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モブの俺たちが主役カップルを裏工作でくっつけようとした結果、なぜか俺と相棒のクーデレ女子の距離がバグり始めている  作者: 比津磁界


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第1話:観客席の佐藤くん

本作を開いていただき、ありがとうございます!


主人公とヒロインの甘酸っぱい恋愛を、ただ特等席で眺めていたい……。

これは、そんなお人好しな「モブ」視点からおくる、少しメタ視点混じりの学園ラブコメです。


じれったい二人のやり取りに「お前らマジで早く付き合えよ!」とツッコミを入れながら、主人公・渉と一緒に観客席から楽しんでいただければ幸いです!

都会の四月は、意外と埃っぽい。

窓の外には高層ビルが見えて、絶え間なく車の走行音が聞こえてくる。進級して二週間。新しいクラス、新しい教科書。そんな「新生活」のソワソワした空気も、二週目にもなればだいたい落ち着いてくるもんだ。


俺、佐藤渉は、自分の席で小さく息を吐いた。

……よし、だいたい把握した。


去年の俺は、これといって趣味もない、ただの背景みたいな存在だった。

けど、一年生の時に隣の席だった男女が、少しずつ距離を縮めて、文化祭の後に付き合うまでの一部始終を特等席で見てしまったのが全ての始まりだった。

あのもどかしい感じ。当事者じゃないからこそ、無責任に一喜一憂できる気楽さ。

「お前ら早く付き合えよ!」って心の中で突っ込みながら過ごす日々は、どんな娯楽よりも俺の性に合っていた。


以来、俺は決めたんだ。

自分は主役になんてならなくていい。ただ、この世界のどこかで起きてる「ラブコメ展開」を、一番近くで見守る観測者モブでありたい、と。※主人公です。


「……さて」


前髪の隙間から、教室の「中心」を眺める。

そこにいるのは、一条彩乃さん。

長い黒髪に透き通った肌。立ってるだけでそこがラノベの舞台になるような、学年一の美少女だ。彼女は間違いなく、このクラスの『メインヒロイン』で決まりだろう。


「あ、一条さん。この後の休み時間、ちょっと売店行かない?」


クラスの中心グループにいる、いかにも陽キャって感じのイケメンが一条さんに声をかけた。

すると一条さんは、振り返って完璧な笑顔を作った。


「ごめんね、ちょっとこれからやることがあって。また今度ね」


声のトーンも、表情も、非の打ち所がない。

……が、それは見事なまでの『営業スマイル』だった。

優しく、けれど絶対に自分の中には踏み込ませない、見えない心の防壁。誰にでも愛想はいいが、誰の特別にもならない。あの一条さんの鉄壁のガードは、進級してからの二週間で俺も何度か目にしている。


(……やっぱ、高嶺の花ってやつだな。あんなの、どうやったらフラグ立つんだよ)


イケメンが少し残念そうに引き下がるのを横目に、俺は一人で納得していた。

……だったはずなんだけど。


一条さんはそのまま、誰にも邪魔されないように足早に教室の隅へと向かった。

向かった先は、俺の斜め前の席。

そこに座る風間海斗の机の前だった。


風間は背が高いけどいつも猫背で、重めの髪で目元を隠してる。クラスじゃ「地味で暗い奴」って評価で通ってるはずだ。


「か、風間くんっ。……おはよ」


(……ん?)


俺は耳を疑った。

さっきまで完璧なアイドルだった一条さんの声が、どういうわけかひっくり返っていたからだ。


「あ。……ああ。おはよ、一条さん」

「こ、これ。昨日言ってたプリント……コピー、してきたから」


一条さんは、両手で大事そうにプリントを差し出す。

さっきの営業スマイルはどこへやら、彼女の耳の裏はゆでダコみたいに真っ赤になっていた。対する風間も、素っ気ない態度の割に明らかに目を泳がせている。


(……おいおいおいおい。なんだその声のワントーンの変化は!? ギャップがエグいぞ!!)


心の中のツッコミが止まらない。

どう見ても特別扱いだ。しかも、かなり重度の。

風間がプリントを受け取ろうと手を伸ばした、その時だった。


ペラッ。


二人の緊張が伝染したのか、プリントが手から滑り落ちそうになった。

「あっ」と声を上げ、二人が同時にプリントを掴もうとして——。


互いの指先が、ほんの数ミリの距離まで近づく。

王道のラブコメなら、ここで手が触れ合って、「あ……」と見つめ合う場面だ。


「ッ!!」


バッ、と二人は慌てて手を引っ込めた。

風間は謎にわざとらしい咳払いをして視線を窓の外へ逃がし、一条さんはプリントを胸に抱え込んだまま、真っ赤な顔で自分の足元をジッと見つめている。

不自然な沈黙。謎のフリーズ。


(いやそこは触れろよ!! どんだけピュアなんだよ!? 昭和の少女漫画か!!)


俺は思わず前髪を押さえて、一人で頭を抱えた。

じれったい。あまりにもじれったすぎる。


確信したね。

この一週間の間に、俺の知らないところで、間違いなく『特大のイベント』が起きた。

じゃなきゃ、あの鉄壁の一条さんが地味メン相手にこんなバグった挙動をするはずがない。


「……いいじゃん。最高かよ」


王道にして、究極の焦らしプレイ。

あの二人をくっつけるためには、誰かがほんの少しだけ背中を押してやる必要がある。


「決めた。今学期の俺の仕事は、君たち二人の『裏工作』だ」


誰に聞かせるでもなく、心の中で小さくつぶやく。

「お前らマジで早く付き合えよ」っていう最高の結末を見るために、俺は全力を尽くす。

これが、趣味のなかった俺が見つけた、最高に贅沢な高校生活の過ごし方だ。


……まあ、この時の俺はまだ知らなかったんだけど。

すぐ隣の席で、分厚い文庫本を逆さまに持ったまま、俺と同じように二人をガン見している同志がいるなんてことは。

第1話をお読みいただき、ありがとうございました!

完璧なはずの高嶺の花が、特定の相手にだけ挙動不審になる……王道にして最高のギャップですね。渉のツッコミにも熱が入ります。

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