↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様なんかじゃない!!  作者: 木野ダック
15/26

15.氷雨さんと夏祭り2

お祭りといえば、たこ焼きイカ焼きお好み焼き、そして、わたあめりんご飴チョコバナナかき氷、型抜きスーパーボール掬い、そしてヨーヨー釣りにソース煎餅。定番ものはざっと網羅した頃、椿さんから一つ提案があった。

「ちょっと休憩をしましょう。さっき、店の裏手に座れる所があると聞いたわ」

お腹も膨れていい頃合い。慣れない服装と感情に、ちょっと疲労も溜まってきていた私は迷わず賛成した。

そして、お祭りの喧騒から少し離れ、静かな木立ちの中にあるベンチに3人で腰掛けた。

「あ、そうだ。喉乾かない?私何か買ってくるよ!」

「私も行くわ」

予想外だった。真っ先に氷雨さんと2人きりになる事を喜びそうな椿さんが、何故か私と行くと言う。とてつもなく嫌な予感がする……。

「いや、いいよいいよ!定番的なものはあると思うし、適当に言ってくれたら何か買ってくるよ。それに氷雨さん1人とか危ないでしょ」

両手を振りながら後退り、顔には笑みを貼り付けた。けど……。

「あまりこう言う場所に馴染みがないの。定番と言われても分からないわ。それに深王ちゃんなら大丈夫よ。分かったら、行くわよ」

「いや、でもさ」

私の答えなんか求めてないとでも言うように強引に腕をひかれた。そして、「深王ちゃん、すぐ戻るから。待っててね」と天使の笑顔をその場に残し、椿さんは私を引っ張り去っていった。


少し歩いて、氷雨さんの姿はもう見えないなって辺り。

「貴方、深王ちゃんのこと好きなの?」

私を引っ張りながら振り向きもせずに放たれた言葉だった。

「え……えっと、好き……だけど?」

そう答えると、ピタリと歩みが止まった。そして、椿さんは振り返る。その表情は、今までのどんなものとも違って、よく研がれた刃をみたいに鋭いものだった。

「そう。私もね、大好きなのよ。深王ちゃんのこと」

言いながら、椿さんは私の手を離す。

「ねぇ、貴方は深王ちゃんとどうなりたいと考えているの?」

「ど……どうって?」

「ええ、友達とか親友とか。あと……恋人とか」

「こっ、恋人!?」

思わず叫んだ。

このご時世、そんなに特異というわけでもないけれど、だからといってありふれている訳ではない『同性』と『恋人』との結びつき。それを、実際に現実として耳にすると、なんていうか気恥ずかしい様なムズムズした気持ちになってしまう。

でも、さすが自ら口にするだけあって椿さんは何一つ動じてなくて。むしろ、私の様な反応に飽き飽きしているかのような、至極落ち着いた様子。それは保健体育の先生と生徒みたいだった。

「答えにくいのなら、どんなことをする仲になりたいのか、でもいいわよ」

どんなことを……。

確かに、関係性を一言でなんて言われるよりは答えやすいけど。かといって、『仲良くなりたい』の先を明確に見据えて行動する高校生ってそんなにいないんじゃないだろうか。男女ならまだしも女の子同士でなんて特に。とは言え、椿さんの射抜くような視線が突き刺さって、急かされるように口を開いた。

「い、今は誘ったりとか、話しかけたりとか。そういうの、私からだから、氷雨さんからも来てくれるようになったらいいなぁ――とかは思ってる……けど」

見切り発車で開いた口は、確かに嘘偽りのない私の気持ちを伝えてくれたけど、椿さんの問うものに答えるには少し物足りない気もして。けれど、その不足を足して伝えるほどにはまだ自分の気持ちを掴めていなかった。だから、私は椿さんに目を合わせることは出来なかった。

「そう。その程度なのね」

その言葉には、嘲笑が込められていた。

「その程度で貴方は深王ちゃんの手を取るのね。深王ちゃんに気にしてもらえて、笑ってもらえて、優しくしてもらえるのね」

あ、これダメなやつ……。

そう思った時にはもう、思わず上げてしまった顔を元に戻すことは出来なかった。椿さんの空気をも切り裂きそうな雰囲気が、とてもそうはさせてくれなかった。

「貴方、とても不愉快だわ」

ここまで明確に向けられた敵意は、生まれて初めてだったけど、意外と冷静になれるもんだった。

私がキャラだとか冗談半分だと思っていた椿さんの私への態度は、きっとその一つ一つ全てが本気のもので、実際に会うよりもずっと前、多分情報として氷雨さんに近づく私という存在を認識した時から、椿さんは私の事が大嫌いだったんだろうなってそう思った。だから、時間が経って表面こそ冷めているけれど、まだ中は火傷しちゃうくらいには熱々で、知らずにいた私はきっと大火傷を負うんだろう――

「私はね、深王ちゃんにも好きだと言ってもらえる関係になりたい。そして、四六時中私の事を考えていてほしい。会えない時はもちろん、会っている時も、他の人と話している時も、どんな時も。私が深王ちゃん以外の人と話したり仲良くした時はやきもちを妬いて欲しいし、知らない時間を不安に思ってほしい。全ての時間で私を意識してほしい。それが私の望む関係。つまり、恋人になりたいの。そういう『好き』なの」

椿さんは満足げに微笑む。そして、距離を詰め、私の耳元に顔を寄せる。

「ねぇ、周りを見て。道ゆく人の多くが恋人だったりそれ未満でも想いあってるような人達ばかりじゃない?」

耳元で言われた言葉はまるで洗脳されたかように、腕を組んだり手を繋いだり、抱き合ったりしている、そんな人たちばかりを目につかせる。そして。

「貴方のは、友愛。そして、私のは恋愛。それならこの場をどちらが譲るかは簡単なことよね」

言い終えて去っていく椿さんに何も返せないまま、ただその背中を見送った。


小さくなる背中を見送りながら私は考えた。

このまま私が帰ったとして、椿さんが適当に辻褄合わせをして、きっと氷雨さんは気にしなくて。それで、椿さんと氷雨さんのお祭りが続いて行く。ただそれだけ。

何も問題ない。

何も問題ない。

そう思えば思うほど、どうしても何かが引っ掛かる。とても大切な、忘れてはいけないようなもの。

『もう良いの?』

氷雨さんの言葉が蘇る。

それは、私が氷雨さんの手を無意識に握ってしまっていた時の言葉で。私の気持ちに寄り添う言葉。

そういえば、いつからだっけ。氷雨さんが私と一(・)緒(・)に(・)居てくれるようになったのは。最初に帰った時なんか、気持ちどころか存在すら意識されてるのかも怪しかったのに。

そんな氷雨さんが、私が何も言わずに帰ったとして、本当に何も思わない?気にしない?

ルーレットのコツひとつ、真剣に向き合ってくれる氷雨さんが――――本当に?


「んな訳ないでしょ!!」


気が付いたら走ってた。

慣れない下駄で走るからやっぱり大変で、その上、人混みで。それでも、なんとか椿さんの背中を捉えて、腕を掴んだ。

「――待って!」

「何?」

あからさまな嫌悪顔が振り向いた。美人のキレ顔は迫力がありすぎて、正直怖い。いつもの私だったらヘコヘコ笑って逃げちゃうやつ。でも、怖気付きそうになる自分は叫んで振り切った。

「私は帰らない!絶対帰らないから!!」

「はぁ!?」

「今日は3人で行くって、氷雨さんが言ったんだよ!それなのに、勝手に帰るとかやっぱりおかしいと思う!氷雨さんが、嫌だ帰れって言うなら駄々こねるけど聞くし、2人きりにしてって言うなら考える。でも、そうじゃないなら私は帰りたくない!そんな、氷雨さんの気持ちまる無視したこと、私はしたくない!」

残念ながら私はエリート運動音痴なので、こんなちょっと長めの主張をしたくらいで息が上がってしまって結局格好はつかないのだ。そんな私に椿さんは容赦しなかった。

「何よそれ!それじゃまるで、私が深王ちゃんの事を考えてないみたいじゃない!」

張り上げた声が私を思い切り引っ叩く。けど、私もやり返す。今回ばかりは引けないから!

「みたいじゃなくて、考えて無いじゃん!」

「そんな訳ないでしょ!元はと言えば今日は私と深王ちゃんの2人きりだったの!それを途中から割り込んできたのは貴方。深王ちゃんの深い慈悲のおかげで来れたんだから、少しは弁えなさいと言っているの!」

「確かに、邪魔しちゃったかもなのは申し訳ないなって思ってるよ。でも、氷雨さんは嫌って言わなかった!断らなかった!氷雨さんなら嫌ならはっきり嫌って言うでしょ!?」

「ーーーーっ!!」

睨みつけてくる椿さんの気持ちはよく分かる。2人きりを期待して、叶わなかった。同じ気持ちでは無かった、その思いは同じものだから。

「今日、氷雨さん、お祭り楽しそうだった。それじゃダメなの?」

「うるさい!!ダメに決まってるでしょ!私はね、もう何年もただの『親戚』なの。深王ちゃんに恋をして、私の中ではどんどん深王ちゃんの存在は大きくなっていくのに、深王ちゃんの中では何年経っても変わらない。だから、ただ楽しいなんてそれだけじゃダメ!そんな思い出なんかもういらない!もっとトキメいてドキドキするようなそんなものが欲しいのよ!」

言い切った椿さんは、気取るなんてもののかけらも無く、年相応というか少し幼いというか。ありのままを曝け出す彼女は、ただの思春期真っ盛り、少し拗らせちゃった一人の女の子にしか見えなかった。

まぁ分からなくも無い。私たちみたいな女子は、幼少からここぞとばかりに王子様なんて理想を植え付けられて育っていく。それは、おとぎ話だったり、漫画アニメだったりするけれど。それでも、強い憧れを抱くのは当然で。またそれが、成長の中でどんどん現実に重なっていくのも当然で。私の場合はたまたまその対象が乙女ゲームだったから、需給がいい感じにバランスとって、こんなに飢えたりする事が無かっただけで。

もし私の乙女ゲーム愛が、現実の誰かに向いていたら…………うっ、ゾッとする。もしかしたら、お天道様の下を歩けない人間になってるかもしれない…………こわっ!

という訳で、こういうのは、ある程度自分で処理しなければならないのだ。それこそ、想像とか妄想とか、ゲームとかで!人に押しつけてまで叶えることじゃない。人様に迷惑のかからないように遊びなさい!って小学生だって言われてる。そんな私たちはもう、中高生、いい歳なんだからさ。

「――甘えんな!この色ボケ中学生が!!」

私は声を大にして言い放った。周りからはチラホラ目線を感じて、少し恥ずかしい。

椿さんも多分生まれてこの方浴びせられたことのない暴言に、口をパクパク、お魚のよう。

「まずは自慰を覚えろこのお嬢様め!」

「はっ……はぁ!?」

真っ赤になる椿さん。でも容赦しない。

「そう言う憧れっていうやつは、ちゃんと自分で線引いて、制御しないといけないの!そんでもって、叶わないのとか難しいやつは、妄想とかで慰めるもんなんだよ!分からないなら、教えてあげる!だから、そんな強欲処理を氷雨さんに求めるな!!」

「なっ……何がわかるのよ、貴方に」

そう言う椿さんは、口をつぐんで私を睨んではいるものの、先ほどまでの触れたら切れちゃいそうな鋭さは無くなっていた。その代わり、目を潤ませて顔を赤らめる様子からは幼子を感じさせるものがあった。そして、それは私をお姉さんに仕立て上げた。

「……わざわざ求めなくたってさ、些細な事すらドキドキしたり、ときめいちゃったり。勝手にそうなっちゃうものだからさ」

「偉そうに……」

だいぶ威力も迫力も弱った減らず口は可愛らしさすら感じられるようになった。

「一応、年上ですから」

そう言って、私はその場にしゃがみ込んだ。

「さ、乗って」

「は!?さっきから何なのよ!乗るわけないでしょ!」

「何言ってるの。指、痛いでしょ?」

椿さんに腕を引っ張られて、やや重めの話で視線を落とさなければ多分気が付かなかった。皮が剥けてかなり痛々しいのに、顔色ひとつ変えず振る舞って、ずっと我慢をしていたんだろう。氷雨さんとの時間を楽しむために。

「別に大したことないわ」

「うそつけ。歩くたびにヒリヒリする癖に」

「何を言っているか分からないわね」

「もぅ〜、めんどくさいな。パシリにしてるとでも思ってくれていいから早く乗ってよ!」

「嫌」

流石血縁。はっきりした物言い、そして頑固。そっくりだ。

「ていうか、あんまりモタモタしてると氷雨さん待ちくたびれちゃうんだけど!」

「うっ……」

「こんな事している間に氷雨さんに何かあってもいいの?」

「くっ……」

「氷雨さん、待ってるよ?」

「うぅっ」

氷雨さんをダシにするのはとても気が引けたけど、それでもやっと近くまで寄ってきた椿さんを見れば、まぁ結果オーライってやつだろう。そして、椿さんは悔しそうな顔で少し立ちすくみ、暫くしてゆっくりと私の肩に手を掛けた。徐々に感じる背中の温もりに、下から手を回して身体を支えた。

「じゃあ、行くよ」

ゆっくりと立ち上がる。

小柄ながらも抜群のスタイルを誇る椿さんの身体はやっぱりそこそこ重い。けど、柔らかくて、とてもいい匂いがした。

「お、落としたら承知しないから!!」

「はいはい」

そうして私達は、本当に文字通り、一緒に氷雨さんの元へと戻っていったのだった。


お祭りの翌日の事だった。

じっくり休んで目が覚めて、それでもぼんやり昨日の出来事を夢に見るように思い出していると、インターフォンが鳴った。

まぁ、誰か出るだろうと、他力本願で聞かぬふりをしていたがその音は一向に鳴り止まない。家には誰もいないのか、はたまた皆同じ思惑か。時間を見れば朝の8時。休日のこの時間は早朝扱いだぞ!なんて、ちょっと腹立たしく思いながらも渋々玄関へと向かった。

鍵を開けてドアノブに手を掛けてから、「あれ、そういえばオートロックの方鳴らなかったよね?」と気付いた時には遅かった。

昨日の今日で少しだけ気まずい相手、椿さんが立っていた。

しかも何故か照れ臭そうに。

「おはよう。あからさまな寝起き姿ね」

「あっ……うん。本当に今起きて……」

寝癖ボサボサ髪。こんな時に限って、よれよれTシャツ、ボクサーパンツレベルにぴちぴちの短パン。どうしたものか。頭はまだ居眠りモードらしく、見たままを処理するだけで精一杯。

「もしかして、私が起こしてしまったのかしら?」

「あ、ううん。目は開いてたから」

「そう。なら良かったわ」

なんか……椿さんの様子がおかしい?

昨日までの椿さんなら私の事情など気にもしなかったはずなのに、目の前の椿さんは私を気にかけ安堵している。言葉だけならまだしも、その表情までもが一言一言沿うように変化していく。

心配そうな顔、安心した顔。そして、なぜか終始ほんのりピンク色。

何だこれ!?

「今日、早くに貴方を訪ねたのには理由があって……」

思わず固唾を呑んでしまう。

あの椿さんが顔を赤らめ、もじもじしながら我が家を訪問する理由。全く見当がつかなかった。

「こっこれ!!」

もじもじしたかと思ったら、意を決したように差し出されたのは何やら上等そうな紙袋。それは何だかバレンタインにチョコでも渡されるみたいだった。

「えっと……私に?」

コクリと頷く。

「あ、ありがとう」

恐る恐る受け取った紙袋は思ったよりもずっと重みがあった。中を覗けば、タッパに詰められた黄色い半月状のもの。

「おっ……お好み焼き!!」

その言葉の何処に羞恥を抱くのかさっぱりわからないけれど、とにかく椿さんはその顔を一層赤く染め上げた。

「つ、作ったのよ!今朝、深王ちゃんに手伝ってもらって」

「え!今日!?っていうか、そんな大切なものを私がいただいちゃっていいの?」

氷雨さんと2人で作った料理なんて、『絶対あげないんだから!』とか言いそうなものなのに。

「それは、は……はなっ……貴方に作ったものだから」

「そ、……そっか」

寝起きの頭には荷が重かった。一夜にしてまるで別人のように変わってしまった椿さん。なんで?なにが?とか疑問ばかりが浮かんできて、私は迷宮に放り込まれたようになる。ぐるぐる回る頭で生み出されるのは結局無数の疑問符だけ。出会って間もない私には、いつまで経っても椿さんの変貌の意味を見つけられる気がしなかった。

だから、早々にぷつんと思考の糸を断ち切った。考えても無駄だ、と。

椿さんの私に対する態度の変化は、多分ギンギンに目が冴えていたって察するのは容易ではないはず、ならば寝起きのポンコツダメ(脳)みそなんかで太刀打ちできるはずがない。そう諦めたら、気楽なものだった。

一旦、昨日までの椿さんは忘れよう。今目の前の椿さんこそが椿さんだ!!

そして私は迷いを断ち切るように顔に笑顔を写す。

「ありがとう!」

「でっでも、昨日の夜思い立ったから、まだお店開いてなくて……。お家にあるもので作ったから、お祭りのとは全然違くなっちゃって……。それに、初めて作ったから形も上手く出来なくて……」

「え、すごい美味しそうだよ?」

袋の中から覗く半分に切られたお好み焼きは縁は、所々が欠けたり突き出したり、時々折れ曲がって焼かれていて、それだけで椿さんが苦闘しつつ頑張って作ってくれたということがよく分かるものだった。

想像すると少し笑ってしまう。自然と微笑ましい気持ちが湧き上がる。

「椿さん、ありがとう。食べるの楽しみにしてるね」

「ーーーーっ!!」

さっきまででも十分赤らんでいた椿さんの肌が、また記録更新をされていき、その顔は見たこともないほど、真っ赤に艶めいていた。

何故今なのか?っていう思いも勿論ある。けど、今の私は、理解できないことはスルーと決めたのだ。

「あ、あとこれも!!」

可愛らしく斜めにかけたポシェットから椿さんが取り出したのは小さなカード。

「わ〜、なんだろう」

「わわっ、私の連絡先よ。良ければ連絡してちょうだい」

「うん、分かった!ありがとう」

「あ、あと、もし良ければ名前を……。『花竹さん』と呼んでもいいかしら!?」

「全然いいよ!」

「……は、花竹さん」

「はい」

「……」

「……どうしたの?」

「あ、あのやっぱり……。嫌ならはっきり言って欲しいのだけど『ひめりさん』と呼ぶのはダメかしら!?」

「え?全然いいよ。ていうか、『ひめり』でいいよ」

「よ、呼び捨て!でも、私の方が歳下なのに、そんな……」

「言っても数ヶ月でしょ?それに、『ひめりさん』ってなんか上品そうな感じ出ちゃって似合わないし」

「……ひ、ひめり?」

「うん!やっぱりそっちの方が落ち着くよ」

「……わ、分かったわ。じゃあこれからは、ひ、ひめ……、ひめ……り。そう呼ばせていただくわ」

「うん」

「あ、あの、あと……」

ピコン♪

多分スマホのメッセージ音。その音で椿さんの赤く染まった晴れやかな顔はちょっと曇りを見せた。

「あ。もう……時間だわ」

ポツリと言うと、椿さんは少し俯いた。

「えっと、お出掛け?」

首が横に振られる。

「もうすぐ学校だから、今日は家に帰らないと行けないのよ」

「……そっか」

「……」

「……」

「ひめり!!」

気まずいと言う程でもないけれど、何とも言えない沈黙を私の名で切り裂かれた。反射的に姿勢がピンッと、気まで引き締まって声が出た。

「はっはい!!」

「別に天気でも体調でも、話題は何でも構わないの。……だから!ひめりからの連絡を、待っているわ!」

「あ……うっ、うん、まかせて」

何を言われるのかと覚悟した割にはそんな事……なんて、口が裂けても言えなかった。

「じゃあ、私はもう行くわ。下に車が来ているから」

「うん。えっと……、元気でね?」

「ええ!またすぐ会いにくるわ!」

そう言って、手を振りながら颯爽と去っていく椿さんを私は見送った。

そんな様子を見て少しずつ覚醒し始めた頭に1つの可能性が浮かび上がる。

なんか私、好かれたのか?

……。

……。

「ってそんな訳ないか。ま、認められたって感じだよね?たぶん」

めでたしめでたし。なんて、お気楽な頭で二度寝に戻ったから。矢印の向きが知らぬ間にちょっとズレちゃってるのには全く気が付かなかった。

かくいう私は、椿さんに最初の連絡を入れた今日の午後から来年の秋まで毎日連絡を取り合う、よく分かんない関係になっていくのだった。


いつもお読みいただきありがとうございます!

熱中症気味で、更新がまちまちになってしまってます( ; ; )

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ひめりちゃん、魔性の女だったんだね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。