大きな仕事
新たな旅の仲間を加え、俺達の旅は続いていく。とはいえ、アルザが町を離れるときは少し大変だった。
「い、行ってしまうんですか!?」
冒険者ギルドに旅をするという報告をしたら、当のギルド側が驚いて全力で引き留めに来たのだ。
とはいえアルザの決意は変わらない。彼女は懇切丁寧に町を離れる理由を伝え、それでギルド側もあきらめたらしい。その実力は怪我が治った今なら英傑と肩を並べるのは間違いなく、だからこそギルド側としても残念だと感じたことだろう。
「さて、それじゃあ行こっか」
と、アルザは陽気に告げる……が、ここで一つはっきりしておかなければならないことがあった。
「アルザ、確認だけど」
「うん」
「旅費はどうする?」
「……そこは、もちろん私の分は私が出すよ。資金集めといっても私はあくまで同行する身。面倒見てもらおうとは思ってない」
「そうか。アルザがそう言うのも理解はできる……が、少しやり方を変えようかと」
「どういうこと?」
「旅費は俺の方が出す。資金的に余裕もあるし、アルザがいれば大きい仕事も受けられるからな。その代わり、仕事を受ける方針とかは俺が決める」
「ふむ、私は雇われ的な立ち位置ってこと?」
「そういう感じになるな。その方がわかりやすいし、いちいちそっちから旅費の精算をしなくて済む。面倒がなくなるからな」
「……私はディアスさんの方針に従うつもりでいたし、それでいいよ」
「なら、そういう感じで」
今後のことについては決まったが……ここでアルザが一つ尋ねる。
「大きい仕事というけど、具体的には?」
「魔物討伐とかだな。さすがに魔王との戦いくらいに大規模なものはないにしても、魔物自体は出現し続けているわけで、道中で仕事の一つや二つありそうだし」
当てずっぽうで言っているわけではない。これまでミリアと共に旅をする中で、魔物討伐で結構規模の大きい戦いがあったというのを知っているためだ。
これが魔王との戦いに関連するかどうかは不明なのだが、ミリアは「もしかすると」という可能性を提示した。俺としてはどういう理屈にせよ、放っておくことはできないのでそうした出来事に遭遇したら戦うと決めていた。それに、報酬そのものもよさそうだし。
「そういうわけで、仕事をすることになったら前衛を頼むぞ」
「ん、わかった」
「その場合私はどうすれば?」
ミリアが問い掛けてくる。彼女もまた剣で戦うので、
「んー、そうだな。前衛についてはアルザがいればなんとかなりそうだし、俺の補助を頼もうかな」
「補助?」
「いくら無詠唱魔法によって強化するとはいえ、隙が出ないわけじゃない。そして俺の能力は戦況を観察することによって真価を発揮する……よって、戦場では単独行動よりも、誰かと一緒にいて援護してもらった方がありがたい」
「それを私が、ということか」
「強化魔法がミリアにもちゃんと機能することは前の戦いで確認しているし、適任だと思うだけどどうだ? まあ護衛対象というわけでもあるし、本来ならこうやってお願いするのは変だけど」
「私は構わないわ。よろしく」
あっさりと同意してくれた。彼女としてはここまで平穏無事に旅ができていることに対するお礼、って感じだろうか。
ともあれ、三人パーティーとして形にはなったかな。今後仕事をする上で状況に応じて立ち回りは変えればいいだろうし、そこは俺が上手く回していけばいいだろう。
「というわけで、いざ南へ……アルザ、ミリアの護衛任務が終われば目的地とかはなくなるんだけど、行きたいところとかはあるか?」
「ううん、特に」
「わかった。なら次の目的地も考えておくよ」
そんな会話をしながら旅を続ける。まあ魔物討伐といった大きい仕事の具体例は示したが……実際のところ、旅をしていて遭遇するかどうかは運次第だ。
魔物の出現が活発であったのは事実。これは魔族討伐の際に予測した魔王の策かもしれないけど……それも次第に沈静化していくことだろう。
よって大きい仕事と出会う可能性は日が経つごとに低くなっていく……と俺は予想していたのだが、それは悪い意味で覆されることとなった――
アルザを仲間に加えて旅を始め五日目。なんとなく立ち寄った冒険者ギルドで、魔物討伐の仕事が確認できた。
「周辺にいる冒険者なんかも駆り出されているらしいな」
「それだけ大規模みたい」
「ミリア、これも魔王と関係しているのか?」
「わからないけど……確率がゼロとは言えないわね」
あるいは、他に何かやろうとしている存在がいるのか……? 疑問はあったが当然放置はしておけない。よって俺はアルザやミリアと協議をして、魔物討伐に参加することを決めたのだった。




