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イルナ1 詰問

 イルナは肩に白豆栗鼠のティルシャを乗せて、林の中を駆けていた。

 男衆に見つかって、レットと話していたことがばれたら、イルナの監視が厳しくなる。

 そうなったらレットを助けることができなくなるし、ホークのことも……。


 イルナは新緑色の瞳をした、レットの姿を思い出す。

 すっかり忘れていたけれど、亜麻色の髪の、飄々としたあの少年とも七年前に会っているはずなのだ。

 自分を助けてくれたホークは金髪碧眼の少年だった。

 そういえばその横に顔色のよくない少年がいたような気がする。一緒に溺れたのだ、とレットは言っていた。


 チチッとティルシャの鳴き声が聞こえて、イルナははっと意識を前方に向けた。

 木の陰に、人の姿がちらりと見えた。

 速度を落とし呼吸を整えながら、イルナはゆっくりと歩き始める。木陰から現れたのは、男衆の隊長を務めているギュアンだった。

 先ほどレットを即座に捕らえる指示を出したのも、このギュアンだ。


「こんなところでなにをしてるの?」

「それはこっちの台詞だ」


 ギュアンの鋭い視線にたじろいではいけない。ささやかな表情の変化すら見逃すまいとするギュアンは難敵だった。

 けれど、顔を覆い隠す薄布がイルナの味方になってくれる。


「散歩をしていただけよ」

「それにしては薄布が乱れているな」


 ギュアンはたった数歩でイルナのすぐ傍までやって来る。

 ギュアンは背が高いので、小柄なイルナの頭は彼の鳩尾くらいまでしか届かない。

 普段から体を鍛えていて体格がいいので、近づかれるとかなり迫力がある。

 特にギュアンが怒っている時などは、とても怖い。

 思わずイルナが後退ると、その手をぐいと掴まれた。


「なにするの、ギュアン!」


 シャシャシャッとティルシャがギュアンを威嚇するが、小さなティルシャの威嚇などギュアンには効かない。


「あの男は何者だ?」

「あの男――って、誰のこと?」

「しらばっくれるな、イルナ。俺を誤魔化せると思っているのか?」

「誤魔化すなんて……」


 ギュアンに掴まれた手首が痛い。


「あいつになにを吹き込まれた? 何故あいつとふたりで村の外にいたんだ」

「ギュアン、痛い。離して」

「イルナ!」

「なにも吹き込まれてなんてない。悪いけど、わたし、歩き疲れたから早く帰りたいの」


 イルナは閉塞的な村に飽き飽きしていて、時々こっそりと村を抜け出しては近隣を散歩している。

 今日も、たまたま散歩に出て、たまたま木に登って景色を眺めていたら、たまたまレットが通りかかり、たまたまその時に枝が折れたのだ。 


 その段階でレットが命の恩人の弟だとわかっていたわけではないし、その散歩に息抜き以上の理由などなかった。


 レットのことも、ただ木から落ちた自分を受け止めてくれた人という認識でしかなかった。

 レットがホークの弟だと知るまでは。イルナの恩人であるホークが行方不明だと知るまでは――。

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