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イルナ2 白状

 ギュアンが薄く笑う。

 その顔は、もうおまえに自由はないと、そう宣告しているように見えた。

 そして実際に、部屋を見張られていては、イルナが部屋を抜け出すことは難しくなるだろう。


 けれど、それをやめさせる上手い理由が思い浮かばない。

 勝ち誇った表情で自分を見下ろすギュアンを前に、イルナは薄布の下で唇を噛む。


「さあ、部屋まで送ってやろう」

「結構よ!」


 イルナは思い切り腕を振って、ギュアンの手を振り解くと、その脇を早足で通り過ぎた。


「そうか。それじゃあ、俺はあの男の尋問でもするとするか」


 背中に投げかけられたその言葉に、イルナは思わず足を止めた。


「尋問!? どういうこと? 男衆が尋問することは許可されてないでしょ? 尋問するかどうかを判断するのは町のお役人の仕事のはずじゃない」

「ただし村に甚大な被害を与えた罪人に対しては、男衆による尋問が許可されている」

「甚大な被害って……。彼は何もしてないでしょ」

「おまえを攫おうとしただろう。村の乙女を連れ去ることが重罪でなくてなんだと言うんだ」

「それはっ……」


 確かに、真視の乙女を誘拐するのは重罪だ。けれどレットは違う。

 これ以上自分の我が儘に彼をつき合わせるわけにはいかない、とイルナは判断した。


「それは?」

「それは……誤解よ。彼はなにもしていないわ。わたしがひとりで村を抜け出して、あの場所に行ったの。あそこの木の上からは、海がとてもきれいに見えるの。実は……これまでにも、時々行ってたの。彼は、木から落ちたわたしを助けてくれただけよ。だから、彼に尋問なんてやめて」


 イルナは全てを素直に白状した。これで、もう二度とあの木に登ることはできなくなるかもしれない。 

 それでも、レットに怪我をさせてまでささやかな自由を守りたいとは思わなかった。

 そんなイルナを、ギュアンが困ったような顔で見ている。


「イルナ。おまえが優しいことは知っている」

「……ギュアン?」


 ひどく叱られると思ったのに、なにやら様子がおかしい。イルナはおそるおそるギュアンの名を呼んだ。


「あいつを庇ってやろうというんだろう。だが、今後同じようなことをしようとする輩が出てこないよう、あいつは厳重に処罰する必要があるんだ」


 イルナは驚きに目を瞠った。まさか、そんな風に捉えられるとは思ってもみなかったのだ。


「違うの。庇ってるんじゃない。これが真実よ」

「そう言えと命令されたのか。脅されたのか?」

「違うってば。そうじゃない」

「いいんだ。わかってる。おまえが木に登れるわけがない」

「ちっともわかってないじゃない! わたしは木にだって登れるのよ。ティルシャがいれば、わたしはなんだってできるんだから!」

「そこまで必死にあいつを庇う理由はなんだ? あいつ……イルナを誑かすとは、許せん!」

「ギュアン!!」


 イルナは悲鳴にも似た声で呼びかける。

 どうしてわかってくれないのか。

 イルナはもどかしさに歯噛みした。

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