第38話「死神と衣替え」
季節の変わり目。
クローゼットの整理をしていた。
「クロハ、服が増えてきたな」
「ああ。人間界に来てから色々買った」
「衣替えしないと」
「衣替え?」
「季節に合わせて服を入れ替えることだよ」
「なるほど」
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「新しい服も買おう」
「買いに行くのか」
「ああ。秋冬物が必要だろ」
「……いいのか」
「いいよ。付き合うよ」
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デパートに来た。
婦人服売り場には、たくさんの服が並んでいる。
クロハは興味深そうに見て回っている。
「何がいい?」
「……分からない」
「試着してみればいいよ」
「試着?」
「着てみることだ。実際に着てから買うかどうか決める」
「……やってみる」
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クロハは試着室に入っていった。
しばらくして、カーテンが開いた。
「どうだ」
クロハがワンピースを着て立っていた。
白いニットワンピース。体のラインが出るデザイン。
「……」
「変か」
「変じゃない。似合ってる」
「そうか」
「すごくいい」
クロハは少し照れたように微笑んだ。
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次の服。
カーテンが開いた。
「これはどうだ」
今度は黒のタートルネックにプリーツスカート。
大人っぽい雰囲気だ。
「……いいな」
「いいか」
「すごくいい」
「……全部『いい』と言っているが」
「全部似合ってるからな」
「……お世辞か」
「本心だ」
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クロハは楽しそうに、次々と服を試していった。
ピンクのカーディガンに白いブラウス。
フェミニンで可愛らしい。
「これは」
「可愛い」
「可愛いか」
「すごく可愛い」
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チェック柄のロングスカート。
落ち着いた秋らしい雰囲気。
「これは」
「似合ってる」
「どの程度似合っているのだ」
「すごく似合ってる」
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グレーのパーカー。
ラフなスタイル。
「これは」
「いいな。カジュアルで」
「カジュアル?」
「普段着って感じだ」
「なるほど」
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紺色のワンピースにベルト。
ウエストがきゅっとマークされて、スタイルが際立つ。
「これは」
「……」
「どうだ」
「……すごくいい」
「声が小さくなったな」
「いや、その……綺麗すぎて」
「……」
クロハは少し照れたように微笑んだ。
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俺はクロハの試着を見ながら思った。
……死神だけど、女の子なんだな。
服を選ぶ時の真剣な顔。
鏡を見る時の恥ずかしそうな顔。
褒められた時の嬉しそうな顔。
どれも、普通の女の子と変わらない。
三千年生きていても、こういうところは同じなんだな。
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何着か試着した後、クロハが聞いてきた。
「どれがいい」
「どれもいいけど……」
「選べ」
「うーん……」
俺は考えた。
「最初の白いワンピースと、黒のタートルネックのセット、あと紺のワンピース」
「三つか」
「全部似合ってたから」
「……大盤振る舞いだな」
「たまにはいいだろ」
「……ありがとう」
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会計を済ませた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「また来よう」
「いいよ」
「季節ごとに」
「衣替えのたびにな」
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帰り道。
「誠一」
「なんだ」
「不思議だ」
「何が」
「私は、以前は服装なんて気にしなかった」
「そうなのか?」
「ああ。死神の制服だけで十分だった。他に必要なものはなかった」
「……」
「でも、お前と暮らすようになってから、変わった」
「どう変わった」
「服を選ぶのが楽しくなった。可愛いと言われたくなった」
「……」
「なぜだろう。自分でも不思議だ」
俺は少し考えて答えた。
「好きな人に可愛いって思われたいからじゃないか」
「……」
「俺も、クロハに格好いいって思われたいし」
「……そうか」
「普通のことだよ」
「……そうか」
クロハは少し納得したような、まだ不思議そうな顔をしていた。
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「誠一」
「なんだ」
「私に似合う服が分かるか」
「だいたいは」
「どうやって分かるのだ」
「……一緒に暮らしてるからな。何が似合うか、なんとなく分かる」
「……そうか」
クロハは嬉しそうに頷いた。
「私もお前に似合う服が分かるようになりたい」
「今度一緒に選んでくれよ」
「ああ。選ぶ」
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「……誠一」
「なんだ」
「お前の魂、輝いている」
「試着を見てたからか」
「私が着替えるのを見ていたからか」
「……それもあるかも」
クロハは少し呆れたような、でも嬉しそうな顔をした。
「……仕方ないな。許す」
「許されてよかった」
俺たちは笑いながら家路についた。




