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レット3 邂逅

「わかった? わかったのなら、大人しくしてて。男衆がやってくるかもしれないけど、何も言っちゃだめだからね。罪人は数日のうちに麓の町に送られて、そこで裁きを受けることになる。でもあなたは明日の朝にはここからいなくなるんだもの、そんなの関係ないでしょ。だから、脅されたって気にしないで」


「気にしないでって、気にせずにいられるわけないだろ。それに、そもそも俺は罪人じゃ

ないんだし」

「つべこべ言わないの!」


 ぴしゃりと言い放たれ、レットはぱくぱくと口を動かしたけれど、結局何も言わずに長い息を漏らすに留めた。


 何故こんなことに、と自分の運命を呪いたくなる。


「じゃあ、またあとでね」


 少女の足音が遠ざかってゆく。

 チチッと白豆栗鼠が鳴いたかと思うと、小さな体にしては大ぶりな尾を振って壁と床の継ぎ目にできた穴から外に出てゆく。


「なんでだよ……。七年前はちゃんと視てくれたはずなのに……」


 レットは呟くと、再び壁にもたれかかった。  


 七年前にも一度、レットはこの村を訪れている。

 その時、真実を視てもらったのは父で、レットは兄と一緒に父の供としてやって来た。

 父は確かに、真実を教えてもらったと言っていた。

 父は一介の商人で、そんな父が知りたがったのが、国の大事に関わることだとは到底思えない。

 いつの間に、そんな決まりができていたのだろう。レットは何度目かわからない溜め息をついた。


「ねえ、今、七年前って言った?」


 去ったはずの少女の声がすぐ後ろで聞こえ、レットはぎょっとして壁から肩を離す。


「え!? 君、帰ったんじゃなかったのか?」 

「七年前に、ここに来たの?」


 レットの問いかけには答えず、少女が重ねて訊く。


「そうだけど……」

「わたしはイルナ。ねえ、あなたの名前は?」

「俺? 俺はレット・イリコルア」

「イリコルア!? まさか、ホーク・イリコルアさまのご血縁!?」

「兄さんのことを知ってるのか?」

「もちろんよ。あなたも一緒に来ていたのなら覚えていない? 川で溺れたわたしを、ホークさまが助けて下さったのよ」


 レットは息を呑んだ。川で溺れていた少女のことは、覚えている。


「確か俺も一緒に溺れたんだよな。俺はそのあとひどい熱を出して、その時のことはあまり覚えていないんだけど、ホークが……兄さんが俺たちを助けてくれたって聞いた」

「そう、そうなの! なんて偶然なの。まさかあなたがホークさまの弟だなんて! ホークさまはお元気?」


 興奮のためか、イルナの声が大きくなる。

 レットも、この少女があの時の女の子だということに驚いていた。けれど、それと同時にこれはついているかもしれない、という思いが湧く。


「俺がここに来たのには、その兄のことが大きく関係しているんだ」

「どういうこと……?」


 イルナの声に不安そうな色が滲む。


「三年前、兄さんが乗っていた舟が航海中に沈んだ。以来、俺も父さんも必死に兄さんを捜したけれど、未だ行方不明のままなんだ。ザックの町で兄さんに似た人を見かけたという話を聞いて調べたこともあったけれど、結局見つからなかった」

「そんな……行方不明だなんて……」


 さっきまでの興奮がまるで嘘だったかのように、沈んだ声でイルナが呟く。


「俺は兄さんを捜してる。ここには、兄さんの行方を教えてもらうために来たんだ。だから、君も協力してくれないかな?」


 レットはありったけの気持ちを込めて、イルナに頼んだ。

 しかしイルナは黙したまま答えない。悩んでいるのかもしれない。


「頼むよ――」


 レットが倉の中からイルナに向かって壁越しに頭を下げたそのとき、チチチッと白豆栗鼠の鳴き声がした。

 直後、こちらに近づいて来る複数の足音が聞こえた。


「誰かいるのかっ!」


 男衆の声だった。   


「ごめん、あとでね」

「あっ、ちょっとっ……」


 イルナは短く告げると、レットが呼び止める声を無視してそのまま走り去った。


「あとで、って……」


 レットは呆然として壁を眺める。

 結局、問題は何も解決していないことに気づいたレットは、長々と息を吐き出し、がっくりと肩を落とすのだった。

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