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田中ゆり子14歳(18禁)の創作活動  作者: 蒼碧


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創作論4:キャラクターは罵詈雑言なんて吐かない

原案:蒼風 雨静  作;碧 銀魚

 翌日。

 主人公のデザインが苦戦の末決定したので、次に主人公の性格や経歴を文章で纏めてみた。

 名前は佐倉井美園さくらいみその

 年齢は23歳。

 性格はおしとやかで、物腰も柔らか。

 但し、誰かと対立した時や、何かを守る為に戦わざるを得ない時は、罵詈雑言も厭わない。

 規制に引っかかるので、両親や家庭の描写はカット。

 それなりに大変な思いをしながら生きてきたので、とても芯が強い。

 現在、某会社で会社員として働いている。

 会社内での起こる大小様々な事件や出来事を、持ち前の聡明な頭脳と行動力で次々解決していくが、その為に会社内でのとある陰謀に関わってしまい、重役を含む連中と対立していくことになる。

……というストーリーラインだ。

 本来は高校生で、バトル描写もある少年漫画のようなものを考えていたのだが、規制を回避して作っていった結果、こうなってしまった。

 我ながら、若干ちぐはぐな感じがする。

 ただ、名前だけはちょっと拘った。

 自分が“田中ゆり子”という、100年くらい前に流行ったような名前なので、その反動で可愛らしいものにしたかったのだ。

「一応、助言を求めてみますか。」

 ゆり子はパソコンを立ち上げると、クリオリを起動させた。

『こんにちは、田中ゆり子さん。』

「こんにちは。昨日のキャラクターの性格とか経歴を文章で纏めたんだけど、見てもらっていい?」

『はい、お任せ下さい。』

 ゆり子はテキスト文章を、クリオリに放り込んだ。

 待つこと、3秒。

『残念ながら、この性格では規制に引っかかります。』

「ええっ?どっか悪かった?」

 ゆり子はテキストを読み直す。

『まず、如何なる場合でも戦おうとしてはいけません。人間関係は円滑に進めなければならず、それを乱すような描写は不適当とされてしまいます。また、誰かに罵詈雑言を言う描写も規制の対象になります。』

「う~ん、罵詈雑言って書くと凄そうに見えるけど、漫画とかアニメだと、割と言われない?“ぶっ殺すぞ!”とか、“死ね!”とかさ。」

『これについては、漫画作品における表現規制のガイドラインが2051年に制定されています。田中ゆり子さんが見た表現は、それ以前の作品だったのではないでしょうか。』

「ガイドライン?そんなもんあるの?」

 ゆり子はすぐにインターネットで検索してみた。

 すると、確かにガイドラインは出てきた。

「……うわぁ。結構、使えない言葉多いなぁ。」

 ざっと一万語余り、使用不可の言葉があり、その中には先程ゆり子があげた“ぶっ殺すぞ!”や“死ね!”も入っていた。

 他には“気違い”“めくら”“乞食”といった、昔は常用されていた言葉や、“ヤバい”“ヤンキー”といった比較的新しい言葉、“OL”“ガキ”“チビ”“床屋”“パクる”“ブス”“八百屋”“令嬢”“老婆”などといった、割と日常会話で使っている言葉も入っている。

 中でも酷いのは、“片足”“片親”“片肺”“片目”“片端”“片手落ち”といった、“片”がついた言葉が軒並みリストに入っていることだ。

 これでは、悪気がなくても、セリフに無意識に使ってしまいかねない。

「これ全部、気を付けてセリフを作れっていうの?ムリじゃね?」

『確かに難しいです。その為に、クオリティ・オリジナリティは開発されています。』

「そうじゃなくて、こんだけ使えない言葉があったら、言い争いのシーンとか、ギャグシーンのちょっとしたツッコミのセリフすら作れないじゃん。」

『そのようなシーンそのものが、創作活動において不適格と考えられます。根本的に規制ワードを必要とされるシーンを入れないことを推奨します。』

「平和で退屈な物語しか作れなくなりそうな気がする……」

 ゆり子はまた頭を抱えた。

 この前までの流れで、暴力的なシーンそのものが規制対象になることは予想がついていたが、いわゆる“きつい言葉”まで規制対象となると、本当に平和な会話しか作れない。

「……あたしは漫画だからまだいいけど、小説書いてる人は、もっと大変なんだろうなぁ。」

 ゆり子は活字がやや苦手なので、小説などはほぼ読まないが、こんな世の中でも普通に出版されているのは知っている。

 小説家の先生方は、日々このガイドラインと睨めっこし、中にはクリオリを使って、NGワードを避けながら、必死に物語を紡いでいるに違いない。

『表現において、人を傷つけたり、不快にさせないことは大前提です。少しでも読者を傷つける危険性のある言葉は、排除されて然るべきなのです。』

「いやまぁ、言ってることの理屈はわかるけど……」

 光を描く為には、影は必ず必要なのだ。

 その影を覆い隠してしまえば、光はどんな姿形をしているのかわからない。

「最早、この世界はどんな光が射しているのかも、わからないってわけね。」

『窓を開けることを推奨します。』

「そうじゃねぇよ。」

 ゆり子は思わずツッこんだ。

「っていうか、テレビの生放送とか、動画の配信している人って、このガイドラインの言葉全て回避しながら喋ってるの?」

『その通りです。』

「マジで!?化け物じゃん!」

『人を化け物というのも、規制対象となります。』

「いや、うぜぇな。」

 今まで何気なくテレビの中継や動画の生配信を見ていたが、ああいう場で喋っている人のトーク力は、最早職人技だ。ゆり子には、とても真似出来ない。

『しかし、人間とは完璧ではないので、時々規制用語を口にしてしまうという、放送事故は起きています。その為、最近はAIの音声に切り替えている場合も多く見受けられます。』

「そりゃそうかぁ。その内、テレビの生放送とか動画の配信とかで、自分で喋る人はいなくなるかもなぁ。」

『その可能性はあります。』

 人の不完全さを、許さない世の中になってきているのを感じる。

「で、話は戻るけどさ。創作物や映像作品で罵詈雑言を規制したところで、実生活では人が人に罵詈雑言を言ってるシーンなんて、沢山あるじゃん?カスハラっていうんだっけ?今度、仕事でそういう奴に大量に会わなきゃならないんだけど、それはどうなの?」

『実生活でそういう人物が未だ存在していることは事実です。ですので、猶更創作物では、人を傷つけない為の表現が求められます。創作物に感化されて罵詈雑言を言う人間を形成してしまったり、創作物の罵詈雑言に心を痛める人がいてはいけないのです。』

 クリオリが言っていることは、確かに一見正しく聞こえる。

 聞こえるが……

「人を傷つけない為の、表現の規制か……それは本当に、誰かを守ってることになってるの?」

 ゆり子は溜息混じりに尋ねた。

『表現の規制は、それを見たり聞いたり読んだりする人、全てを守っています。』

 ゆり子はその回答に、皮肉めいた笑みを浮かべた。

「じゃあ、それを発信してるあたし達は、守る価値なしの人間ってわけね。」

『人間を守る価値なしというのは、罵詈雑言に当たります。言い換えを推奨します。』

「うるせぇよ。」

 ゆり子はパソコンの電源を落とした。

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