表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人助けでポイントを稼いだら、最強ヒーローになっていた ~ネタ装備が進化する異世界譚~  作者: 白峰レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/133

第7話「屋根のない夜」

街へ戻る道は、さっき来た時より長く感じた。


薬草の袋が重いせいじゃない。

俺の背中に、ついてくる足音が重い。


助けた少年は、俺の少し後ろを歩いていた。

一定の距離を保って、でも離れない。


……黙っているのに、足音と呼吸だけがやけに近い。


(連れて帰ったら面倒だ)

(置いていったら後味が悪い)


どっちも最悪だ。


街の門が見えた頃、少年の腹が鳴った。


ぐぅ。


妙に、はっきり。


少年は気まずそうに腹を押さえて俯いた。

謝る代わりに、息を殺す。


俺は舌打ちした。


「……チッ」


ポケットに手を突っ込む。

夜用に取っておいたパンが、まだ残ってる。


(こんなガキ助けたところで……)


そう思ったのに、手は止まらなかった。


俺は振り返りもせず、パンを後ろへ放る。


「ほら」


少年が慌てて受け取った。


「え……?」


「食え。腹の音がうるせぇんだよ」


言ってから気づく。


(最悪の言い方)


少年はパンを両手で抱え、目を丸くした。


「……ありがとう……」


小さな声だった。

風に消えそうな声。


俺は聞こえなかったふりをして歩いた。



街に入って、少年を街の端まで送った。


夕方に近い空気の中、街の匂いが濃い。

薪の煙、油、汗、パン。


「家は?」


少年が目を逸らす。


「……ない」


即答。

ためらいがない。


俺は息を吐いた。


(やっぱりかよ)


「……今日は、とりあえず人がいるところにいろ。路地に入るな。分かったな」


少年は何度も頷いた。


「うん……!」


俺は踵を返した。


「じゃあな」


「……あっ、兄ちゃん!」


呼び止められて、俺は振り返りかけて、やめた。


振り返ったら、もう一段面倒になる気がしたから。


「何だ」


「……また、会える?」


(知らねぇよ)


喉まで出かけた答えを飲み込んだ。


代わりに、適当に言った。


「生きてりゃな」


少年は笑った。


「うん!」


——なんでそんなに笑えるんだよ。


俺はその場を離れた。



薬草を探すために、門から遠くない外縁だけを祈るように探した。

金の為だ、仕方ない。


さっきのゴブリンの死体のことは考えないようにした。


考えたら、吐きそうになる。


採取を終えて、ギルドへ。

依頼書をカウンターに置く。


受付の女が手際よく確認した。


「薬草、規定量。問題ありません。報酬はこちらです」


硬貨が、チャリン、と手に落ちる。


(よし……宿だ)


俺はそのまま、宿屋街へ向かった。


最初の宿。


「満室だ」


二つ目。


「今日は無理だね」


三つ目。


「金が足りない」


俺は、口の中が乾いていくのを感じた。


(……嘘だろ)


格安の宿は、全部埋まっていた。


日が落ちかけている。

今から別の街へ行こうにも、時間がない。

そもそも、何処にあるのかすら知らない。


俺は路地の角で立ち尽くした。


(詰み)


「あのガキを助けなきゃ、早く帰れて泊まれたかもしれねえのによ……」


口から、勝手に零れた。


「はぁ……」


壁にもたれて息を吐いた瞬間、現実が追い打ちをかけてきた。


ぐぅ〜。


……最悪のタイミングで、俺の腹が鳴った。


「……チッ」


自分で自分が情けない。


そのとき。


「——あっ、兄ちゃん!! やっと見つけた!」


振り向くと、少年が息を切らして立っていた。

俺を見つけた瞬間、顔がぱっと明るくなる。


少年は一拍遅れて、俺の顔を見る。


「……兄ちゃん、もしかして何も食べてないの?」


「ガキが気にすんな」


「気にするよ」


少年は言い切ってから、胸の辺りをもぞもぞ探った。

布の内側から、何かを取り出す。


「はい、これ」


差し出されたのは——パン。

俺がさっき渡したやつだ。


半分残っている。


「……おい。お前それ」


少年は当たり前みたいに言った。


「パン、半分返そうと思って探してたんだ!俺は半分で十分だったから」


「十分なわけねぇだろ。あんなに腹鳴ってたんだぞ」


「鳴った。でも、平気」


「平気じゃねぇ」


少年は首を振る。


「平気だよ。兄ちゃんがくれたから」


その言い方が、妙に強かった。

否定しづらい強さ。


俺は一瞬だけ黙って、パンを受け取った。


半分のパンが、妙に重い。


「……はぁ。ありがとな」


少年はぱっと笑った。


「うん!」


俺は視線を逸らして、ぶっきらぼうに言った。


「……で、お前、名前は」


少年は嬉しそうに胸を張った。


「ロウ!」


「ロウ、ね」


「ロウだよ! 兄ちゃん!」


「兄ちゃんじゃねぇ。ユウヤだ」


ロウは首を傾げた。


「あれ? マスクド・ブレイブじゃないの?」


「その名で呼ぶな!! ユウヤだ!」


俺は即座に切り返してから、ロウを睨む。


「……お前、なんでそれ知ってんだよ」


「だってゴブリンと闘ってたとき、言ってたじゃん」


ぐうの音も出なかった。


「で、ユウヤ兄ちゃん、泊まるとこないんでしょ?」


「……」


ロウは胸を張った。


「じゃあ、こっち!」


「待て待て待て」


俺は止めようとした。


「お前んち無いんだろ。どこ行く気だ」


ロウは平然と言った。


「寝床!」


最悪の単語が出た。


「……寝床って何だよ」


「同じ子たちがいるとこ。今日だけなら、泊まっていいって言ってくれると思う」


(ストリートチルドレンの集落かよ)


俺は一瞬、本気で逃げようとした。

でも、このまま一人で夜を迎えたら、俺が死ぬ。


……選択肢がない。


「……一泊だけだぞ」


ロウは嬉しそうに頷いた。


「うん!」



案内されたのは、崩れかけた倉庫の裏だった。


板と布で風を避けただけの空間。

でも、火の気配がある。

人の気配がある。


何より、外の闇が、ここには入りにくい。


ロウが中へ声を投げた。


「みんな! ユウヤ兄ちゃんだよ! 今日助けてくれた!」


数人の子供が顔を出す。

警戒の目。値踏みの目。

でも、ロウがやけに興奮しているせいで、空気が少しだけ緩む。


年上っぽい子が、疑うように聞いた。


「助けたって……何を?」


ロウは俺の腕を掴んで、胸を張った。


「森でゴブリンに襲われたんだよ! でもユウヤ兄ちゃんが——」


(やめろ)


嫌な予感がした。


ロウは予感を軽々と超えていく。


「いきなり『変身』してさ!!」


周りの子がざわっとする。


「変身?」

「魔法?」


ロウは完全に気持ちよくなっていた。


「腰のベルトが光ってね! それで——闇を払い光を照ら──」


「うぉい!! やめろ!!」


俺は反射でロウの口を塞ぎかけて、ギリギリで止めた。

この場でそれをやったら俺が完全に悪者になる。


代わりに、ロウの肩を揺さぶる。


「それは言うなぁ!! 絶対言うな!!」


ロウはきょとんとする。


「え、なんで? カッコよかったのに」


「カッコよくねぇ!! それは……その……!」


言い訳が出ない。


周りの子供たちは、俺とロウを交互に見て、ニヤニヤし始めた。


「へぇー」

「闇を払い?なんだって?」

「言ってみてよ」


「言わねぇよ!!」


俺が即答すると、ロウが追い打ちをかける。


「めっちゃカッコよかったんだよ!」


「言うなって言ってんだろ!!」


空気が完全にからかいモードになった。


俺は深く息を吐いて、ぶっきらぼうに言った。


「……俺はユウヤだ。今日は一泊させてもらう。以上」


ロウが俺の袖を引く。


「ね、いいでしょ?」


子供たちは少しだけ顔を見合わせてから、年上っぽい子が肩をすくめた。


「……ロウが連れてきたなら、一晩だけな」


「助かった」


言いながら、俺は自分が礼を言ってることにムカついた。


ロウは嬉しそうに笑った。


「ユウヤ兄ちゃん、勇者みたいに強かったよ!」


「よせよ。ゴブリンとどっこいどっこいだっただろ」


「それでも……カッコよかったよ」


ロウの声には、嘘がなかった。


——助けてくれたから。

それだけで。


俺は視線を逸らして、鼻で笑った。


「……カッコよくねぇよ。あんなの恥ずかしいだけだ」


ロウは首を傾げる。


「恥ずかしい?」


「……忘れろ」


ロウは、なぜか嬉しそうに頷いた。


「うん!」


俺はその場に腰を下ろした。


布一枚。冷たい床。

でも、外で一人よりはマシだ。


(結局、助けたせいでここだ)


そう思ったのに。


不思議と腹は立たなかった。


ロウが隣に座り、小さな声で言った。


「ユウヤ兄ちゃん、明日も、ここに泊まる?」


「明日は屋根のある所にする。絶対にだ」


俺は目を閉じた。


屋根はない。

布一枚しかない。

でも——今夜は死ななそうだった。


最悪の世界で、最悪じゃない夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ