戦士団のこと
アルザの斬撃はしかと飛竜の体を抉ることに成功した。作られた魔物であるためか出血などの類いは見られないが、それでも皮膚を越えた先にある部位に到達することはできた。
「ディアス!」
そこでアルザは叫んだ。こちらはわかっている、という風に魔力で応じ、魔法を解き放った。
それは光の槍。先端にあらん限りの魔力を収束させたものであり、飛竜が次の動きに出るよりも先に、直撃した。途端、生まれたのは圧倒的な光と飛竜の体の内へ叩き込まれる爆音。
槍は直撃すると、その場所を中心に爆散する仕掛けとなっている。なぜそうしたのかという理由だが、それこそ飛竜を倒すための策であった。
アルザが強化した剣を用いて飛竜の体を抉る。表層にある魔力を消し去る皮膚を越えれば、俺の魔法が通用するようになる。体の内部でも魔力を消し去る構造であったなら、魔力を込めた火球など吐けないため、皮膚を通過すれば……だからこそ、このような手法を用いた。
槍が飛竜の体を貫き、そこから魔力を流し込む……結果、飛竜の体が内側から破壊され始めた。痛みのためか声を上げ、破れかぶれの爪をアルザへ差し向ける。
だが彼女はそれを冷静に防ぎ……飛竜は動きを止めたかと思うと、ゆっくりと谷底へと落ちていく。
「倒したな」
「うん」
俺達が会話を成す間に、飛竜は空中で魔力の塵と化していく。やがて地面に到達するより先にその体は完全に消え去った。
「これで当面の安全は保証された。後は国の人が来て対処してもらうだけだな」
「それまで滞在するってことだね?」
「ああ。あの城の中は居心地もいいし、それでいいだろ」
「……ミリアは旅に同行するのかな?」
「どうだろうな。対策さえ立てることができれば、問題ないようにも思えるけど……いや、魔族の執念というのは結構怖いからな。特に魔王の指示を受けず好き勝手にやっていた魔族相手となれば、オーベルクが警戒するのも無理はない気がする」
「オーベルクさんは、魔王から見たら反逆者ってことかな?」
「そういう風に解釈もできそうだな」
常に命を狙われてしまう以上、ミリアを側に置くことはできない……というわけだ。
「ミリアが同行すること、俺としては別に構わない。アルザは?」
「私もいいよ」
「なら、後はミリアの決断次第だな」
「ねえねえ、ディアス。ここでの騒動が解決したら、それからどうするの?」
――俺はオーベルクから言われた仕事を思い返す。一つ目の仕事は達成した。二つ目はミリアがどうするかという決断だけ。残る一つは、
「……ま、俺は自分探しという目的を携えているだけだ。アルザやミリアが行きたいと思うところがあればついていくけど、そうでない場合はテキトーに目的地は決めるさ」
「そう」
「アルザとしては資金集めをやるわけだから、金になるところじゃないとまずいんじゃないか?」
「村のことは気になるけど、焦っても仕方がないからね。私は故郷に固執しすぎていたのも事実だし、ここは一つディアスと一緒に当てのない旅をしてもいいかなー、と」
「そうか? まあ、それならそれでいいぞ……ただ」
「ただ?」
「もしかすると俺と一緒にいたら、厄介事に巻き込まれるかもしれないぞ」
「何を今更」
それだけだった。覚悟している、というよりむしろ当然という顔をしている。
「ま、ディアスのことだから、たぶん思ってもみない形でトラブルに巻き込まれるよ」
「人ごとみたいに言うなよ……」
「まあそれはそれで楽しそうだから良いかなー、と」
「……訊きたいんだが、どういうトラブルを想定している?」
「それはもちろん、戦士団関連」
……主にセリーナのことかなあ。そういえばオーベルクのために手紙を書いたけど、もし彼女が城と関わりを強めていたら、俺が魔族のために色々やっていることは認識するはず。
あるいは、国側が話を振るかもしれない。そうなったら、結構面倒だな。
「……とりあえず、帰るか」
「うん」
俺達は渓谷から抜け出し、オーベルクの城へと歩き出す。その道中で、
「なあ、アルザ」
「なあに?」
「セリーナのことは、どう思っていた?」
「んー、私は正直あまり関わりがなかったからね。ただ接していて大変だと嘆いている同業者を見かけたりもしたから、私は自然と避けるようにはしてた」
「なるほど……今後、俺達の旅を妨害する人物が現れるとしたら、セリーナになるかな」
「戦士団にいた頃よりも気にしているね」
「まったくだな……気を揉まなくていい時が来るとしたら、それはたぶん彼女と相対した時なんだろう」
「もしそうなったら、たぶん決闘をするとかじゃないかな」
「ああ、それは避けたいから、今後も頭を悩ませることになるかもしれないな」
戦士団のことは尾を引いているが……ま、これはこれで仕方がない。ひとまず今は、想定するようなトラブルがないことを祈りつつ……俺達は、オーベルクの城へと帰還したのだった。




