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神装の守護者  作者: 湊川
9/12

長くなってしまったので、分割しました。

前回のあとがきに書いた所まで辿りつけず……。

今日のうちにもう1話投稿します。


 アルスターの街の西門を入り、そこから街の中心部に向かって10分ほど歩いた所にブリジットの家はあった。


 4人家族であれば余裕を持って暮らせるであろう、それなりにしっかりした構えの家だ。


「どうぞ、入ってください!」


「ええ、お邪魔するわね」


 帰りの道中にそれとなく聞いたところによると、ブリジットの両親は冒険者であり、仕事で家をしばらく空けているのだそうだ。家には妹が居るとも言っていた。


「ただいまー!マッハ、お客さんだよ!」


 ブリジットが玄関から声をかけると、家の奥から小柄な少女がパタパタと小走りでやってきた。


「お姉ちゃんおかえり!わー!キレイなひと!はじめまして!どこから来たの?」


 ブリジットからマッハという独特な愛称で呼ばれたのは、目が覚めるような鮮烈(せんれつ)な赤い髪色をした、快活な少女だった。


「こら!そんな風に尋ねたら失礼でしょ!……すみません、礼儀がなってなくて。妹のマハリヤです」


 矢継ぎ早にまくし立てる妹を慌てて(たしな)めるブリジット。


 姉が妹のことを叱ってはいるものの、二人はとても仲の良さそうな様子である。


 だが、そのやり取りを聞いていたエルネリアには、とてつもない衝撃が走っていた。




(マッハ、と言った……? それに、この赤い髪……。まさか……!?)




 その名に、その色に、覚えが、あったから。






 AWOには、数多くの人気キャラクターが存在した。


 様々なクエストやイベントに於いて魅力的なキャラクターが登場し、一部のキャラクターに至っては、追っかけをするプレイヤーすら居た程である。


 まるで本物の生きた人間のように振る舞うNPC達は、AWOの目玉の一つであるとまで言われていたのだ。


 その中で、AWOのサービス初期から根強い人気を誇るキャラクターが居た。


赤鬣(せきりょう)』と呼ばれるそのキャラクターは、サービスが開始して間もなく開催されたレイドイベントに登場。


 全身に深紅の装備を(まと)い、圧倒的な火力を誇る炎魔法と苛烈なまでの憎悪を魔物にぶつける女傑。


 そのあまりに苛烈な性格は、現地の味方NPC達にまで恐れられていた程であった。


 大陸西部には珍しい鮮烈な赤色の髪を、まるで獣の(たてがみ)のように(なび)かせる様から、付いた通り名が『赤鬣(せきりょう)』。


 未だAWOに馴染みきっていなかったプレイヤー達を率い、自ら最前線に立って初のレイドイベントを勝利に導いたことから、数あるNPC達の中でも十指に入る程の人気を誇っていた。


 魔物に家族を奪われ、復讐のために全てを捨てて戦いに身を置いていた彼女は、過去の繋がりを絶ち切るために自分の名前すら捨ててしまったのだと言う。


 魔物の多い土地を転々とし、ただひたすらに戦い続ける。


 そんな彼女だが、長年のAWOのサービスの中で何度も共に死線を潜り抜け、戦友と認めたほんの一握りのプレイヤーにだけ、こう告げるのである。




「マッハ、と呼んでくれ。家族は、私のことをそう呼んでいた……」








 間違いない。


 目の前の幼い少女が、未来の『赤鬣(せきりょう)』だ。


 本来、赤い髪の子供は、火属性のマナの影響が強い大陸南部でしか(ほとん)ど生まれない。


 西部に赤髪の子供がいるという時点で非常に珍しいことなのだ。


 マッハという独特な愛称だって、他で聞いたことがないくらいには珍しい。


 魔物に家族を奪われたという境遇も、まさに今日この日に実現するところだった。


 街を出ている冒険者の両親がどうなっているかはわからないが、ブリジットが無理を押してサンダーホーンに挑んだことと無関係とは思えない。


 エルネリアがあの森に居合わせなければ、ブリジットがこの家に帰ってくることは無かっただろう。


 家を離れている両親の身に何かが起こっていて、急いで解決しなければならないと焦ったブリジットがそのために危険を冒し、そして誰も帰らなかったと考えれば、幼い頃に家族を全て失ったという『赤鬣(せきりょう)』の境遇と辻褄(つじつま)が合ってしまう。




 しかし、AWOでの『赤鬣(せきりょう)』の容姿は、どう見ても20代前半だった。

 対して今目の前にいる赤髪の少女は、どう見ても10歳前後。


 そこには10年近いタイムラグがある。


 エルネリアが、AWOのサービス開始時点から(さかのぼ)って10年前の世界に転移してきた、としか考えようがない。




 異世界に転移したこと自体は正直楽しんですらいたエルネリアだが、更に10年も前の世界かもしれないという可能性は流石に考慮していなかった。


 思っていたよりも難解な事態に、しかしエルネリアは、自身を流れるゲーマーの血が騒ぐのを感じずにはいられなかった。


 未知と困難こそが、エルネリアをAWOの世界に駆り立てていたのだから。


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