幕間:英傑の考え
「……やれやれ、ですね」
シュウラは決闘の場所から進路を北へ向け、街道を進んでいく。そして歩きながら、改めてディアスという人物のことを考えていた。
「やはり、自分のことに無頓着と言いますか……」
苦笑しながらシュウラは『久遠の英傑』と呼ばれた彼のプロフィールを思い出す。確かに彼自身が言うように、その能力は支援に特化しており、単独で高位魔族と戦える『六大英傑』と比べれば見劣りするかもしれない。
だが、先ほどの戦いぶり――魔法の威力などを考えればシュウラに分はあった。魔力量などを踏まえてもディアスに特筆した点はない。けれど、
「強化魔法の技術……それについては、他の追随を許さない能力となっていますね」
多数の魔法をかいくぐり、懐に潜り込まれた光景を思い返す。彼自身は支援を得意としているが――いくらでも応用は効く。
「ディアスさんがどれほどの強化魔法を扱えるか、判然としませんが……確実に言えることが一つありますね……間違いなく、あの人は魔王に対抗できる手段を持っていた」
なぜそう断言できるのか――シュウラは魔王との戦いの際、見たことが関係している。とはいえそれを誰かに吹聴する気はなかった。そもそもその事実を深掘りしたからと言って、何があるわけでもない。
「とはいえ……」
知識欲がうずく。ディアスは、間違いなく魔王に対抗できる手段を持ち――なおかつ、何かを隠している。
ただ真正面から戦ってみてその秘密が人間の害になるようなものではないとシュウラは直感していた。だから放置しても問題はない――のだが、興味はそそられる。
「本来なら、旅をするあの人に干渉する必要性はないのですが……」
呟くと、シュウラは天を仰いだ。興味に加え、ディアスが『暁の扉』を抜けた影響。それを鑑みると、彼は再び表舞台に上がってくる可能性がある。
「そうなってしまった場合に備えて、色々と手を打っておくべきですし……その過程で、偶然知ってしまう可能性だってあるかもしれませんね」
――隠れた真実が知りたいだけだろ、とこの場にディアスがいたら言われることだろう。それに、面と向かって話をすれば案外話してくれるかもしれない。
「ま、いいでしょう……今はひとまず、問題を片付けますか」
そう呟いて街道を進む。目先の問題としてはディアスが抜けた穴によって、戦士団に問題が生じていること。
「あの人がまだ現役だったからこそ、助力しようと動いていた元勇者なんかがいたくらいですからね……その影響下で、ずいぶんときな臭くなっているんですよね」
場合によっては、戦士団間で戦闘が起きるかもしれない。これはあくまで最悪の可能性だが、一度戦士団同士が険悪になってしまえば、どうなるか――血の気が多い人間が多い集まりだ。どうなるのか予想もつかない。
「最大の問題はセリーナですね。団員の脱退に加えて、目先のトラブル……彼女の頭が沸点を超える可能性は十二分にありますし、それによって他の戦士団に喧嘩を売ることだってありそうですし」
元々『六大英傑』は癖の強い人間の集まりだった。自分の能力によって我を通すことを優先する人間もいて、セリーナは間違いなくその筆頭だ。
没落した家柄を再興させるという明確な目標があるにしても、そのやり方はかなり強引で、トラブルが多かった。ディアスやロイドがそれを仲裁していたわけだが、片方がいなくなったことで、既に問題が生まれている。
「戦闘に絡むことなら、彼女の実力で如何様にもできますが……これからは政争だって絡んでくる。果たしてセリーナは望むものを手に入れられるのか……」
もしセリーナが政治的に敗北したのならば、戦士団だってどうなるかわからない――
「はあ、なぜ私が他の戦士団に気を遣わなければ……と、言いたいところですが……無関係とは、いかないでしょうね」
シュウラは最悪のケースを想像する。現在保有している情報を基にして、ありとあらゆる可能性を頭の中に浮かべ、
「……最悪、戦士団崩壊でしょうか」
それは『暁の扉』だけではない。下手をすると『黒の翼』だって巻き込まれる可能性がある。
「その中心はセリーナ……あるいは『暁の扉』という戦士団そのものか……巻き込まれないよう距離を置くのか、それともむしろ関わって崩壊を防ぐべく尽力するのか……これは一度、団長と相談しなければなりませんね」
想像する内容は、彼にとってもため息がつきたくなるような惨状。だがそれでも、シュウラの口の端にはわずかだが笑みがあった。
「……まあ、乗りかかった船です。ディアスさんのこともありますし、頑張りますか」
せめて、彼が何も気にせず旅ができるようには――なぜそんな風に思うのか。
それは極めてシンプルな理由だった。魔王との戦いでディアスに――命を助けられた恩があるからだった。




