イルナ4 山道
頻繁に村を抜け出しては歩き回っていたおかげで、イルナは村の周辺の地理には詳しかった。
麓によく出かける男衆から話を聞くこともあるし、村を出て行った知り合いからは手紙で色々と教えてもらった。
とりあえず、一刻も早く村から離れる必要がある。
イルナたちがいないことを知ったギュアンが後を追って来ることはわかりきっている。
追っ手はたぶん麓へと向かうだろう。
けれどイルナたちは下らず、更に山の上を目指していた。
そこに、洞窟の入り口があるのだ。
以前、ランフェル山を縦横無尽に走っているその洞窟を使えば、麓に近い場所まで出られるのだと知り合いに教えてもらったことがあり、イルナはそれをしっかりと覚えていた。
いつか役に立つ日がくると信じていたからだ。
そして今日、目の前にレットが現れた。
これが運命じゃなくて、なんだと言うのだろう。
イルナは村での日々を思った。
村には今、真視の乙女と呼ばれる少女が現在二十人ほどいる。
村で生まれる女の子はみな真視の能力を持っており、男の子は戦闘能力に優れている。真視の乙女は、ニール村にしか生まれないと言われている。
真視は占いなどと違って、はずれることがない。
ただし三回真視を行った少女はをの能力を失ってしまうので、あとは許嫁である男衆のもとに嫁いで静かに過ごすことになる。そして村の中で子を生み、育てる。
イルナにとってあと一度真実を視ることは、即ち婚約者であるギュアンに嫁ぐということだった。
けれど、このままあの村に閉じ込められて過ごすのは、イルナには耐えられなかった。
今連れ戻されれば、イルナの未来は決定する。
ホークのために能力を使いたいという気持ちに嘘はない。昔助けてもらった恩返しに、最後の一回の真視を彼のために使うのだ。
なんとしてもホークを見つけよう。
イルナは、そう決意していた。
日は既に随分と傾き、もう少しすれば山の向こうに沈んでしまうだろう。できれば、それまでに洞窟の入り口に着いておきたい。
レットとティルシャが一緒なのが、心強かった。
イルナは沈みゆく太陽に急かされるように、足を速めた。




