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仮面勇装マスクド・ブレイブ ~異世界でヒーローやらされてます~  作者: 白峰レイ


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第8話「人攫い」

怒鳴り声で目が覚めた。


夢じゃない。

布一枚の天井の向こうで、現実が揉めている声だ。


「だから行くなって言ってんだろ!」

「行かなきゃ死ぬ!」

「だったら俺らも一緒に死ぬのかよ!」


内容までは聞き取れない。

ただ、切羽詰まってるのだけは分かる。


寝返りを打っただけで背中が痛い。

床が冷たい。

鼻に、湿った布と煙の匂いが残っている。


「……うるせぇ」


俺は目をこすって起き上がった。


隣で丸まって寝ていたロウも、同時に目を開く。

寝癖がひどい。

でも、目だけは妙に冴えていた。


ロウは外の声を聞いて、息を飲む。


「……たいへんだ」


「何が」


ロウは返事の代わりに入口の布をめくった。

外の空気が流れ込んでくる。


俺も立ち上がって外に出た。


朝だ。

でも明るいというより白い。

スラムの朝は、光が薄い。


子供が五、六人。

その中心で、年上っぽい少年が腕を組んでいた。

背が高い。痩せてる。

顔に擦り傷。目つきが鋭い。


そいつが苛立った声で吐き捨てる。


「……ガイが行ったなら、もう終わりだろ!」


別の子が叫び返す。


「終わりじゃねぇ! ガイ兄ちゃん一人で行ったんだぞ!」

「止めたのに!」

「今行けば間に合うかもしれねぇだろ!」


俺は眉をひそめた。


「……ガイ? 誰だ、それ」


ロウが俺の袖を引っ張って、小声で言う。


「ここで一番年上で、一番強い。……リーダー。ガイ兄ちゃん」


(昨日、泊めるかどうか決めたやつか)


ロウはさらに指をさして続ける。


「あれはデン兄ちゃん。ガイ兄ちゃんがいない時に、みんなの面倒みてる」


年上っぽい少年——デン——が俺に気づいて、言葉を止めた。


「……昨日の変な大人」


「ユウヤだ」


「……」


デンは舌打ちだけして、また子供たちに目を戻した。


ロウが一歩前に出る。


「みんな、ユウヤ兄ちゃんいる!」


子供たちの視線が一斉に俺に集まった。

期待、焦り、恐怖。

助けてくれ、って顔が混ざってる。


嫌な予感しかしない。


「……で、何が起きた」


デンが歯を食いしばって言う。


「ガイの妹が攫われた」


「妹?」


「今朝いなくなった。スラムの大人に連れていかれた」


別の子が泣きそうに言った。


「奴隷商人に売られるかもしれないって……!」


胸糞が悪くなる。

言葉だけはファンタジーなのに、中身は現代の闇だ。


俺は息を吐いた。


「で、ガイは」


デンが悔しそうに言う。


「……一人で行った。止めたけど、聞かなかった」


「どこに」


「スラムの奥。人攫いの連中が溜まってる場所」


なるほど。

だから揉めてる。


助けに行けば死ぬ。

助けに行かなきゃ後味が最悪。

どっちでも最悪だ。


俺が黙っていると、腰が光った。


ブレイブドライバーが点滅じゃなく“主張”してきた。

空中に透明なウィンドウが開く。


——もちろん、俺にしか見えない。


『クエスト発生』


嫌な予感が確信になる。


『ガイとその妹を助け出せ』

『スラムに本拠地を置く奴隷商人が雇っている人攫い集団に少女が攫われた』

『少女の兄は勇敢にも立ち向かったが、捕らえられ暴行を受けている』

『ヒーローにしか救えない』


最後の一行が、やけに腹立つ。


「……は?」


追い打ちが来る。


『クエスト報酬:ヒーローポイント 5』


「……まじかよ」


喉が乾く。


5ポイント。

それだけあれば、今日みたいな採取を続けなくても——

少なくとも、しばらくは生きるための選択肢が増える。


(宿も、飯も。……生存の確率も)


ロウが一歩前に出た。


「兄ちゃん、助けてあげて!」


ロウの声は真っ直ぐだった。


「兄ちゃん凄い強いし……兄ちゃんなら助けられるでしょ?」


「……」


強くない。

俺はゴブリンとどっこいどっこいだった。


でも、ロウの目には“助けた”という事実しか残っていない。


子供たちが、一斉に頭を下げた。


「お願いします!」

「ガイ兄ちゃんを助けてください!」

「ガイの妹も……!」


デンだけは頭を下げなかった。

下げられない顔をしている。

悔しさで立ってる顔だ。


俺は舌打ちした。


「……チッ」


頭の中で言い訳を並べる。


報酬のため。

打算のため。

生きるため。


でもそれを口にしたら、さらにダサい。


俺は荒っぽく言った。


「あぁ、もう、行ってやるよ!」


子供たちの顔が上がる。


「守ってやるから案内しろ!」


ロウの顔がぱっと明るくなる。


「ほんと!?」


デンが即答した。


「俺が案内する! 場所なら分かる」


「さっさと行くぞ!」



スラムへ向かう道は、街の裏側だった。


石畳が割れ、汚水が流れ、壁の落書きが増える。

視線が刺さる。


ここは子供の場所じゃない。

大人の悪意の場所だ。


ロウが小声で言う。


「兄ちゃん……あっちは、やばい人たちがいる」


「知ってる」


俺は歩きながら腰を叩いた。


カン。


『現在のヒーローポイント:3』


(今のうちに、装備だ)


透明なウィンドウを開く。

ロウには見えない。

俺が腰のベルトを叩いてる変な奴にしか見えないはずだ。


『初期装備(必要HP:1)』

・赤いブリーフ(防御+)

・黄ばんだタンクトップ(防御+)

・臭い軍手(腕力+)


俺は表示を睨んで、思わず口に出した。


「……赤いブリーフ、黄ばんだタンクトップ、臭い軍手……」


ロウが首を傾げる。


「兄ちゃん、なにそれ」


「呪いの買い物リストだ。聞くな」


俺は即決した。


「3ポイントあるし、全部購入!」


カチ、カチ、カチ。


ウィンドウが連続で光る。


『購入:赤いブリーフ』

『購入:黄ばんだタンクトップ』

『購入:臭い軍手』


腰が少し熱を持った。

装備が“登録”される感覚がある。


『初期装備コンプリート』


「は?」


『特典:必殺技を獲得しました』

『必殺技:ブレイブパンチ』

『特典必殺技:ブレイブフラッシュ』

『ブレイブフラッシュ:体全体から一時的に眩しい光を発します(閃光弾相当)』


俺は、ほんの一瞬だけ口角が上がりそうになるのを堪えた。


「……なるほどね」


ロウが不安そうに覗き込む。


「兄ちゃん、大丈夫?」


「……大丈夫かどうかは知らねぇ。でも、いいことを思いついた」


ロウが「え?」って顔をする。


俺はロウの肩を掴んで、低い声で言った。


「ロウ。お前は先に帰ってろ」


「えっ!? なんで!?」


「邪魔だからだ。……あと、危ねぇ」


ロウが食い下がろうとする前に、俺は視線をデンに投げた。


「デン」


デンが眉をひそめる。


「……何だ」


「お前には少し協力してもらうぞ。助ける方法を思いついた」


デンの目が、一瞬だけ揺れた。


「……方法?」


俺はニヤッと笑った。


腰のブレイブドライバーが、カチ、と小さく鳴った。

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