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レット29 タルーナ

 タルーナは港町ザックから内陸へと馬を走らせて二日ほどの所にある。

 エウラルト王国内の主要街道が交わる場所にあり、様々な人や物がこの街を通り過ぎてゆく。


 タルーナの街は中央に大きな広場があり、そこから放射状に通りが造られている。

 中央の大広場では、毎朝開かれる朝市や週に一度開かれる週市以外に、半年に一度、エウラルト王国内の六つの都市が持ち回りで開催している大市が開かれることもある。


 大市の時期には、街をあげてのお祭り騒ぎとなり、開催期間中は朝から晩までとてもにぎやかだ。


「ここが、レットの住んでいる街……」


 レットの隣を歩くイルナの肩の上で少々窮屈そうにしながら、最近成長著しいティルシャがきょろきょろと周囲に視線を向けている。


 夜通し駆ければ丸一日ほどで着くところだが、一頭の馬にふたりで乗ってきたので速度をあまり出せず、更に馬を休ませる回数がどうしても増えてしまい、タルーナへ着いたのは翌日の昼だった。


「もうちょっと早かったら朝市を見せられたんだけど」


 馬を引きながら、相変わらず間が悪い自分に自分でがっかりする。


「今度、ゆっくりできる時間がある時に案内してよ。楽しみにしてるから」

「そうだな」


 地元に戻って来たことで気持ちが緩んでしまっていたのかもしれない。気を引き締めて、家を目指す。


 レットの家はタルーナの北部にある。

 主要な通りはどこも石畳が敷かれていて、立ち並ぶ白壁の建物も美しく、初めてタルーナを訪れる人には驚かれることも多い。

 中央広場の、天高く聳え立つ真っ白な大鐘楼も、タルーナの誇る建築物のひとつだ。


 けれど今はできるだけ人通りの少ない裏通りを進む。

 地元だけあって顔見知りが多いので、目立つのは避けたかった。


「大きくてきれいで、素敵な街ね。わたしもこんな街に住みたいな」

「うん、まあね。でも、最近は商船に乗って出かけることが多くて、俺はあまりこっちにはいないんだけど」


「商船でどこへ行くの?」

「ニイエル公国が多いかな。あちらは農業が盛んだから、うちの工芸品と取引してもらってる」  

「ニイエル公国――かぁ」


 イルナがぽつりと呟く。

 フェイレはレットたちにニイエル公国へ行けと言った。確かに、このまま国内に留まっていたら、捕まるのは時間の問題かもしれない。


 けれどこのまま逃げてもいいのか、レットは迷っていた。

 真視の乙女を、合意の上とはいえ村から連れ出してしまったのは事実なのだ。

 男衆に囚われた時点では冤罪だったけれど、今となってはその言い訳は通用しないだろう。


 イルナに残された自由な時間は限られている。

 時が来たら、イルナはその能力を使い果たすか、村に戻るかしなければならないのだ。


 一度、イルナときちんと話し合う必要がある、とレットは思う。

 家に着いたら、多少はゆっくり話ができるかもしれない。


 それに、両親にも訊きたいことがある。どうしても確認しておかなければならないことが。


 レットは足を速めた。家はもうすぐそこだった。 

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