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雷鳴
「明日の夕刻には本隊がアルフォ峠に到着する予定です」
豪奢な部屋の中、ひと目で最高級品であるとわかる樫の執務机の前に立つ恰幅のよい男に、軍の制服を身にまとった男が告げる。
「そうか。では明日の夜、計画を実行に移せ」
「はっ」
下された命令に短く応えた軍服の男は敬礼をすると、機敏な動きで体の向きを変え、部屋を出て行った。
部屋にひとり残された男は顔を歪めた。いや、彼は濁ったその目を細め、笑っているのだった。
「くくく。いよいよだ、いよいよその時が訪れるのだ」
突如、窓の外が光ったかと思うと、轟音が鳴り響いた。
遅れてばらばらと降り始めた雨が窓を叩く。
男が外へ目を向けると、雷の光が絶え間なく大陸を照らしていた。びりびりと空気を揺らす大きな音が轟く。
いつの間にか、大陸は雲に呑まれていた。灰色に濁った雲に包まれて、ひどく視界が悪い。
兵は雨に慣れていないので少々進軍の速度が落ちるかもしれない。しかし、雲の中に在れば、何事も露見し難い。
ことを成すにはその方が都合がよいのだ。
明日の夜も大陸に雲が満ちることを祈ろう。
稲光を見ながら、男はいつまでも笑い続けていた。




