月見家
妖魔屋敷と呼ばれる日本家屋。結構な敷地を所有するのは月見と呼ばれる人たち。
元は人の住む家だったが、戦後まもなく広い家の部屋を妖魔に間借りするようになった。
そのため、近所の人からは妖魔屋敷と呼ばれて親しまれている。
現在月見家には四人の住人が存在する。
月見家にある生垣を手入れする男。
和服に左耳からは幾重にも繋がった棒状のピアス。その見た目は三十代ぐらい。けれど男らしい逞しさと若々しさは、これから活躍すると言わんばかり。
この家の主人である月見は手入れを終えて固まった腰を伸ばせば、近所の老人が犬の散歩のため歩いてくる。
「おはようございます。月見さん」
「おはようございます。今日も健康的でいいですね」
生け垣から微笑んで愛拶をすれば老人も笑う。
「月見さんは何時だって若いんですから今からでも始めれますよ」
「えー。あー。まぁ。人にしたらそれほど若くはないんですけどね」
「どうですか?犬でも。仲間が増えますよ?」
「あー。えーっと」
飼い主の足元でじゃれる犬を見てから思い出すこと。
「犬みたいなのならいるので世話はそいつで手前一杯で。それに赤の他人もいるので」
「そういえばそうですね」
犬が足元で早くと急かすように動いている。
「それじゃあ」
「えぇ。お気をつけて」
老人が見えなくなるまで見送ってから自分の肩を叩く。
「犬か」
ある人物を思い出して気が削がれる単語に、しかしため息を吐く。
「やれやれ」
誰にも聞かれていなかったと思っていれば聞いていた人がいたらしい。
その気配に縁側を見る。
「犬がどうしました?」
絶世といっても良いほどの美貌にタトゥーのように左の首元に魚の模様がある女性。その女性が不思議そうに縁側から声をかけてくる。この家の一室を間借りしている女優の、エンリィ。才色兼備という諺が似合う妖魔である。
人魚の妖魔でありながら妖魔でも人でもどちらにも人気がある現在人気絶頂の女優である。
「犬を飼わないかと言われただけだ」
苦笑いを浮かべながら道具を近くの物置に片付ける。
「さすがに犬が増えると大変だよな。と」
「あら。犬扱いですか。まぁ、そうですね」
彼女は誰かわかったらしく明るく笑う。
「ん?」
開いている戸口から味噌汁の臭いが漂ってくる。妖魔の五感は人よりも敏感で臭いが無いものであっても何を作っているかはわかる。
「今日はアトロールか」
「えぇ」
月見はエンリィのいる縁側から家に昇り、洗面所に体を向ける。
「私は彼を見てきますね」
エンリィと別れて手を洗い、台所に向かう。
「アトロール」
「なんですか?」
驚くことなく背中越しに聞いてくる男、アトロールに月見は近付く。
サラリーマンと言わんばかりのスーツ姿に後ろからでもわかる右頬に四本の爪のような傷の模様。見た目は優男という感じしか伝わらないが、最後かもしれない戦闘の妖魔である。
「手伝うことあるか?」
「あー。洗いもんお願いします。後あいつの分は?」
「昨日は大分遅かったからな」
「そうですか」
着物の袖を紐で結わえて洗い物をする月見。
「残しておいて大丈夫だろう。今日は俺もいるし。この時期は特に機嫌が悪い」
「そうですね」
もう二年ぐらい一緒に住んでいるため苦笑いを浮かべてからアトロールは思い出すように冷蔵庫を示す。
「あ。北斗にコンビニで売っていたアイス買ってきたんで」
「なんだ。買ってきたのか」
「コンビニ苦手なんで買ってきてくれって」
「何が苦手なんだ」
思わず月見が呟き、伝えておくとアトロールに言う。




