表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/50

第39話「死神と夏バテ」

 真夏。

 猛暑日が続いていた。


「暑い……」


 クロハがソファでぐったりしている。

 いつもはキビキビ動いているのに、今日は全く動かない。


「大丈夫か?」

「暑い」

「クーラー付けてるぞ」

「足りない」

「これ以上下げたら寒いよ」

「暑い」


---


「死神も暑さに弱いのか」

「弱い」

「意外だな」

「死神の世界は温度がない。だから、暑さ寒さに慣れていない」

「なるほど」


 クロハは扇風機の前で溶けそうになっている。

 銀髪がふわふわと揺れている。


「何か冷たいもの作ろうか」

「……頼む」


---


 俺は台所でかき氷を作った。


 氷を削って、シロップをかけて。

 いちご味のシロップをたっぷりと。


「できたぞ」

「……」


 クロハの目がキラキラと輝いた。


「これは何だ」

「かき氷」

「氷?」

「削った氷にシロップをかけたやつだ」

「……美味しそうだ」


---


 クロハはかき氷を一口食べた。


「……!」

「どうだ」

「冷たい」

「そりゃかき氷だからな」

「美味しい」

「よかった」

「もっと食べたい」

「食べすぎるとお腹壊すぞ」

「大丈夫だ。死神は丈夫だ」

「さっきまでぐったりしてたのに」


---


 かき氷を食べ終わると、クロハは少し元気になった。


「……復活した」

「復活って……」

「生き返った」

「いや、死んでなかったから」

「死にかけていた。暑さで」

「……」


 俺は思わず笑った。


「死神が『復活した』とか『生き返った』とか言うと、面白いな」

「何が面白いのだ」

「いや、プロが使うと重みが違うっていうか」

「……お前は変なところで笑うな」

「すまんすまん」


---


 でも、考えてみると、クロハは同棲してからずいぶん変わった。


「なあ、クロハ」

「何だ」

「お前、変わったよな」

「変わった?」

「うん。同棲する前と比べて」

「……どう変わったのだ」


 俺は指折り数えた。


「まず、よく笑うようになった」

「……」

「感情を見せるようになった。怒ったり、照れたり、拗ねたり」

「……別に変わっていない」

「変わったよ。最初は能面みたいに無表情だったじゃないか」

「能面ではない」

「例えだよ」


 クロハは少しムッとした顔をした。


「あと、食べ物にこだわるようになった」

「……」

「美味しいものを食べたがるし、俺の手料理を楽しみにしてるだろ」

「……別に」

「嘘つくな。顔に出てるぞ」

「……」


 クロハは目を逸らした。


「それから、服にも興味を持つようになった」

「……」

「おしゃれを楽しむようになったし、可愛いって言われたがるようになった」

「……」


 クロハの耳が赤くなっている。


「なんというか……人間らしくなったよな」

「……人間らしい?」

「良い意味でな。感情豊かになったし、毎日が楽しそうだ」

「……」

「俺は、そういうお前の方が好きだよ」

「……」


 クロハはしばらく黙っていた。

 それから、小さく呟いた。


「……お前のせいだ」

「え?」

「お前と暮らしているから、変わったのだ」

「……」

「お前が、私を変えたのだ」


 クロハは照れたように俯いた。


「……責任を取れ」

「何の責任だよ」

「変えた責任だ」

「どうやって取るんだ」

「……ずっと一緒にいろ」

「……分かった」


---


 クロハはソファに座って、俺にもたれかかってきた。


「暑いのに近づくのか」

「お前は冷たい」

「え?」

「人間の体温は低い。死神よりも」

「死神は体温高いのか」

「普段はない。でも暑い時は上がる」

「へえ」


 確かに、クロハの体は少し熱い気がする。


「冷やしてくれ」

「どうやって」

「そばにいてくれ」

「……分かった」


---


 俺たちはソファで並んで座っていた。


 クロハは俺の腕にもたれかかっている。

 暑いはずなのに、なんだか心地いい。


「誠一」

「なんだ」

「夏は苦手だ」

「そうか」

「でも、お前と一緒なら耐えられる」

「……」

「かき氷も作ってくれるし」

「またかき氷か」

「好きになった」


---


「……お前の魂、輝いている」

「暑いのに?」

「暑くても輝いている」

「そうか」

「私を冷やしてくれたからか」

「たぶんな」

「ありがとう」

「どういたしまして」


 クロハは満足そうに目を閉じた。

 そのまま眠ってしまった。


 ……まあ、しばらくこのままでいいか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ