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三人の娘のお休み2


「新鮮な牛乳か、マーチも喜んでくれそうだな」


 嬉しそうに言いながら大通りを後にすると、彼女は人の気配を読みながら角や階段を駆け下りた。薄暗い空は既に青くなり、小鳥たちが朝の訪れを知らせ回り微かにだが人々が活動し始める気配がする。


「む」


 嫌な気配を読み取ったスヴィトラーナは足音を立てないように走り、角にあたると壁に背を付けた。

 横は下り階段で、この道は家までの近道だ。

 そっと様子を伺うと数人の男が気を失っている若い女性を抱えている。キョロキョロと様子を見ながら、その女性を蓑のような物で包もうとしているようだ。

 人攫いとはこれか、そう思いながらパッと見た男たちの姿に薄く笑みを浮かべながら牛乳瓶を置く。そして跳ねるようにドンッと音を立て、階段の上から飛躍した。

 愛用のガントレットが無いので、膝から落ちるように男たちの二人を巻き込む。乙女の膝を顎へ打ち込まれた事を知らないままに二人の男は気を失った。

 女性を抱えている所為で反応が遅れた男の頭を両手で包むように抱え、力を軽く入れその身体を持ち上げた後に前に落とし込む。

 骨の砕ける音がするが命を狩られるよりは良いだろう。

 スヴィトラーナはそう思いながらもう一人の男の右の肘を掴み、内側へとそれを持って行く。ガギッと骨の軋む音と一気に訪れた痛みに男が声を上げそうになるのを口元を抑える事で防いだ彼女は冷たく光る灰色の瞳をそのままに、その男の背負うように地面へと投げつけた。


「・・・さて、と」


 若い女性の様子を確かめ、目立つ外傷も何もない事を確認しスヴィトラーナは彼女をそっと階段へと座らせる。

 男たちの懐からナイフや剣を外し、女性を拘束する為に用意されていた蓑と縄を拾うと男たちをぐるりと蓑で囲い、縄を縛り付ける。

 とりあえずこれぐらいしておけば良いだろう。近くの家のドアを叩き、発見されるように促して彼女は階段を駆け上がった。

 朝食に牛乳は何としてでも間に合わせたいのだ。

 王都の衛兵などに取られる時間など皆無だ。




「で?どうしてそうやって考えも無しに飛び出したりなどしたの?本当に足りない頭で多少は考えてもよろしかったのですけれど?普通に貴方の足ならば大通りにいる兵士に頼んでしまってもよろしかったのに」


 白いふわふわのパンと、トマトとチキンの簡単な煮物はマザーが香辛料と香草が足らないと文句を言いながら仕上げ牛乳屋から貰った牛乳は温めて貰い食卓に並ぶ。

 アンジェラの言葉に何も表情を変えずにスヴィトラーナはもぐもぐとチキンの肉を頬張る。


「マーチがあまり殺すなと言うし、まあ顔は見られていない。何事も無いだろう」


「それ本気で言ってますの?」


 ギリリとアンジェラの持つフォークが音を立てるのを、そっと無視して鈴玉は白いパンを千切って口へ運ぶ。その視線の先にいる母が楽しそうな顔をしていたので軽く安堵しながら。


「それに、朝ご飯は家族皆で食べるのが決まりだ」


 そう言われてしまってはアンジェラは何も言えない。

 家訓は母が決めたものだ。

 温めた牛乳をアチアチと言いながら口につける鈴玉はトマト煮の汁をパンに浸すマザーへと視線をやった。

 着物風のドレスに身を包み、頭のてっぺんで一つに結わいた黒の髪はマザーが動く度にゆらゆらと揺れる。


「マーマは今日は何する予定?」


「んー?私はあれよ、エディッド様のお屋敷に行く予定よ。ああ、アンジェラ、こちらの行儀作法とかダンスとか違いが無いのか気にしていたでしょ?ちょっと通えないか聞いてくるわね。鈴玉はスヴィトラーナの事をちゃんと見ていてね。アンジェラは一人行動なんだから色々と気をつけるのよ?」


 一気に話す母親に慣れた様子で娘たちは相づちを打つ。

 朝食を終え、鈴玉とスヴィトラーナが連れ立って家を出て行った。

 アンジェラは残った食器を洗ってからいそいそと大きめのバッグに手入れをしたいナイフを入れてから「いってまいります」とマザーへ一言零してから出て行く。

 相変わらず酒屋の娘を強調するようなオフショルのトップスから正直溢れんばかりの胸を持つ貴族の令嬢のような彼女はきっと厄介事に巻き込まれるだろうな、とマザーは思いながらも手を振って送り出した。

 自分の娘ならばどうにかする筈だから何も気にする事はないが、そっと遊撃兵の隊長の事を思い出してふっと笑みを浮かべる。


「そうねえ、何か差し入れてあげましょうか」


 残った牛乳でミルク煮でも作ろうかしらと思いながら、マザーはキッチンへと向かった。


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