第14話「魔石の回収」
「あー、終わった終わった。変身解除っと」
俺は腰のベルトを叩いた。
カン。
『変身解除します』
光が引いて、服が戻る。
肌に布が触れた瞬間、意味もなく安心した。
(……ブリーフに慣れてきた自分が怖いぜ)
森外縁の開けた場所には、倒れたゴブリンが山のように転がっていた。
さっきまでの包囲が嘘みたいに静かで、風だけが土と血の匂いを運んでくる。
俺は息を吐きながら肩を回した。
肋がほんの少し痛んだ気がする。
治ったはずなのに、まだ残ってやがる。
「……っと」
少し離れたところでは、新人の三人がへたり込んでいた。
魔法使いの男は膝に手をついて肩で息をし、回復役の女は杖を抱えたまま座り込んでいる。
剣士だけは妙に元気で、目がギラギラしていた。
三人が揃って頭を下げる。
「助けてくれてありがとうございます!!」
「本当に……ありがとうございました……」
「……助かりました。ありがとうございます」
「礼はいらねぇ」
俺は顎でゴブリンの死体の山を示した。
「その代わりに頼みがある。魔石、全部回収してくれ」
三人が一瞬きょとんとして、すぐに慌てて頷く。
「は、はい!!」
「わ、分かりました!」
「……はい」
(人型の胸から取り出すのは流石に気持ち悪ぃ……)
剣士が真っ先に立ち上がった。
「任せてください!!」
魔法使いが苦笑いする。
「レオン、落ち着け……」
回復役の女も小さく息を吐き、手袋を直した。
「……私もやります」
三人は散らばると、手際よく死体を確認し始めた。
胸元を裂いて魔石を取り出し、袋へ入れて次の死体へ移る。
(慣れてんな……)
新人でも、ここでは現場の常識ってやつらしい。
俺はその様子を見ながら、地面に腰を下ろした。
ミレイの声が頭の中で再生される。
『魔石は胸の中心にあります。取り出してから納品してください』
(気持ち悪いって言ったの、撤回しねぇけど)
ゴブリンの数は多い。
こいつらが回収してくれなかったら、俺は今ごろ泣きながら胸を裂いていた。
(助けて、解体させて、報酬を持ってく。完璧じゃないか)
俺はベルトを叩いた。
カン。
「……おい。俺、今日いいことしたよな?」
返事はない。
(黙んな。肯定しろ)
ゴブリンの死体の向こうで、レオンが叫ぶ。
「カイル! こっちもだ!」
「分かってる! こっちもあるんだよ……!」
カイルの手はまだ震えていて、ミーナの目も赤い。
さっきまで死ぬ寸前だった三人だ。
無理もない。
俺は視線を逸らした。
(……こういうやつがピンチになれば、クエストが出てポイントが貰える)
最悪な発想だが、事実だった。
ブレイブドライバーがそういうシステムなら、俺はこれからも誰かがピンチになるたびに呼ばれることになる。
(面倒だ)
それでも、助けた時の三人の顔は嫌いじゃなかった。
らしくないなと、自分でも思う。
*
しばらくして、三人が戻ってきた。
剣士――レオンが袋を抱えていて、中から石がかすかに擦れる音がする。
「ユウヤさん。回収、終わりました」
「よし」
俺は袋を受け取り、重みを確かめる。
(大銅貨五枚×魔石の数……)
計算しようとして、やめた。
数字を見ると欲が出るし、欲が出るとろくなことにならない。
俺は袋を肩にかけ、三人を見る。
「これで貸し借りなしだ」
三人が同時に目を見開いた。
「えっ」
「命を助けて貰って、そういう訳には……」
「……こんなことで?」
レオンだけが、なぜか嬉しそうに胸を張る。
「はい!!」
元気すぎて腹立つ。
(こいつ、絶対また突っ込むタイプだ)
レオンが一歩前に出た。
「自分はレオンと言います! こっちはカイルで、こっちはミーナです!」
「そうか。俺は――」
名乗ろうとした、その瞬間。
レオンがさらに踏み込んできた。
「マスクド・ブレイブさん!! いや、兄貴と呼ばせてください!!」
「その名を出すな!! ユウヤだ! 兄貴もやめろ!!」
レオンは真顔で頷く。
「分かりました! 兄貴!!」
「分かってねぇ!!」
俺は額を押さえて、ため息を吐いた。
(マスクド・ブレイブよりはマシか……)
カイルが横から慌てて頭を下げる。
「すみません……レオン、興奮すると止まらなくて……」
「命の恩人だし……こういうの初めてで……」
ミーナも小さく会釈した。
「……本当に、ありがとうございました。ユウヤさん」
俺は一瞬だけ言葉に詰まり、すぐにぶっきらぼうに返す。
「……あぁ」
まともに返事すると負けた気がして、俺は手を振った。
「もういい。お前らはギルドに戻れ。今日は狩り終了だ」
「はい!」
三人が同時に頷く。
俺は背を向けた。
「帰るまでが仕事だ、お前ら。道中で増えたゴブリンに調子乗って突っ込むなよ」
レオンが即答する。
「はい! 兄貴!!」
「だからやめろっつってんだろ!!」
俺のツッコミが森に響く。
ミーナが小さく笑った。
さっきまで強張っていた顔にも、ようやく笑える余裕が戻っている。
俺は手を振った。
「行け。気をつけて帰れよ」
三人が去っていく。
その背中を見送りながら、俺はぼそっと呟いた。
「……やっぱ、気をつけなくていいぞー」
誰にも聞こえないくらいの声で。
(気をつけたらピンチにならねぇもんな)
さすがに不謹慎かと思いながら、俺は袋の重みを肩で感じつつ、その場に座り込んだ。
(さて、こっちの報酬を確認しようか)
腰のベルトを叩いた。




