漆黒の敵
朝食の後、俺とアルザは城の外へ出て魔物がいる場所へと向かうことに。ちなみにミリアはいない……というより、魔族に対し有効な能力ということで同行していない。
「お、あれだな」
少し歩くと断崖絶壁に辿り着いたのだが、むき出しの岩壁に一体の魔物が張り付いていた。それは飛竜のような姿をしているのだが、色は黒く遠くても窺い知れる瞳の色は赤色。なんというか、作られた魔物という雰囲気がひしひしとする。
「魔力は……結構強いな。でも、魔族の脅威になるのかと言われると首を傾げるが。アルザ、そっちはどうだ?」
「気配から感じ取れる能力は、ディアスと似たようなものだよ。私も特別強いとは思えない」
……そう会話をしているのだが、実際のところ俺達の基準がおかしいという意見もありそう。俺は魔王と対峙したこともあるし、アルザの方は高位魔族と戦った経験がある。
それと比較すると見劣りする……魔族だけに強い力を発揮するような魔物であれば、正直遠距離から魔法を撃って終わりそうだけど……。
「試しに攻撃してみるか?」
俺の提案にアルザは「いいんじゃない?」と応じる。
「結界とかを使って周辺を遮断してからやれば問題ないでしょ」
「わかった。なら早速――」
俺は杖をかざし、周辺空間を結界によって遮断する――大気に満ちる魔力を利用しての結界であり、魔力の少ない場所であれば効果は薄いが、この渓谷には潤沢な量がある……魔族の攻撃さえも防ぎきるだけの効果があるだろう。
と、結界を行使したことで魔物が反応した。首をもたげ、俺達を視認すると……甲高い声を放った。威嚇のつもりだろうか。
「ディアス、あの距離で攻撃は届く?」
「遠距離系の魔法で攻撃してもいいけど……アルザはどうするか決まっているのか?」
「うん、それでいこうと思う」
「なら俺は従うよ」
アルザは俺の言葉に小さく頷くと――地を蹴って渓谷へと飛び込んだ。だが数メートル下りたところで彼女は空中に立ち止まる。まるでそこに地面があるかのようだが……魔力によって足場を作っているのだ。
俺もまたそれに続いて渓谷の中へ。コツン、と一つ音を立てて魔力による地面に着地すると、とうとう飛竜は大きく吠えて俺達へ向かって翼を広げた。
「来る――」
俺が声を発した矢先、巨大な口を開けて――火球を放った。その瞬間、俺とアルザは同時に眉をひそめる。
「この魔力は……」
それと同時に火球が――その色は飛竜の体躯と同様に漆黒。黒い炎が、俺達へ迫ってくる。
対する俺達の行動は早かった。即座に俺とアルザは左右へ逃れて回避に成功。直後、黒い炎は岩壁に直撃し――ゴウン! と一つ大きな音を立てて着弾した周辺を大きく抉った。
「ディアス……」
「ああ、わかっている」
そして俺とアルザは主語のない会話を行う。先ほどの攻撃……それにより、飛竜の能力についてある程度推察できた。
まず、外見から感じられる魔力について。これは俺とアルザが言ったようにそれほど多くない。ただし、ここには仕掛けがある。先ほど口を開けて火球を吐いた瞬間、感じられる魔力量が多くなった。しかもそれは、桁違いというレベルだった。
ここから考えるに、あの魔物は体そのものが魔力を遮断するような特性を持ち、内なる魔力量を悟らせないようにしているということ。魔族は魔法も使えるし、敵の能力を推し量るような技術も多数ある。それは同胞や魔物を相手にしても同じであり、飛竜の特性は能力を悟らせず対策を立てられないようにするための処置だろう。
ただ、それだけなら脅威であるにしろ俺とアルザが驚くほどではない……もう一つの仕組みの方が厄介だ。それは端的に言えば、火球に秘められていた魔力の特性。
「直撃は避けた方がいいな」
「結界に当たってもまずいだろうね」
俺とアルザは会話をしつつ飛竜を警戒する。飛竜が放った火球……それには間違いなく、退魔の力が付与されていた。
といってもアルザが持っているようなものとは少し違う。彼女の力は言うなれば浄化に近く、悪魔やアンデッド、あるいは魔族などが所持している魔力の質に対し有効な効果をもたらすものだが、飛竜の能力は文字通りの退魔――つまり、魔力を退ける特性。
火球は結界で防ごうにも、間違いなく意味を成さない。結界に直撃したらほとんど抵抗もなく貫通して終わりだろう。
「こういう特性の魔物がいたら、魔王との決戦も厄介だったろうに……」
「魔力を弾く特性だから、肉体を持っている人間には効果が薄いんじゃない?」
と、アルザは考察する。なるほど、わざわざ特性を付与して面倒なことをするより、圧倒的な力で攻撃した方が早いってことかも。
「さて、火球を受けるわけにはいかないから立ち回りを考えないと」
「物理的な者に対して効果が薄くなるなら、私の剣やディアスの杖で弾けるかも」
「その辺りは、戦いながら検証していくしかなさそうだ」
その言葉の直後、再び飛竜は吠え、俺達へ向け飛翔した。




