レット42 予定通り
宮殿内を走るレットは、遭遇するアーキュナスの仲間たちから情報を得ながら、城館の二階へと駆け上っていた。
城館の一階は既にアーキュナスによって制圧されており、二階に着いてからも敵に遭遇することはなかった。
衛兵たちが大量に倒れており、それらの衛兵をアーキュナスと思われる連中が捕縛している。
「レット?」
『阿呆どもの胃袋亭』で顔見知りになった男に声をかけられた。
男は、腕に怪我をしているようだったが、軽傷なのか、見張り役を務めているようだった。
「国王とフェイレは?」
「その奥だ」
男が、血の飛び散った絨毯の先をあごで示した。
「さっきまで衛兵たちが邪魔で通れなかったからリナシェイクたちは迂回して行ったが、今ならこっちを通った方が早いはずだ」
「ありがとう」
礼を言い、その脇を通り過ぎた。
誰もいない部屋を駆け抜ける。どこかから、奇妙な高笑いが聞こえてきて、思わず眉を寄せる。
なんだ?
訝しく思いながら、続く部屋の扉を押し開けたその時――。
床に倒れ伏すフェイレの姿が、レットの瞳に飛び込んできた。
「フェイレっ!?」
なにが起きているのか、全くわからなかった。
「フェイレ、どうしたんだよっ!? 大丈夫か?」
駆け寄り、その体を抱き起こす。
ぐったりとしたその体はひどく重かった。全身を観察するが、ひどく出血している様子はない。
そっと首筋で脈を取ろうとして、そこに細い針のような物が刺さっていることに気づく。
「これは……」
ミアの真視のことがふいに甦った。もし、ミアが視た王族の暗殺。
それが王弟ではなくフェイレのことを差していたのだとしたら、という疑念が湧き上がる。
フェイレだって、王家の血を引いている、王子だ。
さあっと全身の血の気が引いた。
「おまえもその男の仲間かっ!」
突然投げかけられた声に振り返ると、レットが入って来た方とは別の扉の前に、リナシェイクたちアーキュナスの面々がいるのに気がついた。
その横から見知らぬ男が顔を覗かせて怒鳴っており、それがさっきの声の主のようだったが、とりあえずそんな男に構っている場合じゃなかった。
「リナ! いったいどうしたんだよ、これは。なんでこんなことに!?」
「レット、戻って来たのか……」
「イルナも近くにいる。俺たちはフェイレを王に戴くエウラルト王国のために戻ってきたんだ。なのになんで……」
「悪い。ちょっと手違いがあってな」
「手違い!? 手違いでどうしてこんなことになるんだよっ!? これじゃあ、なんのためにイルナが真視をしたのかわからないじゃないか……」
ぐっと喉が詰まる。レットは瞼を閉じたままのフェイレに視線を落とした。
すると、フェイレの瞼が、微かに震えたように見えた。
え、とレットは息を呑む。
続いて、喉がぴくりと動いた。
それに合わせて、首に刺さっている針も動く。この針を抜いた方がいいのか、触れない方がいいのか、レットには判断できなかった。
だが――。
「動いた……!?」
「そりゃあ動くだろうよ。昨夜のうちに、俺が毒針を回収しておいたんだからな。それはただの軽い痺れ薬だ」
リナシェイクが肩を竦めながら言う。
「なにっ!?」
ベラルトの顔が青ざめてゆくのが、レットのところからもわかった。
リナシェイクの言葉に動揺し、吹き矢の確認をしようとしたキャノアの腕を、リナシェイクが掴む。
「これは俺がもらうぜ」
「リナ!」
「おイタはここまでだ。キャノアのことは俺が責任をもつ。おまえらはベラルトを捕らえろ。全て予定通りだ」
「フェイレは?」
「言っただろう、ただ体がしびれて動けないだけだ。射られたフェイレに変化がなければ、キャノアは短剣を抜いて斬りかかっただろうからな。キャノアがここに来る可能性は低いと思ってたが、万が一にも面倒なことになんねえように、ちょっと仕込ませてもらっただけだ」
リナシェイクのその言葉を聞き、仲間たちは安堵したようだった。
一方、味方を失ったベラルトは手足をばたつかせて抵抗したが、あっという間に拘束され、連れてゆかれる。
「リナ、それ返してよぉ!」
「返せねえよ。ベラルトはお終いだ。おまえも諦めろ」
「嫌よぉ。あいつ放してあげてよぉ。約束してくれたんだからぁ」
「なにをだよ?」
「今回のアーキュナスの計画が失敗に終われば、わたしにリナをくれるって」
キャノアが、泣きそうな顔で告白した。




