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王子様なんかじゃない!!  作者: 木野ダック
17/26

17.羽角くんと文化祭1

運動会がやっと終わった翌週のこと。

「文化祭実行委員!?」

「そう、頼めるか?」

放課後、呼び出された職員室で担任の先生からそう言われた。

いやいや、そんなの引き受けたら放課後居残りとかあるでしょう?氷雨さんとの下校時間は貴重な交流タイム。それを侵されるなんて無理無理!それに私、まとめたり導いたり、そういうの苦手だし絶対やりたくない!

だから『無理です!』キッパリさっぱりそう言う筈だったのに。

「な、何で私……でしょうか?」

頭の中で猛烈な拒否反応を出しながら、平和第一な私の信条が自然と穏便への言葉を紡がせた。我ながら情けない。

「いやぁ〜、お前、委員会入ってないだろ?」

そう来たか。

「……入ってないです。けど、委員会入ってない人なんかクラスに何人もいますよ?」

物腰柔らかに穏便に。けれどもちゃんと乗り気でないことを醸し出す。

「いやぁそうなんだけどさ。そう言う奴らって大体部活入ってて、忙しそうなんだよな」

ほう……そう来たか。

確かに、美子ちゃんは華道部で、麻子ちゃんは体育祭実行委員。氷雨さんだって図書委員。身近な所だけでも皆、何かしらやっている。

いや、でも他にもいるでしょ……。他にも……。他……ほか。うーーーん……。

頭を巡らせても、一向に該当者を見つけることはできなかった。

あれ?完全無所属って私だけ?

「それでだ、花竹は部活も委員会もどっちも入っていないだろ?」

「うっ……はい」

痛いところをつかれた。

「だからお願いできないかと思ってな。どうだ、やってくれるか?」

キラキラと大人の悪い笑顔。人助け感をちょっと出してくるところが特に悪い。しかし、それを悪びれもなく向けてくる先生には抗えず。

「……はい」

正直、感情なんて1ミリも乗ってなんかいなくって。圧に押し負けて思わず声が出ちゃったような感じだった。例えるなら、お腹を押されて思わず『ぐえっ』って声が出るみたいなのが近い気がする。いや、それよりかは怖い人に追い詰められて思わず『ごめんなさい』って言っちゃう感じ。

とにかく、そこには少しも私の気持ちは入っていなくって、こんな生返事が私と氷雨さんの大切な日々を分かつ事になってしまうなんて考えてすらいなかった。


文化祭実行委員は、各クラス2名。男子1名、女子1名で構成される。

つまり、先述の通りに文化祭実行委員を引き受けてしまった私には相方がいるということで。そして、その相方というのが、机を挟んで目の前に座っている、羽角秋季(はすみしゅうき)という人物だ。彼については、同じクラスというだけで一切関わりが無いのでよく分からない。だから、私が抱くイメージとしては『多分そこそこのイケメン』。目鼻立ちがすっきりとまとまった、氷雨さんとは違ったタイプの中性的な印象だ。

まぁそれくらいなものなのだ。

放課後の教室、早速居残りかぁなんて憂鬱ながらに出し物の希望アンケートの集計をとっていた時のこと。

「そういえばさ、女子の実行委員って山田さんじゃなかったっけ?」

そう話しかけてきたのは、羽角秋季だった。

静かな教室、同じクラス同じ委員会(しかも既に四回程は活動している)という共通点がありながら、未だ顔見知りという表現がしっくりくる仲には些か不釣り合いな明るく軽い、フレンドリーな口調だった。

話をできるだけ盛り上げたくない私は「確かそうだね」とだけ、わざと素っ気なく返す。どうか話が続きませんように。

しかし、願い虚しくまだお話は続いた。返事がテンポ良く返ってきたかと思えば、なぜか彼は盛り上がっている。テンションが上がっているせいか、思っていたよりも声が高かった。

「あー、やっぱそうだよね!委員会とか決めたのって入学して割とすぐだったじゃん?だからまだ顔と名前とかあんま一致してなくてさ。うる覚えだったんだけど、なんか違かったよなーって」

いや、良かった〜。独り言のようなものを呟くと、羽角秋季の口が止まった。

勿論、私も。ここで会話を終わらせよう。そんな気持ちで口をつぐみ、正の字で集計を行うだけの単純作業の手を、敢えて忙しなく動かした、のに。

「でさ、何で花竹さんに変わったの?」

普通に話を続けてきた。

素っ気なさを出すために、わざと顔を上げずに話をしていたけれど、もしかしたら彼も同じ様に顔を上げていないのかもしれない。

とりあえず、嫌われたいという訳ではないので返事だけはしておくことにした。そうして、口を開きかけた時。私よりも先に羽角秋季の声が放たれた。

「あ!ごめん!別に花竹さんが嫌とかじゃないから。気にしないでね」

無駄に上手く心をモヤつかせてきた。だからつい、返してしまう。

「…………山田さん、風紀委員やってるから。委員会は掛け持ちダメなんだって」

「あ、そうなんだ。それで立候補したの?」

「してない」

素気なくするつもりが、つい食い気味に答えてしまう。これが策略だった恐ろしい!

「えー。そうなの?てっきり、もっと違う理由があるのかと思ってたのに」

「何それ」

「いや、自分で言うのも何だけど。花竹さんに好かれ――」

「ないから」

「えー、最初とか凄い緊張してたしさ、さっきも全然顔上げなかったから、絶対そうだと思ったんだけど」

「そんなわけないでしょ」

「でも、氷雨さんに話しかける時とおんなじ感じだよ?花竹さんって氷雨さんのこと好きだよね?」

そう言って爽やかな笑顔をあざとく傾ける様は、完全に私をおちょくっていた。遊ばれている、舐められてる!久々に感じるこの下手に見られる感じ。心の底から腹立たしさが湧いてくる。

本当は、こんな変な人、我慢して適当にやり過ごすのが1番良いのに。

「一緒な訳ないでしょ。コンタクト作り直した方がいいんじゃない」

気がついたら席を立って目下の羽角君に吐き捨てていた。

けれども、その言葉が羽角君の顔色や気分に影響を与えるかと言ったらそんな事はなく、変わらぬ軽い調子で「あー、こう見えて裸眼なんだ」とだけ返してくる。

何がこう見えてだ!

「なら今すぐ眼鏡がコンタクト、作った方がいいと思う!」

「わ〜花竹さん、結構言うね。そっちの方が話しやすくていいと思うな」

「別にぶりっ子してたわけじゃないから!」

「そうなんだ。でも、今みたいな方が可愛いよ」

多分そこそこのイケメンに、しかも笑顔で言われて、昔の私なら結構喜んでいたかもしれない。でも今は、スッと身体中の血が落ち着くのを感じる。

「いや、全然嬉しくないからね。っていうか、早く集計終わらせようよ!早く帰りたいんだけど!」

そう言った。はずなのに……

「あ、そうそう。さっきは色んなこと言ったけどさ」

ダメだ。全然聞いてない。

意気地を砕かれた私は諦めて腰を下ろそうとした、そんな時。

「結局、花竹さんが男子全般に壁作り気味なのってさ。お姉さんとの仲を取り持つようお願いされたりすんのが嫌だからでしょ?」

爆弾が投下された。私にとって最大の闇をはらむ爆弾を!

おろしかけた腰を再びピンッと張って、羽角君を見下した。

「私、帰る」

「まだ、終わってないじゃん」

羽角秋季は集計表をピラピラと煽ってくる。

「……っ」

何も言えないのが悔しい。何かしら反撃し得る言葉を紡ぎたいのに、私の頭からも口からも何にも出てこない。ただ、顔が不機嫌に歪んでいくのだけが感じられる。

「それにさ、別に男子に限ったことではないでしょ?女子だって、お姉さん目当てに打算的に近づく子だっていそうなものだけど」

別に答える義理は全く無かった。けど、ただ無言でいるというのがとてつもなく悔しくて、それだけで口を開いた。

「…………いたけど、男子ほど酷くは無かったし。それに、無理って言えばちゃんと分かってくれた」

というより、女子の中ではカリスマ的な美子ちゃんと麻子ちゃんの存在が大きくて、あまり強く言える子がいないのだ。

「ふーーん?まぁ、何にせよ安心してよ。こっちは別に『仲取り持って』なんて言うつもりないからさ」

「皆、そう言うけどね」

「ははっ。花竹さん、捻くれてるね〜。でもまぁ、もし何かの偶然で世間に知れ渡る有名人になっちゃって。その流れて花竹さんのお姉さんと知り合って付き合ったけど、海外進出とかが理由ですれ違い。とかになったら、花竹さんの協力を仰ぐことはあるかもね」

「自過剰。そんなんあるわけないでしょ。っていうか、やっぱりお姉ちゃん狙いなんだ」

「いやいや、全く狙ってないし。これは例え話。つまり、1からは頼むかも知れないけど、0からは頼まないってことだよ」

「なんか……胡散臭い」

「失礼だなぁ」

その小言は幾分親しみやすさを感じさせるものだった。

「まぁ、とにかく安しーー」

羽角秋季の調子の良い台詞に耳を傾けながら、不意に目を向けた窓の向こう側。私はあるものを見つけた。

私にとっての最優先事項。目が完全に捕らわれてしまった。

「氷雨さんだ!!」

気が付けば身体がガラス戸を開けていた。それで、ベランダへと足を進める。

「氷雨さーーん!!」

4階建校舎の3階から、ちょうど帰るところの氷雨さんにもちゃんと届くように、お腹の底から大っきな声を出して叫んだ。その甲斐あって、届いた声に氷雨さんが綺麗な黒髪を綺麗に広げて振り返る。さっきまで心に巣食っていたモヤモヤなんか一気に晴れていき、私は腕の根元から大きく手を振った。

「今帰りなのーー!?」

叫ぶ声に氷雨さんは小さく頷く。

視力が良くて本当に良かった!

「一緒に帰りませんかーーー!!」

そんな公開告白みたいなお誘いに、部活動始めまだ割と残っている人達の目線が私に刺さる。勿論、氷雨さんが同じように「いいよー!」なんて叫び返してくれることはないけれど、ドキドキしながら見つめた先で、氷雨さんは近くのベンチに腰掛けて、徐に本を開いた。

私は綺麗な回れ右を決めて、すっかり存在を忘れていた羽角秋季に喜色満面で向き直る。

「ということだから。やっぱり帰るね!」

「いや、だから、まだ終わってないって」

「じゃあ、私家でやってくるよ!」

「流石にそれは悪いでしょ」

「大丈夫!気にしないで!」

私が氷雨さんと帰りたいだけだから!!

「いや、気にしないでって言われても……」

一刻も早く駆けつけたいと言うのに。何故か今更見せる羽角秋季の良心にもどかしさを感じた。

「2週間ぶりなの!!」

羽角君の、は?という顔。

「氷雨さんと帰るの!ここ最近、委員会の集まりとか多かったでしょ?全然帰れてないの!」

「……あ、うん」

「だけど、久々の氷雨さんとの帰れるチャンスなの!」

「……うん」

「だから、羽角君は悪くない」

私の勝手だからね!

「……」

「ということで、私は私の為に帰るから、責任は取るよ!あとは任せて!」

言いながら作業途中のアンケートをかき集めて鞄に押し込んだ。それから「じゃっ!!」と掌掲げて挨拶をした。羽角秋季のポカンとした顔を置いたまま、一目散に走り去る。

その足はとても軽くて、久々の氷雨さんとの時間に笑顔が溢れ出すようだった。


いつもお読みいただきありがとうございます!


ここから四回ほど氷雨さん度が減ります。ちょっとの間、百合感無くなりますが後日百合になりますので、宜しければお楽しみください(^^)

加えて、前回の投稿分、誤字脱字のご報告ありがとうございます(^^)!!

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