レット27 次の王
「挨拶がまだだったな。俺の名はフェイレ・オル・エウラルト。カティが死んだ今、国王の血を引く子どもは俺しかいない。俺が、次の王だ」
ローブを被った男が、堂々と名乗る。掠れているものの、その声は力強く、自信に溢れていた。
「ホーク……じゃないのか?」
フェイレはローブのフードを脱がない。
「それは誰だ? それより、助けてやったのに礼もなしか?」
「でもあれはっ……」
「まあ、俺が勝手にやったことには違いない。別に礼の言葉をもらったところで嬉しくもないがな」
フードの下から僅かにのぞいている口を歪め、フェイレが興味なさそうに言う。
あっさりと引かれたことに驚きつつ、レットは慌てて「感謝している」という言葉を喉の置くから搾り出した。
ふん、とフェイレは鼻を鳴らし、外から差し込む光のため明るくなり始めた教会の中をぐるりと見渡した。
「もうすぐここに王国軍の連中が来る」
「はぁっ?」
なんでもないことのように告げられた男の台詞に、リナシェイクが眉間に皺を寄せる。
「連中が案外しつこくてな。だったらここに誘い込んで、この教会ごと潰した方が早い」
「だがこっちにはふたりが……」
「こいつらは先に逃がす。ヒュムは火薬の準備、キャノアは外の様子を確認、リナは思う存分戦え」
「了解」
三人は躊躇うことなく応えると、素早く動き始めた。
「おまえたちがこれからどうするつもりかは知らない。だが、俺たちは俺たちの命をかけてこの国を変える為に戦う。なんとしても、戦争を回避してみせる。だから、これ以上おまえたちの面倒を見てやる余裕はない」
フェイレがレットの方へ顔を向けて、冷酷に告げる。
「わかってる」
レットは目を伏せ、うなずいた。
リナシェイクたちを頼れないのは、正直辛い。
戦闘になった時、自分だけでイルナを守るのはいかにも心もとない。けれどこれ以上ここにいても、なんの役にも立てないことは間違いない。
彼らの足を引っ張るだけだ。
「レット、わたしは貴方に知識を与えました。もう、無知を言い訳にはできません。貴方はそれらをふまえ、考えなければなりません。自らの求める世界の姿を。そして選択しなければならないのです。その世界へと続く道を」
ミアの声はいつも落ち着いていて、澄んでいて、彼女の言葉はすっと胸の奥深くまで入り込んでくる。
「そしてイルナ、貴方も考えなければなりません。自分が本当に求めていたのはなんなのか。そして自らの引き起こした騒動を、どのように収束させるのかを……」
「ごめんなさい、ミア」
イルナが唇を噛み、うつむく。
「いいえ、謝らないで、イルナ。わたしは貴方に期待したのです。貴方はきっと、鳥篭の中でじっとしていられる人ではないと。わたしの気持ちを理解してくれるだろうと。そして貴方はわたしの見込みどおりの子でした。多少、無謀がすぎるきらいがあるけれど、それでもわたしは嬉しかったのです。本当なら、けしかけてしまったわたしが最後まで面倒を見るべきなのだけれど……」
申し訳なさそうに話すミアの肩に、そっとフェイレが手を置いた。
「こいつらと一緒に行けばいい」
「フェイレ……」
「おまえはもう充分俺たちを助けてくれた。ここから先は、危険すぎる」
「行きません。言ったはずです、フェイレ。わたしは運命のその日まで貴方と共にあると」
「残念だ」
ミアの強い口調に、フェイレが肩を竦めた。




