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フェイレ5 対面

 衛兵を仲間に任せたフェイレは、とうとう国王の寝室の前にたどり着いていた。


 部屋の中は静かだった。

 既に逃げ出したあとなのか、それとも部屋の中で殺されているのか。


 腰に下げた剣の柄にそっと触れる。

 それは、七年前にトーリオから『阿呆どもの胃袋亭』へ送られてきたものだった。


 フェイレを預かる時、王太后から一緒に託された物だという手紙が添えられていたそれは、王家の紋の入った、立派な物だ。

 フェイレはすぐに人目につかない場所に隠し、以来今まで表に出すことは一度もなかった。


 国王は、果たしてこの剣のことを知っているだろうか。二十三年前に生まれた自分の息子のことを覚えているだろうか。


 フェイレはひとつ深呼吸してから、扉の取っ手を握った。

 一呼吸置いて、勢いよく扉を押し開ける。

 素早く室内に目を配った。


 広い一室は、外の喧騒とは隔離された別世界のように静まり返っている。

 その中に、ふたつの人影があった。


 ひとりは窓際に置かれた椅子にどっしりと腰掛け、胡乱な瞳でこちらを見る男。

 もうひとりはその男の近くに立ち、おびえたような視線をこちらへ向けている男。

 どちらが王かは、ひと目でわかった。


「な、何者だっ。ここは国王陛下の寝室であるぞ。速やかに出てゆけ!」


 立っている男が威嚇するように大きな声を張り上げるが、その声が裏返っている。


「早朝から王宮内を騒がせたお詫びに参りました」

「騒がせた、だと……? おまえ、まさか賊のっ……」


「俺の名はフェイレ・オル・エウラルト。父はそこにおられる国王陛下、母はアウレイシーア。俺はこの国の王子だ」


「お、王子とは、これまた……は、ははは。これはおかしい。どこからどう見ても、賊の頭領にしか見えぬ者が王子とは。だが戯言はどこか他でやってもらおうか。誰かっ! 誰かおらんのかっ! 曲者だ! 引っ捕らえよ!」


 男が叫ぶが、返事はない。

 リナシェイクたちが足止めをしているおかげだった。


「おかしいか? そうか。そうだろうな。なんせ殺したはずの王子がまだ生きているんだからな。宰相自ら殺せと指示を出したはずの、幻の王子がここにいるはずがない。船を襲い、喉を縊って風海に沈めたはずなのだからなぁ」


 フェイレはくくっ、と笑った。


「おまえっ、まだ戯けたことを……」

「証拠がない? だが、俺の仲間が生き証人を捕らえている。王弟暗殺未遂犯と、そいつにあんたからの命令を伝えた者。それからオラディム大臣に宛てた暗殺計画に関する直筆の手紙も入手している。どうやら、世の中そう上手くことは進まないようだ」

「王弟暗殺、未遂だと?」


 ベラルトの顔に驚きの表情が浮かぶ。


「未遂だ。俺の仲間がホセ様を無事保護している。新たな刺客が送られると困るので、こっそりと、な」

「虚言だ! 確かに成功したと……」

「報告があったか? あんたが命令したと認めるような物だが、いいのか?」

「オラディム大臣にも、今回の暗殺失敗の件は伝えてある。大臣はひどく衝撃を受け、自分の行動を後悔しておられるようだ。今後、二度とこのような野望を抱くことはないとはっきりおっしゃった」

「なっ……」


 ベラルトはあまりのことに言葉も出ないようだった。一度は真っ赤になった顔が、次第に青ざめる。  


「しかし全ておぬしが申しておるだけ。その言葉を安易に信じることは……」

「ベラルト、もうよい。下がれ」


 ずっと黙ってフェイレとベラルトの会話を聞いていた王が、口を開いた。


「は。……っは?」


 ベラルトは反射的に返事をしたものの、なにを言われたのか理解できていないようだ。


「下がれと言っておる」

「し、しかしっ陛下を賊とふたりきりにするなどできませぬ」


 国王が煩わしそうに眉を顰める。

 ベラルトがぐっ、と声にならない声を漏らしたが、部屋を出て行くつもりはなさそうだった。


 フェイレとしても、ベラルトに逃げられたら、後々面倒になる。

 リナシェイクたちが来て、ベラルトの身柄を確保するまでは、居場所がわかる方が有り難かった。

 色々と本人の口から訊かなければならないことがある。


「俺は構いません。陛下に頼みたいことがあるのです。それさえ了承していただければ、すぐにこの部屋を出て行きます」


 フェイレの台詞を聞いて、国王が目を閉じた。


「譲位を求めるか」


 瞼を上げると同時に、低く、深い声で国王が問う。


「はい。俺……私が新たな国王になります」


 国王の目を真っ直ぐに見据えながら告げると、フェイレは剣帯から剣を抜き、胸の前に翳した。

 国王のいる場所からでも見えるはずだった。

 柄の根元に刻まれた、王家の紋章が。


 国王が、ひとつ、深々とうなずいた。そして口を開く。


 その時、小さく、風を切る音がフェイレの耳に届いた。


 国王の言葉を待っていたフェイレは、一瞬反応するのが遅れた。

 振り返ろうとした瞬間、ちくりとした痛みを首筋に感じる。


 なにが起こったのか、と視線をやると、部屋の入り口に、吹き筒を口に宛がっているキャノアの小柄な姿があった。

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