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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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エピローグ

あの日、リビングのソファで勢い任せのキスをしてから。

俺たちは、名実ともにただの『モブ』と『裏方』を卒業した。


月曜日の学校で、海斗と一条さんに「実は、俺たちも付き合うことになった」と報告した時の二人の反応は、見事に対照的だった。

一条さんは「やっぱり! 絶対そうだと思ってた!」と満面の笑みで拍手してくれて、海斗は目を丸くして「……マジで? お前ら、いつの間に」と素で驚いていた。

どうやら一条さんには、俺たちの裏工作も、お互いへの気持ちも、最初から全部バレていたらしい。

さすがはメインヒロイン、観察眼が違いすぎる。


そこからの高校生活は、自分でも引くくらい、絵に描いたような王道ラブコメの連続だった。

4人で遊園地にダブルデートに行ったり。

夏祭りで、慣れない浴衣姿で現れた彩に見惚れてしまって、「……あんまり見ないで。恥ずかしいから」と顔を真っ赤にして怒られたり。

プールに行ったり、最後の文化祭を一緒に回ったり。

かつての俺なら「テンプレ展開だな」と斜に構えて見ていたようなイベントを、当事者として片っ端から回収していく日々は、控えめに言って最高に楽しかった。



高校を卒業してから、3年の月日が流れた。


「いらっしゃいませ。……ああ、なんだ。お二人ですか」

「なんだとは失礼な。今日もちゃんと課金しに来てやったぞ、マスター」

「お疲れ、渉くん」


カランコロンとドアベルが鳴り、入ってきた二人組に俺は苦笑いしながらお冷を出した。

高校3年の頃からこのカフェの常連になってくれた、動画編集者の彩音さんと、BGM制作をしている翔しょうさんのカップルだ。


俺は今、21歳。

俺が住んでいるアパートの1階にあるこのカフェで、マスターとしてカウンターに立っている。


元々、この店は親戚が営んでいたんだけど、俺が高校を卒業する少し前に「腰痛がしんどいし」と、突然店を畳むと言い出したのだ。

でも、俺にとっても、彩にとっても、ここはたくさんの思い出が詰まった大事な場所だった。

だから、6年間ここでバイトをしてノウハウを叩き込まれていた俺が、「じゃあ、俺が継ぐよ」と勢いでマスターにおさまった、というわけだ。


経営なんて素人の俺がやっていけるのか不安だったけど、結果から言えば、店は生活に全く困らないくらいには繁盛している。

その理由の一つが、目の前でコーヒーを飲んでいる翔さんたちの存在だった。

彼ら経由でいろんなクリエイターの人たちが店に出入りするようになり、高校時代の友人たちもよく顔を出してくれるアットホームな店になった。


そして何より大きいのが、『聖地巡礼』のお客さんだ。

とある人気小説の舞台のモデルとしてこのカフェが使われたことで、遠方から足を運んでくれる人が増えた。

その小説の挿絵を担当している人気イラストレーター『Fuyu』先生の正体は、しょうさんの友人だ。

店内の壁には、Fuyu先生が開店祝いに描いてくれた美しいイラストが額縁に入れて飾られていて、それを目当てに来るファンも多い。


「渉くん、3番テーブルのオムライス上がったよ」


厨房のドアが開き、エプロン姿の女の子が顔を出した。

切り揃えられた真っ黒なショートヘアに、黒縁メガネ。

その奥にある琥珀色の瞳が、カウンターにいる俺を真っ直ぐに見つめている。


「おう、サンキュ。今持っていく」


彼女――鈴木彩は、高校を卒業した後、2年制の料理の専門学校に進学した。

そして無事に卒業した去年から、このカフェの専属シェフとして毎日腕を振るってくれている。


俺たちは今、ほぼ同棲状態だ。

付き合いが長くなるにつれて、お互いの家を行き来するのも面倒になり、なし崩し的に俺の部屋に彼女の荷物が増えていった。

彩のご両親にご挨拶に行った時はめちゃくちゃ緊張したけど、「渉くんなら、彩を任せても安心だから」と、あっさりと公認(というか、半ば夫婦扱い)してもらえた。


「相変わらず、いい匂いするなぁ。彩ちゃんのご飯は本当に美味しいよね」

彩音さんがオムライスを絶賛すると、厨房に戻ろうとしていた彩が少しだけ立ち止まり、ぺこりと頭を下げた。


「ありがとうございます。……渉くんが、美味しいって言ってくれるから、頑張ってるだけですけど」


さらっとそういうことを言う。

3年経って、少しだけ大人っぽくなったとはいえ、彩の根本的な部分は変わっていない。

普段はクーデレで理屈っぽいのに、ふとした瞬間にこういうストレートな愛情をぶつけてくるから、いつまで経ってもこっちの心臓が持たない。


「……はいはい、ごちそうさま。相変わらず熱いねえ、若い二人は」

しょうさんがニヤニヤしながらコーヒーをすするのを見て、俺は「うるさいですよ」と照れ隠しにぼやきながら、グラスを拭く作業に戻った。



夜。

『CLOSE』の札をドアにかけ、店内の照明を少しだけ落とす。

客が誰もいなくなった静かな店内で、俺たちは二人で遅めの夕食――まかないを食べていた。


座っているのは、いつも一番奥の角のテーブル席。

高校時代、ただのクラスメイトだった俺たちが、よくここでフロアマップを広げて『作戦会議』をしていた、あの席だ。


「……ん。美味しい」

自分で作ったパスタを口に運び、彩が小さく目を細める。


「だろうな。お前の作る飯は、昔から世界一美味い」

「……大げさ。でも、ありがと」


彩はメガネのブリッジを指で押し上げ、ふわりと柔らかく微笑んだ。


向かい合って座り、他愛のない話をする。

明日の仕込みのこと、新メニューのアイデア、週末に遊びに来る海斗たちとのこと。


昔は、この席から他人の恋模様を観察して、「まるでラブコメみたいだ」なんて言っていた。

自分は永遠に観客席にいるモブなのだと、本気で思っていた。


でも今は違う。

俺の目の前には、世界で一番可愛くて、少しめんどくさくて、誰よりも俺のことを好きでいてくれる、最高のヒロインがいる。


「……渉くん?」

俺がじっと見つめていることに気づいたのか、彩が小首を傾げた。


「なんでもない」

「ふーん? ……あ、口元にソースついてる」

「え、マジ?」

「うん。……んっ」


俺が紙ナプキンを取ろうとした瞬間、彩が身を乗り出し、俺の口元にチュッと軽くキスをした。


「……取れた」

悪戯っぽく笑う瞳。俺は一気に顔が熱くなるのを感じて、手で口元を覆った。


「おまっ、不意打ちは反則だろ……」

「恋人特権。それに、隙を見せる渉くんが悪い」


勝ち誇ったように笑う彩を見て、俺も自然と笑い声が漏れてしまう。


ただのモブだった俺たちは、いつの間にか、自分たち自身の物語の主人公とヒロインになっていた。

俺と彩の、甘くて、少し照れくさくて、最高に幸せな『俺たちのラブコメ』は、このカフェから、これからもずっと続いていく。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
校了お疲れ様でした、令嬢と一瞬交差した時はとても嬉しかったです。 今後の作品も楽しみにしております。
このような甘い作品を書いていただきありがとうございました!これからも頑張ってください。
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