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松宮里香が走った理由
2029年4月2日深夜、病院の中を、松宮里香は走っていた。
看護師になったばかりで、初めての深夜勤務だった。
涙が止まらない。
患者の女の子が急変したのだ。
よく笑う子で、病気のため、よく胸をおさえていた。
長い間入院していて、学校へ行けなかった。
病気を治して、学校に行きたいと言っていた。
そんな女の子が、今、生死をさまよっている。
早く、手術をすればよかったが、難しい手術で、できなかった。
先生を探しているが見つからない。
たしか、一人いるはずなのに、どこにもいない。
男子トイレが目に入った。
中へ入ると、大のトイレがひとつ閉まっていた。
「先生!先生!いますか!」
ドアを叩くと、ゆっくりと開いた。
そこには、怯えている、若い医者がいた。
意識が下に落ちた。
あぁ、あの子はもう助からない。
もう、あの子の笑顔は見れないだろう。
そして、私はくずれるように、床に手をついた。




