魔法の応酬
シュウラは俺が一気に接近したため、選択に迫られた。距離を置くのか、それとも魔法を使って無理矢理にでも俺を吹き飛ばすか。
こちらが迫る以上、決断の猶予はほとんどない……シュウラは後退を選択した。同時に左手をかざすと青い光弾を生みだし、放つ。
俺はそれを見て目論見を即座に察した。光弾に秘められた魔力には、明らかに冷気が宿っている。杖で弾くかすれば、途端に氷が弾け俺の体を凍らせる……いや、氷を体につけるだけでも動きが鈍るはずだ。そうした目論見によって、シュウラはこの魔法を選択した。
それに対し俺は……杖を振る。先端に魔力込め、青い光弾に触れた矢先――パアン! と弾けた音がした。
シュウラはそれで瞠目した。魔力を完璧に相殺し、氷が生まれるのを防いだ……俺はさらに前へと出る。後退する相手よりも速く、間合いを詰めて終わらせようとする。
だがシュウラも黙ってはいない、即座に新たな魔法……光の槍を生み出した。それは俺を左右から囲むように形成しており、着弾しても衝撃が自分には届かない……そういう意図があるようだった。
迫れば魔法が直撃する。もし突っ込めばこちらもただでは済まない――はずだが、俺は無視して突撃する。シュウラはすかさず魔法を放ち、光の槍が俺へと迫る。
刹那、今度は俺の周囲に光の矢が生まれた。無詠唱魔法により、俺が生み出した多数の光が、一挙にシュウラの魔法と激突。周囲が光によって満たされる。
――シュウラからすれば、それは光の槍の魔力を削ぐための役割だと考えたことだろう。もちろん魔力を削り勢いを殺す意味合いもあるが、実際の理由はそれだけではない。
閃光が周囲を包み、魔力が満ちる……その中で俺はシュウラの魔法がどこにあるかを理解し、強化魔法を駆使して槍の軌道を読んで回避に転じた。シュウラへ迫りながら体をひねって槍を避ける……視界は効かず、魔力が拡散する状況下ではあったが、相手に俺の動きを悟らせないため、こっちは魔法を使った。
その目論見は……見事成功し、槍は俺の体をすり抜け地面に着弾する。轟音が響き、視界がなおも効かない中で、俺はとうとうシュウラの間近に迫る。杖をかざし、光が途切れ相手が俺の目を見て腕輪をかざそうとする中で……握りしめる杖の先端を、シュウラの首筋に突きつけた。
「……これが剣なら、勝利って言いたいところだが」
杖を向けたままシュウラへ告げる。
「杖の場合はどうだ?」
「微妙ですが……策略という点から考えても、私の負けで構いませんよ」
両手を挙げて降参の意を示すシュウラ。それでこちらも杖を引き……決闘は俺の勝ちとなった。
「やれやれ、これでは『六大英傑』の称号も形無しですね」
「偶然だよ。たぶん同じように決闘をやったら、俺が連戦連敗さ。そもそも魔法の出力ではどうあがいても勝てないんだ。無理矢理接近戦に持ち込んでどうにか勝ちを拾ったといったところじゃないか」
「……勝ったというのに、私の方が上だった宣言するのは大層奇妙ですね」
笑うシュウラ。とはいえ、彼はどこか晴れ晴れとした表情で、
「まあいいでしょう。お互い、本当の意味で全力を出したとは言いがたいですが」
「なんだよ、俺がまだ何か隠していると?」
「実際、隠しているでしょう?」
シュウラの問いに俺は答えなかった……が、彼の頭の中では納得しているようで、
「さて、私としても納得がいく決闘でしたし、退散しますか」
「もういいのか?」
「ええ、あなたの実力も確認できましたし……ああ、アルザの件はよろしくお願いしますね」
「ああ……元気で」
シュウラはあっけなく立ち去る。それを見送っていると、ミリアが近寄ってきた。
「なんというか、無茶苦茶な戦いね……」
「そんなに派手ではなかっただろ?」
「見た目がどうこう言っているわけではないのよ……魔法を一度でも直撃したら、下手すると即死だったのでは?」
――それだけ互いに殺意が込められていた、という証左でもある。
「向こうがそれこそ全力だったんだ。それに応じるのは当然の話だ」
「……それで、あなたが勝ったと」
「勝ちを拾った、だな。シュウラはどうやら真っ向勝負を望んでいたみたいだからな。本来の策略……『策謀の魔眼』という異名通りなら、遙かに手の込んだ技法で俺を追い詰めていたはずだ。でも、シュウラは小細工なしの力勝負に出た」
だからこそ、俺は勝てた……という説明だったのだが、ミリアの目は「例えそうした戦略をとっても、勝てたのでは?」という疑念が宿っているように見えた。
「……まあいいわ。どういう風に言ってもあなたはきっとそんなことないと否定するでしょうし」
「どういう意味だ?」
「別に……さて、私達も行きましょうか」
「ん、そうだな。ただ道中でアルザに会うために寄り道をするから」
「ええ、わかったわ」
決闘も終わり、俺達は旅を再開する……が、歩き始めて俺はシュウラのことを考える。
本当に、勧誘と決闘が目的だったのか? ふと疑問を掠めたが……本人が立ち去ったため答えは出ない。よって、俺は思考をやめて歩き始めたのだった。




