作戦立案
来る――漆黒の飛竜は俺達へ向け一気に間合いを詰めてくる。なおかつその大きな口を開け火球を生み出そうと……いや、そうではなく俺達を食おうとしているのかもしれない。
それに対し俺とアルザは一気に距離を置いた。空中に足場を作成しつつ、挟み込む形となる。
「魔法は通用するか……?」
俺は杖をかざして魔法を放つ。それは雷撃であり、稲妻が迸り一瞬で魔物の体へと注がれる。
破裂音が響いて飛竜は声を上げた……が、ダメージはほとんどなさそうだ。
「皮膚そのものに魔力を遮断する特性があるなら、魔法は効果が薄いかもしれない」
「なら、私の出番だね!」
宣言と共に飛竜を挟んで反対側にいるアルザが叫び、仕掛けた。それに魔物は応じると、腕――いや前足だろうか? その先端にある鋭利な爪で切り裂くつもりなのか、アルザへ向け一閃した。
速度はなかなかのもので、並の戦士なら見切れず直撃したかもしれないが……アルザは違う。腕の振り方などを見極めたか、易々とかわしてみせた。
だが飛竜はさらに爪を振るう。その動きはまるで人間のようでもあった。
「はっ!」
そんな攻撃を妨害すべく俺はさらなる魔法を生み出す。今度は氷魔法で、アルザへ差し向ける前足を、一瞬で凍らせた。
これで動きが鈍ってくれればと思ったが、飛竜が数度大きく振るとあっさりと砕け散った。魔力を弾く特性からか、凍らせるのもちゃんと効果が発揮しない。
アルザは大丈夫か――と思ったが、彼女は飛竜の猛攻をあっさりと避け続け間合いを詰める。その動きには余裕もあり、なんとなく杞憂だったかなどと感じ入る。
そして、彼女は飛竜の懐へ到達した。巨体に対し彼女は剣をすくい上げるように放ち……斬撃を叩き込んだ。
直後、飛竜が吠え力を緩めたか落下していく……と思ったら、すぐに立て直して俺達よりも低空を飛び始めた。
「下りてこいって挑発しているみたいだな」
「かもね」
飛竜は悠然と飛び去っていく……俺が構築した結界についても体に触れただけであっけなく破壊された。
もし飛竜がオーベルクの城へ向かうようなら、ここで決着を付けるために動くのだが、飛竜は飛び去って視界から消えた。どうやら城へ向かうことはないようだ。
「あの調子だと、渓谷内をウロウロしているみたいだな……俺達と交戦しても気にしていない」
「城を襲わないのは何か理由があるの?」
「城は魔法によって対策をしているらしいから警戒している。魔力を無効化するような特性を持つ飛竜だが、仕掛けがあると思って飛び込んでは来ないというわけだな」
「知性がある……籠城をしていたらとりあえず安全だと」
「逆に言えば外に出たらどうなるか……という話だ。なるほど、想像以上に厄介だな。でも」
俺とアルザは視線を交わす。どうやら同じ事を考えたらしい。
「ああいう特性の魔物でも、やりようはある。アルザ、さっき斬った感触はどうだった?」
「手傷を負わせられたのは間違いないよ。ただ、私の退魔能力についてはほとんど意味はないね。剣の切れ味だけで斬った感じ」
「俺からは見えていなかったが、皮膚は斬れたんだな?」
「うん、たぶん跡になるんじゃないかな」
「わかった……このまま交戦しても勝てる見込みはあったが、場合によっては傷の一つや二つくらいはもらう可能性があった」
「万全を期せば、無傷で倒せると」
「そうだ。ただし、策を用いるにしてもアルザには頑張ってもらわないといけないぞ」
「わかってる。作戦立案は任せるし、こき使ってくれればいいよ」
「なら、遠慮なく」
俺はそう応じつつ、飛竜のいた場所へ背を向けた。
「まずは一度引き上げて、準備に取りかかろう。全ての準備が終わるのは、明日くらいかな」
「飛竜は他にもいるかな?」
「とりあえずあの一体だけらしいけど、倒したらどうなるかわからないな」
「対策は立てるんだよね?」
「そこは俺の仕事じゃなくて、聖王国がやってくれるさ」
「本当に来るの?」
「まあ大丈夫だろ。元々オーベルクは聖王国と交流があったみたいだし」
会話をしながら俺達は城へと戻る……その途中で、飛竜の声と思しき雄叫びがどこからか聞こえてきた。
「向こうも面倒なヤツが来た、とか考えていそうだな」
「私達のことは見分けがついたかな?」
「ついているだろうな。生み出された魔物である以上、自我があるのかどうかはわからないが……結構複雑な命令をされているのかもしれない」
それを解明できればさらに安全に対処できるけど、まあそこまでする必要はないか。
「よし、城へ戻ったら早速準備……だが、アルザ。そちらにも一つやってもらいたいことがある。これはオーベルクの協力もないと無理だが、たぶん大丈夫だろ」
頭の中でプランを立てていく……そうして俺達は、一度オーベルクの城へと戻ったのであった。




