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小さな女先輩と大きな男後輩

西暦2050年。

建徳8年。


ここは大隅半島の一角にある航空宇宙自衛隊-肝付基地-


月開発が進み、先進主要国が月面の領有を事実上解禁してから10数年。

日本もシャックルトンクレーターに日米で共同の経営区画を保有していた。


その警備を任されたのは航空宇宙自衛隊。規模500名ほどのシャックルトン警備隊である。

3か月交代で100名ほどの要員を種子島宇宙センターから打ち上げ、往復させていた。


当地に実際の脅威があるというよりも、月面やその中間点であるステーションにおける低重力下での戦闘訓練研究が主たる目的ではあった。それは各地に領地をもつ国々もだいたい同じである。


シャックルトン警備隊。

部隊創設当初は、陸海空からの選りすぐりの隊員が在籍したが、宇宙技術の進展とノウハウの蓄積により、やがて一般部隊とさほどかわらなくなった。

いろんな隊員がやってきてはでていき、入ってきてはやめ、また入ってきた。


いろんな隊員

その極めつけが加勢士長だ。

  

加勢瑞奈-かぜみずな-

高卒入隊。先日20歳になった。

身長155センチ

足のサイズは23センチ。

体力検定はすべてギリギリ。

20式小銃を持って走れば、小銃の重さで右に左にふらふら、ふらふら


くりくりした目にちょっと不服そうな角度の唇。

癖ッ毛を伸ばして後頭部に団子を作っている。


彼女はやる気は十分。気勢も十分。

声も、その小兵の体のどこからでるものか。隣の隣の隊舎まで彼女の号令は届いた。

好き嫌いもない。雑用は大好き。誰かが掃除をしていれば、誰かが荷物をもっていれば飛んで行って加勢する。


そうそう。負けん気も十分。男子隊員と駆け足をすれば、かならず食いつく。とおく置き去りにされても、周回遅れになっても、まるで互角かのようにゴールするのだ。


喜怒哀楽も一級品だ。

このあいだ1等空士から空士長に昇任した時は、文字通り飛んで跳ねて喜び、中隊長に「終礼中だ!」と苦笑いで叱られた。


その加勢が珍しく緊張している。


「加勢、今度の新隊員はお前がいろいろ教えるんだぞ。」

先任の徳田曹長が目を泳がせながら加勢に指示をする。


「ハイ!」とびきりの笑顔で返事をする加勢だが、内心は心配の嵐が吹きあれている。

中隊事務室の面々はそれぞれ自分の仕事に没頭していたが、時折振り向いては加勢をみやる。

-大丈夫やろか-


徳田曹長と加勢士長だけが事務室で挙動不審に人待ちをしていた。


こんこん

丁寧なノックがあった。

「川路2士入ります!」

裂帛の音声が事務室にひびいた。


「なんだ、元気のいい新隊員だな。」人事の1曹がちらと入り口を見た。

ぎょっとする。

人事に来ていたデータでは知っていたが・・・


201センチの巨漢がのそりと入室した。

ちょっと頭をかしげて。


2等空士・川路昇平28歳

福岡の大学を卒業している。在学間は柔道やワンダーフォーゲルをやっていた筋骨隆々の青年だ。

卒業後は九州の商社につとめていたが、宇宙に行ってみたいという理由で退職して航空宇宙自衛隊に入った。


徳田曹長は身長が176センチ。決して低くはないが、山を見上げるように川路に目を合わせる。

「川路2士。よく来た。警備3中隊へようこそ。」

握手の手を差し出すと2倍くらいある手が曹長の手をギュッと握った。

手を放した川路は直立不動の姿勢になって挨拶をした。

「よろしくお願いします。」


「川路。この子が、いや、士長が、お前の先輩だ。中隊の事は何でもこの子いや、加勢士長にきけ。」

加勢が恐る恐る、というのを気取られないよう、勢いよくスッと手を出した。

間髪入れず3倍くらいある手がぎゅっと加勢を握ってきた。

加勢が勢いよくぶんぶんと手を上下に振る・・・のだが、身長差で手はどうかすると万歳にすら見える。

「よろしく!川路2士。」

川路は再び直立不動の姿勢に戻って「よろしくお願いします!」と勢いよく返事をした。


その声の圧で徳田はよろめき、加勢は後ろにひっくり返りそうになる。


補給担当の2曹がふりむいて一部始終をにやにやしながら見ていた。


「川路!いくよ。」

事務室を出た加勢は川路を従え、中隊のあちこちを案内して回った。


「炊飯器が冷蔵庫連れて歩いとる。」

みんなが珍しそうに二人を眺めた。


「加勢、そいつが今度の新隊員?」

同期や一つ二つ上の先輩たちが珍しそうに近寄ってくるが、川路の挨拶で誰もかれもが散っていく。


加勢士長は川路に慣れてきた。もともと順応力は高い方だ。

中学も高校も、初日から友達を作りまくった。

二日目には校長先生にハイタッチもしている。


川路の事はまだわからない。とりあえず悪い奴ではないのはわかった。

だが


加勢は川路にふりむいて仁王立ちになった。

「川路!」

「はい!」


加勢はすうっと息を吸って、大声で言った。

「川路は背がデカいから!」

「はい、すみません。」

「あやまんなくていい。デカいから!」

「はい。」


「挨拶は普通の声で!!」

「はい!!」

川路の声で加勢は上半身がのけぞった。


「大きすぎる。もっかい!」

加勢の声が営庭に響いた。


「はい!」川路はすこし声を抑えてみた。

加勢はまたのけぞったが、さきほどより角度は浅かった。

「いいよ、川路。でもまだ大きい。もっかい!」


川路はもう少し声を抑える。これじゃ小声の内緒話だ、と思ったが。

「はい」


「そう、その声!そのくらいでいい。川路があいさつするたびに空士の子ら全員吹き飛ぶから!」

「はい」

どうも、内緒話をするくらいがちょうどいいらしい。ここでは。


川路に得意げな顔を向ける加勢が片手を大きく上げる。

首をかしげながら川路も片手をあげた。

加勢が小さくジャンプをする。


-ああ-

川路は感づいてしゃがんだ。


加勢は川路にハイタッチを果たした。


再び前を、加勢は向く。

-次は中隊の倉庫を案内しなきゃ-

「いくよ!」加勢の大声が響く。

「はい」川路の声は小さいのにやはり響いた。

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