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フィオナ王女の冒険譚  作者: アイヒカ
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第十四話 目覚め


 フィオナは、静かに体を震わせながら泣いている幼い日の自分を眺めながら、あの日の感情とともに記憶がうっすらと蘇ってきていた。


 そうだ、こんなことがあったんだ。


 そう、気づいた時にはあの日の悔しさや言い表せない怒りなど複雑に入り交じった感情が思い出されてきた。そして、フィオナは思った。母親に魔法が使えない自分だから見放されていると思ってきたが、振り返れば魔法が使えていた頃だって厳しかった。フィオナは一度だって母親に愛情を向けられたことなどなかったのだと。


 お母様にとって私なんて…


 幼い日の記憶とともに、そんな思いまでもがこみあげてくる。


「そうだ!思い出してきたよ。フィオナ様…いや、フィオナ!俺、強くなったんだよ!」


 クロトもうっすらとではあるが幼い日の記憶が蘇ってきていた。そうして、頭の何処か片隅に長い間靄がかかっていたのがようやく晴れ渡るような爽快な気持ちが湧き上がり、思わず笑みが溢れる。

 そんな、クロトの様子を見ながらフィオナは複雑な気持ちになる。


「クロト…。私も…思い出してきた…。でも、今の私は…あの頃とは正反対な性格で…が、がっかりだよね。」


 フィオナは俯きながら、独り言のように呟いた。それを聞いたクロトは首をかしげる。


「何言ってるんだよ。フィオナは今も昔も変わらず勇敢じゃないか。」


 クロトのその一言にフィオナは、はっとする。まさか、自分が勇敢だと言われるとは思っていなかったからだ。勇敢という言葉にこそフィオナは、はっとさせられたが、『今も昔も変わらず』というクロトの言葉に胸の奥が温かくなる。

 

 今も昔も変わらず…、そうだ、あの子は私なんだ。

 

 フィオナは思う、幼い日の自身を今の自分と切り離していたのは自分自身だったのだと。

 目の前にいる少女の思いや記憶は自分の中に確かにあり、あの少女は紛れもない自分なのだ。今の自分から見たら、あの少女はあまりにも傲慢で自分勝手で周りを振り回しており、皆に迷惑を掛けていて本当に申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいになる。だが、今の自分はどこかそんな昔の自分を否定していたように目立たないように、誰の迷惑ならないようにとひっそり生きてきたように思う。


 ずっと、見ないようにしてきたのは私だったのかもしれない…。


 そんな風に目の前の少女が自分なのだと腑に落ちた時、ある一つの記憶が蘇る。あの日、一人で泣いていた時に誰かに話しかけられたことがあった。その人は、なんて言っていたっけ、と思い出そうとするフィオナ。

 一方クロトはというと、下を向いたまま、黙り込んでしまったフィオナに対して何か不味いことを言ってしまったかも…と焦っていた。


「あれ?俺何か不味いこと言ったかな…」


 クロトはフィオナに問いかけるが、フィオナはクロトそっちのけで少女フィオナの方へとゆっくりと歩いて行く。


「こ、こんにちは…」


 クレアに話しかけた時はこちらの声が届いていないようだったので恐る恐るフィオナは声を掛けた。すると、少女フィオナの横にいたシロと目が合う。シロはどうやらこちらに気づいている様子であった。シロは鼻を使い、優しく少女フィオナに合図をしてくれた。その仕草に気づき、少女フィオナは後ろを振り向き、フィオナと目が合う。

 少女フィオナは怪しいものでも見るかのようにジロジロと見てくる。


「あ、あの…えっと。上手く言えないんだけど…あ、あなたには…私がついついるから!」


 フィオナは、蘇る記憶とともに目の前にいる幼い日の自分を愛おしく思う気持ちがこみ上げ、その思いを小さな自分へと拙い言葉ではあるが正直に伝えた…つもりだったが…。


「は?誰?」


 さすがのじゃじゃ馬娘。少女フィオナはその言葉を素直には受け取らない。そんな冷たい言葉にフィオナは一瞬凍りつく。 


「わ、私は…私は、フィオナ!」


 そう言って、フィオナは少女フィオナを抱きしめる。少女フィオナは驚きはしたが、抱きしめられるとどこか得体の知れない安心感に包みこまれた。


 そんな2人の姿を優しく見守るクロトとシロであった。


「なんか、よく分かんないけど…私、戻らなきゃ。離してくれる?」

「そ、そうだね。」


 お互い照れくさそうに離れるフィオナ達。泣いていた少女は、目が腫れてはいたが、もう泣いておらず、にやりと笑顔をみせ、フィオナに言う。


「じゃあ、またね!」

「う…うん!」


 そう言って少女フィオナはシロと一緒に舞踏会会場へと戻っていく。その時、シロは一度だけ振り返り、クロトを睨んだような…。


「い、今、シロが俺を睨んだような…ってあれ?」


 フィオナに話しかけたつもりが、独り言のようになっていたクロト。気がつくと先ほどまでいたフィオナがいなくなっていた。どうなっているんだ?と思った瞬間、空に鏡が割れたようなヒビが入り、崩れ落ちてきていた。さらに、足元にも大きくヒビが入り、地面が崩れ落ちていく。真っ黒な底が分からない下へとクロトは落ちていく。


「う、うわぁぁぁあーーー!」


 クロトの大きな叫び声が響き渡る。




「うわぁぁぁぁぉぁーーー!」


 クロトは自分の叫び声に気がついた。


「ん?」


 と、同時に周囲の冷たい視線に気がつく。目が覚めた先は元いた守り人族の神殿内部。今、正にじゃじゃ馬フィオナが本気を見せるかと思われた緊張の瞬間であった。冷ややかな目でスノー、アンジー、シロがクロトを見ている。


「あれ?あれは、夢だったのか…」


 そう、クロトが呟いた瞬間に辺りは眩い光に包まれる。


「こ、これは…?」


 スノーは自身の魔法が、無力化されるのを感じていた。また、じゃじゃ馬フィオナの魔法もその温かな光の中へと消えていく。

 その場にいた全員がこの温かな光の先を見つめていた。そこには、夢から覚めたフィオナが立っていた。光の勢いでかけていた眼鏡が足元で割れ、後ろでひとつに縛っていた髪もほどけていて、その姿はじゃじゃ馬フィオナにうり二つであった。

 フィオナはゆっくりと目を開け、じゃじゃ馬フィオナに近づいていく。


「やっと思い出したんだね?」


 じゃじゃ馬フィオナがやれやれといった感じでフィオナに向かい、尋ねた。


「…うん。」


 フィオナは静かに頷く。


「私、ずっと待ってたんだよ。」

「…うん。」


 フィオナは、じゃじゃ馬フィオナの前に立ち、優しくじゃじゃ馬フィオナを抱きしめた。


「待っててくれて、ありがとう。」

 

 フィオナはそう言うと、じゃじゃ馬フィオナを強く強く抱きしめた。するとじゃじゃ馬フィオナは優しい笑みを浮かべフィオナの腕の中で光の粒となって消えていった。

 奇術師はちっと舌打ちをした。記憶を取り戻した?と言っていたが奇術師の催眠にはそんな仕掛けも何もない。これはまんまとじゃじゃ馬フィオナに嵌められたのか…と気づく。

 先ほどまでとは雰囲気の異なるフィオナがこちらをゆっくりと振り返る。それに気づいた奇術師は状況が苦しいことを感じた。


「あなたは、一体何者?なぜ、私がここにいることを知っていたの?」


 フィオナは、奇術師に尋ねた。


「それは、追々分かることでしょう。今回はこれにて…。」


 奇術師は、そう言うとゆっくりとお辞儀をして瞬きをした瞬間に姿を消してしまった。

 それを見て緊張感が途切れたスノーはふぅっと力が抜けた。そして、フィオナを見た。


「フィオナ様、記憶を取り戻されたのですね?」

「はい…。なんだか、すごく失礼なことをしたみたいですみません。」

「いえ、恐らくフィオナ様のお考えがあってのこと。ひとまずは、力を取り戻されておめでとうございます。」


 スノーの少し疲れた笑顔にフィオナはほっとする。

 先ほどから、フィオナは今まで感じたことのない感覚を感じていた。体中に温かいものが流れ、以前とは違った安心感が自分自身を包みこんでいる。

 今までは魔法が使えない、自分には何もない、ないない…と思ってきたが、今は過去の記憶を取り戻し、今までないと嘆いていたものが自分の奥底から湧き上がってくる。こんな安心感は、今まで感じたことのない感覚であった。


 私には、こんなにも大きな力があったんだ。


 こうして、フィオナは過去の記憶とともに自身の力をも取り戻したのであった。


 



 


 



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