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フィオナ王女の冒険譚  作者: アイヒカ
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第十三話 蘇る記憶


「あー、本当退屈…」


 少女フィオナは足を組み、頬杖をつきながら呟く。そんな姿を後ろから見ていた少年クロトが慌てて少女フィオナに言う。


「フィオナ!誰かに聞かれちゃうよ!」

「いいの。聞かれるように言ったんだもん。」


 そう言うと少女フィオナは、ちらりと横を見る。少女フィオナから少し離れたところで国王と王妃は次から次へと来賓達に挨拶しながら世間話をしていた。


「まったく、お母様ときたら…。」


 ため息交じりで呟く。

 この日開かれていた舞踏会は、サンフィオーレ王国のお隣に位置する水の王国ヴィエネッタとの親睦会と表して開催されていた。しかし、その裏ではフィオナと水の王国の王子との婚約を結ぼうという王妃の思惑も隠れていた。そのことにフィオナは気づいていたのである。


「あ、やばい!」


 少女フィオナは、そう言うなり少年クロトの手を取り舞踏会会場から出て行こうと中庭に通じる扉へと向かう。その事に少女フィオナの足元にいたシロが気づき、フィオナのドレスの裾を咥えて引っ張りそれを制した。

 しかし、少女フィオナはシロをきっと睨みつけるとシロはぱっとドレスの裾を離し、その場で大人しくなった。代わりにシロは少年クロトを睨みつけてる。その視線に少年クロトは、はっとする。


「フィオナ!だめだよ。まだ舞踏会始まったばっかりだし!王妃様に怒られちゃうよ!」

「いいの!」


 少女フィオナはお構い無しで少年クロトを引っ張り、中庭へと出て行ってしまった。



 そんな一部始終を見ていた、現在のフィオナとクロトはというと…


「ああ、あの頃からシロは俺にあんな目線を送っていたのか…」

「そこなんですね…気にするとこ。」

「あ…そうじゃなかったですね。

これが過去の記憶だなんて信じられないけど、あの少年は正しく幼い頃の俺だよなぁ…。まさか、フィオナ様と小さい頃に出会っていたなんて。」


 どうやら、クロトもフィオナと同じく過去の記憶に思いあたるところがないようであった。


「とりあえず、気になるんであの2人を追いかけてみましょう!」


 クロトの提案にフィオナも同じく、2人で後をつけてみることになった。


「フィオナ、戻ろうよ!」


 少女フィオナは少年クロトを振り返りもせず、手を強く引っ張ったまま中庭へと進んで行く。

 すると、後ろから声がした。


「フィオナ姫!お待ち下さい。僕は水の王国第七王子のカナルと言います。どうか、僕と一曲踊って頂けないでしょうか?」


 少年クロトが振り向くと、そこには背丈は自分らと変わらない淡い水色の髪をした少年が立っていた。サラサラとした髪を襟足までに揃え、なんとも清潔感が漂うさわやかなイケメンである。さらに、王子というだけあり、着ている高級なタキシードも子供ながらに見事に着こなしている。

 そんなカナルに向かって、少女フィオナはにこりとして答えた。


「ダンスの相手はもう間に合ってますので!」


 その言葉を聞いたカナルは悔しさと羞恥の思いで顔が赤くなる。が、尚も引き下がらんとして言い放つ。


「な、な、何を仰るのですか!フィオナ姫!そちらにいる少年は平民に飽き足らず親なしと聞きました!そんな者より貴方には僕のほうがよっぽどお似合いですよ!」


 カナル王子の言葉を聞き、ぴたりと歩みを止めた少女フィオナ。


「なんて言ったの?」


 少女フィオナは低い声で言った。その声を聞いたカナル王子と少年クロトは凍りつく。

 そして、少女フィオナはカナル王子の方へと振り返り、怒りでわなわなと震えていた。そんな、少女フィオナの周りには眩いばかりの光が集まり、辺りは暗くなっていく。


「な、何がおきているんだ?」


 ただならぬ雰囲気を感じたカナル王子はびくびくと震え、腰を抜かし、その場に座り込んでしまう。

 そして、少女フィオナを中心とし、光が煌々と集まっていく。少年クロトも恐怖を感じ、少女フィオナからゆっくりと離れた。


「クロトを…クロトをバカにするなんて許さない!」

 

 その瞬間、少女フィオナに集まっていた光が矢のようにカナル王子めがけて放たれた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 カナル王子は腹の底から声をだし、絶叫を上げる。また、恐怖で思わず両目をつむり、逃げることもできず、その場で体を丸くし、なんとか耐えようと歯を食いしばる。

 少女フィオナは怒りで我を忘れ、目の前のことが見えていなかった。が、次の瞬間、はっと我に返ると息も止まるような光景が目に入ってきた。

 と、同時に、歯を食いしばっていたカナル王子は自分が想像していた衝撃もなく、おやっ?と思いゆっくりと目を開けた。

 すると、そこには先ほど自身が親なし、と卑下していた少年がぐったりと倒れていた。


「あ…ああ…」

 カナル王子は声にならない声をだす。


「クロト!クロト!?」


 少女フィオナは今にも泣き出しそうな表情で少年クロトのもとに走り、ゆっくりと体を起こした。


「クロト?大丈夫?返事して!」


 少女フィオナが必死の思いで声をかけるが、少年クロトの息は絶え絶えで体にも力が入っていない。そんな状況を見て少女フィオナはどうしたらいいか分からずパニックになっている。

 そんな中、ゆっくりと近づいてきたのはフィオナの母であるサンフィオーレ王国の王妃である。少女フィオナは王妃の顔を見るとそれまでバクバクと鳴っていた心臓がいっそう早く鳴り、何の声も出せずにいた。

 王妃はゆっくりと近づき、右手を少年クロトの顔辺りにかざし、回復魔法をかける。すると、少年クロトの体を温かい光が包み込み、先ほどまでの浅い呼吸が深い呼吸へと変わり、少年クロトの表情も和らぎ気持ちよさそうに眠っているようである。


「なんだ?何が起きたんだ?」


 セルバ団長の声とともにセルバ団長、国王、ヴィエネッタの国王らが次々と中庭へとやってきた。


「セルバ、この者を急ぎ医務室へ連れて行きなさい。応急処置はしてありますが、念の為です。」

 王妃が静かにセルバ団長に伝えた。

「え?クロト?わ、分かりました。」


 セルバ団長は、状況が呑み込めなかったが、少年クロトの一大事に違いないと静かに眠る少年クロトを抱え、医務室へと走り去った。

 少女フィオナは、ほっと一息ついたものの、王妃という威厳を纏った母親を目の前にし、心臓の音が鳴り止まない。


「お、お、お母様…わ、わたし…」



ばちーーーん



 少女フィオナが何か言いたげであったが、王妃は表情一つ変えずに少女フィオナの頬を平手打ちした。その音は周囲に響き渡り、何だ何だとざわざわと騒がしかったはずの辺りが一瞬にして静まり返る。そして、王妃はカナル王子の方を振り返り深々と頭を下げる。


「カナル王子、娘が無礼を働いたようで大変申し訳ございません。娘はまだ未熟ゆえ、どうかお許し頂けないでしょうか。」

「え?。あ、えっと…」


 カナル王子はまだ頭が混乱していた。

 ちらりと少女フィオナを見ると、王妃にビンタされた頬を手で押さえている。その頬は赤くはれ、痛々しく、また、先ほどまでの勝ち気な少女からは想像出来ないくらい大粒の涙が次から次へとこぼれている。頬を押さえていない手には力が込められ、泣き声を出すまいと必死に我慢していた。

 そんな少女フィオナを見て、カナル王子の心の奥が締め付けられる。そして、なぜたか分からないが、カナル王子はあの少女を僕が守らなければ、と強く思うのであった。

 こうして、少年クロトと同じように少女フィオナより強くならなければと心に誓う少年がここにも誕生したのであった。


「王妃様!頭をお上げください!僕たちはちょっとフザケてただけです。ご心配おかけしてすみません。さ、せっかくの舞踏会も始まったばかりですし、皆様も戻りましょう!」


 カナル王子は可愛らしい笑みを浮かべ、何だ何だと入ってくる大人たちを舞踏会会場へ戻るように促していく。そんなカナル王子に王妃は感謝を述べる。


「カナル王子、お心遣いありがとうございます。」


 そして、少女フィオナを振り返らず舞踏会会場へと戻っていく。

 主人の一大事を察知したシロは舞踏会会場へ戻る大人の波を掻き分け、少女フィオナの元へ走り、静かに寄り添う。

 そこへ、国王がやってきて一言声を掛ける。


「えーっと…、フィオナ?落ち着いたら戻ってくるんだよ?」


 そう声を掛け、国王もそそくさと舞踏会会場へ戻って行った。


 残されたのは、少女フィオナと寄り添う一頭。

 少女フィオナは体を震わせながら、ぽつり、ぽつりと呟く。


「わたし…私は、悪くないもん…」



 そんな光景を見ていた現在のフィオナは、当時の感情とともに記憶がうっすらと蘇ってくる。


「そうだ…、なんとなく思い出してきた。」

 そして、クロトも…

「俺も思い出してきた…。こんな大事なことなんで忘れていたんだろう」


 



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