報を集める。
「色々と仕事はあるけど……どうする? 今回オーベルクからもらった報酬で当面は好き勝手に旅はできるけど」
ちなみにアルザにもその報酬は渡してある……が、資金稼ぎという形ではまだまだ足りないだろう。
「アルザの方は稼ぎたいのなら単独で仕事をしてもいいけど」
「さすがに私一人は嫌だなあ」
「ずっと一匹狼で活動していた人間とは思えない発言だな」
「なんだかんだでこの旅が楽しいからじゃないかな?」
そこでアルザは笑う……釣られてミリアと俺も笑みを浮かべる。
「そうか。何かあったらちゃんと言ってくれよ。後、俺のことが気に入らなくなっても、対策はするから」
「どういう風に?」
「それは俺がいなくてもいいように――」
と、言った後に俺はあることに気付いた。
「そうだな、次の目標を決めるか」
「目標?」
「ミリアのことは俺の魔法によって悟られないけど、それを自前でやれた方がいいよな」
「確かにそうかもしれないわね」
「魔法を開発するのか、それとも道具を作成するのか……どちらにせよ、ミリアは人間界で何の気兼ねもなく旅ができる環境を整える……これを優先とすべきかも」
「そうね。いつまでもディアスに頼ってはいられないし」
「というわけで、やることは決まったな」
ミリアとアルザは小さく頷き、俺は一つ提案する。
「それじゃあ、一つ仕事を請け負うけど、いいよな――?」




