目覚まし
日当たりがいい部屋の一室の真ん中。
布団が一式あるがその中央は膨らんでいる。
「んー」
そっと闇の中で目を開ける。
「ん」
人でもわかるその臭いにくんと鼻を鳴らして脳裏になんの臭いか考える。考えるまでもなく美味しそうな和風の朝食の臭い。
つい二時間前に寝たが空腹には勝てず寝ぼけ眼で闇から外に出ようとする。だがそれでも体は動かず、逆に布団の中に潜る寝てすぐの襲ってくる眠気との戦いに理性は中々勝てない。
入り口に立ち、普段は寝起きのいい彼のそんな姿を目撃してしまったエンリィ。月見が買い与えて時を刻むしか使われたこともない目覚ましをセットして布団の中に投げ入れて出てきそうな出てきそうな場所を塞いでみる。
ーーじりりりりりり
「あぁあわあああ」
布団の中から悲鳴が聞こえて、布団を投げ、いや、蹴り飛ばして這い出してくる黒い人。
「あ、う」
痛そうに耳を塞ぎ、真っ黒い着物を乱して布団からタンスと壁の横の隙間に入ろうとする青年。
「落ち着きなさいって。良い大人なんだから」
のんびりと青年を止めて目覚ましを見せる。
「う?」
ぼさぼさの髪の毛に隠れた黒い瞳が不思議そうに目覚ましを見る。
「目覚ましよ」
北斗はそれを手に取り遊び始める。
「んー。んっ」
ーーじりりり
しかしまた鳴り始めると地面に落として威嚇を始める。
どうやら理解はしていても止め方は知らないらしい。
「うぅ」
エンリィは笑いながら止めれば、彼は胸を撫で下ろす。
上から下まで真っ黒に染まり、色があるとすれば胸元から覗く白いA4サイズのホワイトボードただ一つ。
後ろは肩まで前は目が隠れるぐらい長い髪。
今は寝起きのため寝癖でぼさぼさ。
髪の毛で表情は隠れているが安堵したせいかぼーっとした表情のまま、エンリィを見る。
この家に半居候で、長い間此処に住付いている青年当山北斗。
間借りしていたり、している妖魔たちは彼を月見家の座敷童と呼ぶとか呼ばないとか。
「寝ておく?お味噌汁は残してあるし」
そんな言葉に彼は毛布を背負うように居間に向かう。
廊下を挟んだ先にある居間に出れば食事の準備中である月見。
北斗は毛布を廊下に捨て月見の側に座る。
だが月見は北斗など気にせず準備を続けるために台所に向かう。
北斗は追いかけようとしてアトロールにぶつかる。
「うー!」
「おいおい。俺に怒るなよ」
アトロールは器を机に並べながら言う。それでも北斗はアトールの背中をつついて不機嫌そうしている。
北斗が味噌汁を飲んでいれば、月見が頭を撫でてくる。
「ん?」
不思議そうな北斗に月見は髪の毛を指に絡ませる。
「よし、切ろう」
北斗が思いっきり体を震わせて、固まる。
「大丈夫だって失敗には注意するから」
笑顔の月見に北斗は無言で、何時もより早く食事を終えて逃げ出す。
「あ!こら!」
月見の静止に北斗は無視して家を飛び出す。




