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レット24 泉と軍備

 リナシェイクとキャノアが教会の中へと戻ってきたのは、窓に打ちつけられた板の隙間から見える空が白み始めた頃だった。


「仲間と連絡がついた。これから移動して合流する」


 リナシェイクが歩くと、腰に下げた剣が音を立てる。その後ろに、少し疲れた様子のキャノアの姿もある。


「仲間ってのは、地下組織アーキュナスの連中ってことでいいのか?」

「そうだ」

「そんな活動をしてるなんて、聞いてない」

「言ってないからな。偶々やって来ただけの、旧友の弟に話すようなことでもねえだろ」

「それはそうかもしれないけど……。いったいいつからなんだよ?」

「さあな。昔のことは忘れちまった」


 口の端を上げて、リナシェイクがとぼける。


「キャノアさんは?」  

「わたしも忘れちゃったわよぉ。成人する前だったのは間違いないけどぉ」


 肩をすくめながら話すキャノアの口調はいつもと変わらないけれど、いつも通りを敢えて意識しているようで、どこか不自然に感じられる。 


 エウラルト王国では、十八で成人とみなされる。

 キャノアは今年二十歳くらいだろう。つまり、

 二年以上は昔のことというわけだ。


「なんで、こんなことを?」

「不満で不安だからだよ。この国の未来が」

「未来?」

「ああそうだ。不穏な動きは随分と前からあった。だが近年益々ひどくなっている。おまえ、各地でレイフェーリアの泉が枯れてるっつー話を聞いたことがあるか?」


 レイフェーリアの泉というのは、遥か昔、レイフェーリアがナルヴィアの羽根で三つの大陸を創った際、大陸の各地に水を湧き上がらせたことによってできた泉のことだ。

 大陸に雨が降ることはあまりないので、泉はここに住む人々の命綱といってもよく、最低でもひとつの集落にひとつはある。

 正しく言うなら、泉のあるところに人々は集落を作った。


 創世の時より、一度も枯れたことのない聖女の泉。

 それがレイフェーリアの泉のはずだ。


 それなのに、枯れた? 


「まさか。そんな話、聞いたこともない」

「この辺りの泉はまだ無事だからな。だがラフル山脈から最も離れた場所――エウラルト大陸地図でエウラルト王国を上に、旧トリヴァース帝国領を下に描く時、上端にくる地方の沿岸部ではどんどん枯れ始めている。最初はひとつ。だが思い出したようにまたひとつ、更にひとつと枯れていくんだ。最初は十近い泉があった街でも、今残っている泉は数個だけっつー話もめずらしくはねえ」


「そんなに? いや、もしそれが事実なら、とっくに何らかの対策がとられているはずじゃないか」

「その対策が戦争なんだとよ。この国の泉が駄目なら、他国の泉を自分の物にすりゃあいいってのが国の考えらしい」

「そんなのおかしいよ! そんな身勝手な理由で、戦争なんて……」


 それまで黙って話を聞いていたイルナが、声を荒げる。


「俺たちもそう思う。普通に考えりゃ、なによりもまず原因究明と泉の復旧またはその代替となるような設備を整えることが必要だろう。その間に他国に援助を申し出る。だが国王は何をしたと思う? 枯れた泉を放置して軍備に金をつぎ込んだ」

「はぁ?」


 レットはあまりのことに言葉を失う。

 水がなければ、人は生きてゆけない。

 戦争を始めたところで、そう簡単に勝敗がつくとは思えない。

 戦争をしているあいだにも、泉がどんどん枯れつづければ、この国は戦争の結果を待たずして滅びる。


 軍備に金をかけているのは知っていた。

 けれどそれはあまり使用されないうちに老朽化してしまった軍艦や砦などの補修に使われているのだろうと、定期的に行われる事業の一環だろうと、レットはなんとなくそう考えていた。

 それがまさか、他国に自ら戦をふっかけるためのものだったとは。


「まあ、戦争なんてもんは、どれも身勝手なもんだろうさ。だが、今回はあまりにもひどい」

「それだけじゃないのよぉ。軍備のために無理な増税を始めたり、罪ともいえないこと――役人とすれ違う時に肩が触れたとか、そんな些細なことを罪だとして、強制的に徴兵したりするんだからぁ」


 リナシェイクの言葉の後に、キャノアが腹立たしそうに続ける。


「まさか……嘘だろ?」


 戦後三百三十三年、エウラルト王国は繁栄を続けてきた。

 国土は狭いながらも多くの鉱山を持ち、採れる鉄で様々な物を作ってはそれを輸出する。

 加工に関わる職人たちの技術は高く、芸術方面で才能を開花させる者も多かった。

 エウラルト王国は貿易大国で、これまでトリヴァース帝国、ニイエル公国とも上手くやってきていたはずだ。


 それがどうして――。


「全て事実です」  


 突如、投げ込まれた声があった。


「ミア!」


 いつの間にか、礼拝堂の奥へとつながる扉の前に、五十三番地の占い師ミアの姿があった。

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