表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/25

創作論3:体形表現は洗濯板・寸胴・平尻であるべし

原案:蒼風 雨静  作;碧 銀魚

 翌日。

 クリオリの助言を受けて、主人公は成人女性でデザインした。

 魅力的なキャラにしたかったので、体形はややグラマラスにしてみた。大きめの胸、括れた腰、丸みのある尻。現実離れしてない程度にデザインしたが、果たしてどうだろうか。

 ゆり子はパソコンを立ち上げ、クリオリを起動させた。

『こんにちは、田中ゆり子さん。』

「こんにちは。主人公をもう一回描き直してきたから、見てくれる?三度目の正直。」

『はい、お任せ下さい。』

 ゆり子は画像をアプリに放り込んだ。

 待つこと、3秒。

『残念ながら、このキャラクターデザインで漫画を描くことは出来ません。』

「また!?」

 流石にゆり子は叫んでしまった。

「何がいけないの?子供じゃないし、男じゃないし、公序良俗に違反するようなことデザインじゃないでしょ?」

『体形が性的興奮を煽るものとなっています。これは規制対象となります。』

「せーてきコーフンをあおる?」

 言っている意味が、よくわからない。

『はい。このキャラクターデザインは、バストサイズが大きく、それを誇張するような衣装となっています。また、腰回りが大きく括れ、臀部が大きく表現されています。これらの特徴は男性の性的興奮を過度に煽るものであり、子供や男性以上に厳しく規制されると考えられます。』

「別に、現実離れした体形じゃないでしょ?」

『現実にあり得るかどうかは、この際問題ではありません。』

「マジかー……」

 ゆり子は天を仰いだ。

『このデザインは男性に対し煽情的な効果を齎すだけでなく、女性蔑視に繋がる危険性もあります。従って、公表することは推奨出来ません。』

「女性蔑視?」

 ゆり子は目を瞬いた。

『はい。このようなデザインは、女性を性的な“モノ”として扱うことを推奨していると見做され、延いては女性蔑視に繋がると考えられます。また、男性の脳の性質上、視覚的にこのようなスタイルの女性に惹かれるという研究結果があり、それはグラマラスな体形ではない女性にコンプレックスを与えることになります。胸の大きさや臀部の形などは遺伝的影響が大きく、女性がこのような先天的要因でコンプレックスを抱くことは、社会的に不適当と考えられます。そういう意味でも、女性蔑視に繋がる危険性があり、公表は不適当と考えられます。』

「……男は存在そのものが消されても男性蔑視にならないのに、女はちょっとグラマラスに描いたら女性蔑視になるの?」

『現在の政府の見解では、そうなります。』

「マジで言ってんの……」

 どうにも、ゆり子は納得がいかなかった。

『これも創作界隈だけの話ではなく、社会全体でそういうことになっています。』

 不意にクリオリがそんなことを言った。

「えっ……?うそ?」

 ゆり子は試しにインターネットで、適当な動画を開いてみた。

 確かに、胸の大きな女性や、腰が括れた女性の動画は一つもない。

 次に部屋のテレビを点けてみた。

 どのチャンネルにしても、グラマラスな女性は一人もいない。

 更に、パソコンの前を離れ、窓から外の通りを観察してみた。

 丁度、人通りの多い時間なので、女性は結構歩いているが、暑い季節なのに、体のラインがはっきりわかるような体形の人は見当たらない。

「……全然意識してなかったけど、確かにグラマーな女の人が一人もいない。もしかして、世のグラマーな女は皆殺しにでもされたの?」

『いいえ、違います。現在は、胸を大きく見せない、腰の括れを隠す、臀部を平たく見せる、などの機能を持った補正下着が販売されています。また、それらを自然に見せる衣服も多数販売されており、体形が際立って目立つ女性は少なくなったと思われます。』

「でも、それって限界があるでしょ?」

『はい。ですから、際立って乳房が発達した女性や、骨盤が生まれつき大きく、臀部が下着で隠せないほど大きい女性は、外へ出ることが少なくなり、地域のコミュニケーションの輪から外れてしまう、という社会問題も起きています。』

「先天的要因でコンプレックスを抱くことは、社会的に不適当、じゃなかったっけ?」

『はい。その為、これらの女性をどう支援していくかが、社会的に大きな課題となっています。』

 ゆり子は風邪でもないのに、頭痛を感じてきた。

「あのさぁ……その辺りの一連の政策って、やっぱり少子化防止の施策に逆らってない?」

『いいえ。過度に性的興奮を煽る見た目の女性は、子供の性成長に悪影響を及ぼすという研究結果があり、子供の健全な成長を促す目的でも有効だと考えられています。』

「いや、その……えー?」

 どうにも、ゆり子にはよくわからない。

「それって、子供に影響を及ぼす云々以前に、影響を及ぼす子供自体が産まれてこないことに、繋がるんじゃないの?」

『グラマラスな体形の女性が出てくる創作物や映像、写真などは、それだけで男性の性的な欲求を満たしてしまい、少子化を進行したと考えられています。その証拠に、1950年代から2030年代まで、ポルノと呼ばれる男性向けコンテンツが横行しており、それに近しい一般創作物が主に漫画やアニメ、ゲームなどで大量に作られていました。それにより、男性の性的欲求がポルノ他の創作物で満たされてしまい、少子化が一貫して進み続けて、男性の生涯未婚率が大きく上昇したとされています。それが、昨今まで続く少子化の元凶となっています。』

「それでポルノを禁止にして、子供を猥褻物扱いにして、創作物に男を出さないようにまでして……少子化は解消したの?」

『いいえ。未だに少子化は進行していますが、これらの政策が実を結び、出生率が増加に転じるのは時間の問題だろう、というのが政府の現在の見解です。』

「へぇ~……そいつは楽しみね。」

『そうですね。いい結果に繋がることでしょう。』

 やはり、クリオリには皮肉は通じないらしい。

「とにかく、体形を直せばいいわけね。」

『そうですね。』

 ゆり子はタブレットを取り出し、先程描き上げたばかりの絵の修正に取り掛かった。

 クリオリに言われた通り、胸を削ぎ落とし、胴回りを太らせ、尻は絶壁にする。

「洗濯板、寸胴、平尻……洗濯板、寸胴、平尻……洗濯板、寸胴、平尻……」

 修正しながら、ゆり子は呪文のようにつぶやき続けた。

 やがて、修正が完了すると、ゆり子は画像をデータ化して、クリオリに放り込んだ。

「どう?これなら規制に引っかからない?」

『はい。規制に引っかかる要素は一つもありません。』

 三日目にしてようやく、クリオリからその返答が返ってきた。

 ここまで、本当に長かった……が、ゆり子は出来上がった主人公を不満そうに見ている。

「全然魅力的じゃないなぁ……」

 漫画を描く場合、この主人公を何百何千回も描かなければならない。それだけに、自分のお気に入りのデザインにしたかったのだが、このキャラは一回描くごとに、いちいちストレスになりそうだ。

『しかし、この衣服の形だと、恐らく下着の形が不自然になる為、その点は改良の余地があると思われます。』

 クリオリが割とまともな改善点を指摘してきた。

「あー、巨乳を前提でデザインしたからね。どーしようかな。」

『実物を参考にすることを推奨します。田中ゆり子さんは補正下着を所持していますか?』

「あー、あたしは体形的に補正下着は必要なくて……って、言わせんじゃねぇよ!!」

 ゆり子はパソコンの電源を落とした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ