最終話:偽物のヒーロー
そいつはやって来た。否、最初からいたと言っても良いだろう。
シールド・ブルーの姿をした俺がそこにいた。
もう1人の自分。その正体はベルだ。ベルが俺のスーツを着ているだけだ。
俺は所詮偽物だからな。最後は本物のヒーローに閉めてもらう必要がある。
「……フェイカー」
「こんにちは、ヒーロー」
「お前がやったのか? お前は何者だんだ?」
全て見ていたので、しらじらしい話であるが、台本だから仕方ない。ベルが、そう問いを投げかけた。
俺がだれなのか、今こそ世界に……
「俺はフェイカー、偽物のヒーロー」
「偽物のヒーロー。自分で名乗るのか?」
「そうだ、俺はヒーロー本部には属さない。今のヒーロー本部は腐っているからだ」
俺は最悪のヒーローとして生きていくと決めた。
ゆえに世界に宣言しよう。
「世界は俺が正す」
それはヒーロー本部への宣戦布告である。こんな馬鹿な真似、どこの悪の組織もやらないぞ。
それだけ言って、逃げるようにそのまま空へ、残念ながらシールド・ブルーは飛べないのだ。
フェイカーを逃がした理由で後で責められないようにしないため、負えない場所へ逃げた。後で怒られるのは俺なのだ。
1人2役は辛い。
すでに空には俺が作った雨雲はない。
晴れ渡る空はどこまでも綺麗で地平線の先まで澄み切っていた。
「見てたか皆、俺は同じ場所にはいけないけれど、最後までヒーローとして生きるよ。俺の正しいと思うヒーローとして、この街を守る」
そう呟くとすこしだけ心が軽くなった。
*
そんないい感じに終わるはずだったけど……俺の人生がそんなに上手くいくわけがない。
「は? スターズ……冗談でしょ?」
ローリー博士には悪いけど、俺は責任をとって本職のほうのヒーローをやめようと思っていた。その矢先である。
「おめでとう、3階級特進だ。君は表向きはサタンを捕まえたことになっているからね」
今回も、フェイカーの動画がローリー博士によって世界に拡散した。
でも、そんなものを認めるヒーロー本部ではない。結果的にサタンを捕まえた俺に手柄が舞い込んできたのだ。そのおかげで出世するらしい。
それを告げに、トップヒーローではなく理事長が帰ってきた。
「嫌に決まってるでしょ。スターズに入って1年以上生き延びた人間はいないんですよ」
最悪の存在、スターズになれと言われている。
「拒否権はないんだよ、ヒロ君」
「じゃあ、ヒーロー辞めます」
「スターズに入った人間にそんな権利もないんだよ」
「あんたそれでもヒーローか、勝手に決めないでくださいよ」
久しぶりに帰ってきた理事長は困ったような笑顔を浮かべた。『まだ20代に間違えらるの』が口癖の30代後半のおばさんだ。本当に20代に間違えられるのかは、ノーコメントでいかせてもらいたい。今は関係ないからな。
「この街の指揮権は全てあなたに譲渡されます。実質的にも名目的にもあなたがトップよ。頑張りなさい」
スターズとは、フェイスと同じトップヒーローの2部組織としてつくられたものだが、その役目は違う。フェイスのように顔だしして、国民の人気取りするスターではない。
スターズは、やばい地域を権力だけ渡して全責任押し付けられて任される閑職である。
たいていの人間が捨て駒として、早々に殉職していく。
「理事長はどうするんです?」
「私はこの街から出て行くは、お役御免てやつね。あなた、理事長も兼任なさい」
「部下を見捨てるんですか?」
「もう、私の部下じゃないし……」
「おい、こっち見て言え」
もう部下じゃないらしいので、敬語を使うの止めた。
「だって仕方ないじゃない。私のキャリアが傷ついたらどうするのよ。私の立身出世に響くんだからね。分かってる?」
なんて自分勝手な奴だ。腐ってやがる。
「フェイカーなんていうド級の爆弾をどうして処理すれば良いかわからないもの? ヒーロー本部の総力を結集しても、何者なのか全く不明、叩き潰そうにも人気があるんだから、下手に手が打てない」
そう理事長は早口で捲し上げる。
「でも、どうせ碌な奴じゃないから、粗を探し出してあなたが処理しなさい」
何だとコイツ殴りたい。
「私はあなたを信じてるもの。この街はフェイカーじゃなくてあなたが守りなさい」
何と薄っぺらい言葉。だが、不意に確信をついてきた。
「生き残ったヒーローたちの居場所を守るのがあなたの仕事よ」
「!」
サタンに病院を焼かれたが、何人かのヒーローは運よく生き残っていた。
長期治療が必要なものがほとんどだが、悪運だけは強い鳳凰院先輩あたりは、精神病院のほうにいたらしいのでもう少しで復帰できるらしい。
神様ってやつも粋なことをするものだ。理事長の口車にのったようで癪だが……
「受けるよ。皆の帰る場所を俺が守る」
*
1つの戦いを終えたくらいでは、世界は何も変わらない。そして良いことがあれば、悪いことも起きる。
フェイカーとサタンの戦いの場に、1人の少女が訪れていた。不幸はまだ終わってなかった。
それはただの偶然であるがまるで運命に導かれるように……
「あれは……」
赤く光るリング、それはサタンがつけていたリングだ。運命にひかれるように一人の少女の手にリングは渡り……悪魔の力は少女に受け継がれた。そんな新たな強敵の出現が刻一刻と迫っていることを、泰裕はまだ知らない。
これは、後に悪のカリスマと呼ばれる男の物語。彼の戦いはまだ始まったばかりだ。




