元団員
シュウラと別れて俺はミリアと共に旅を続ける……のだが、その中で立ち寄った町で一つ思い出したことがあったため、彼女へ提案した。
「この町に少し滞在してもいいか?」
「何かあるの?」
「俺が所属していた戦士団の元団員がいるんだ」
しかもその人物は先輩に当たる。軽く説明をするとミリアは快諾し、その人物が住む場所へと足を向けることにする。
「ねえ、戦士団を抜けた人というのは、多いのかしら?」
雑談のつもりか彼女が問い掛けてくる。それに対し、
「魔族と本格的に戦うようになってからは危険すぎて付き合いきれない、とばかりに辞めた人も結構いたな」
「報酬は多いだろうけど、やっぱり命に関わるからね……」
「そういうこと。最終的に命を賭して魔族と戦い続ける人間だけが残った」
「あなたもそう?」
「俺は……あー、そう言われると微妙ではあるな」
「というと?」
彼女は問い返したのだが、それよりも先に目的地へ到着してしまったので雑談は中断となった。
そこは小さな雑貨店。店内に入ると、掃除をしている男性店主がいた。
「お、いらっしゃ――」
と、言いかけて俺だと気付いたらしい。
「おお、ディアスじゃねえか!」
「久しぶり、ノクアさん」
――その人物は、ずいぶん腹の出た中年男性。黒い髪はどこかボサボサではあるが、ふくよかな体格であるためか妙に愛嬌がある。
「町まで来たから立ち寄ったんだ。繁盛してる?」
「そこそこだな。ま、どうにか食ってはいけているな」
俺は店内を見回す。確かノクアは結婚していたはずで――
「ああ、妻なら買い出しに行っているよ。店番を頼まれてなあ。やることもないから掃除をしていたんだ」
「そっか」
「おお、俺の耳にも入っているぜ。魔王を倒したんだってなあ」
ニカッとノクアは笑う。それで俺も笑みを浮かべ、
「まあ、どうにか……文字通りの死闘だったけど」
「その中でディアスも相当貢献したみたいじゃないか」
「……何やら詳細を知っていそうな雰囲気だけど」
「元、という肩書きでも俺を頼ってくる冒険者はいるからな。色々と情報をもらったりしている。時にはコネを使って助力とかも」
「助力……?」
「人に紹介したりとか、お前ら戦士団を援護するために呼び掛けたり」
……俺の知らないところで、色々と手助けしてもらっていたみたいだ。
「それは、ありがとう。でも、ノクアさんは戦士団を抜けたのに申し訳ないな」
「馬鹿言え、俺の場合は負傷した結果だろ? 戦士団に少しでも貢献したくて色々やっていたまでだ。こちらが好き勝手にやっていただけだし、気にすんな」
と、ここでノクアは俺の後方にいるミリアに気付いたらしい。
「そっちは誰だ? 団員か?」
「あ、えっと……実を言うと俺も戦士団を抜けたんだ。それで今は彼女の護衛役として南へ向かっているところ」
その言葉で……ノクアは目を丸くした。
「抜けた!? 何でまた?」
……どうやって説明しようか。彼は戦士団に所属していた時に世話になった人ではあるし、本当のことを言うべきだろうか?
少し沈黙してしまったのだが、それでどうやらノクアは理解したらしい。すると一転、どこか納得するような顔を見せた。
「ああ、なるほどな。だからか」
「……だから?」
「数日前に、冒険者ギルドを介して連絡がきたんだ。ミルドさんが『暁の扉』にやっていた支援を打ち切るって」
ミルド、というのはこちらもノクアと同様に『暁の扉』に所属していた戦士なのだが、
「支援って……」
「事務員を派遣するとか、あるいは糧食の手配をするとか」
「ああ、そういうこともやっていたのか……」
「ディアスは全然関わっていそうにないな」
「俺はずっと一団員だったからな……古参だし役職についてもおかしくなかったけど……セリーナとかが俺が出てきたら面倒になると考え、団の運営については触らせなかったんじゃないか?」
まあ俺自身、自分が強くなるために必死だったからそれでも良かったのだが……。
「それで、支援を打ち切ったのは……」
「ディアスのことを知ってだな」
「俺?」
「前々からロイドとセリーナ……二人がディアスのことを快く思っていないのは噂に上っていたからな。たぶん無理矢理辞めさせたのを知って、ミルドは怒ったんじゃないか?」
ああ、うん、なるほど……古参の俺に対する仕打ちを見て、納得がいかないって感じか。
「ただディアス自身は、特に気にしていないみたいだな」
「俺がいると邪魔になるだろうなー、とは思ったからな。これをきっかけに自分探しの旅でもしようかと思って、個人的には割と円満だと思うんだが……」
「さすがに理由が理由だけに円満ではないだろ……まあ、そういうわけで『暁の扉』に関わっていた元団員とかは、納得がいかないということで反発しているわけだ」
何かフォローした方がいいのかなあ……などと考えていると、ノクアは俺へ向けさらに発言した。




