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俺は女神様の観察玩具  作者: 如月ユキハル
9/12

録画No,9 『始まる試験 知る危険』

登場人物紹介


レル・ヴァンテ・ハウンド

…パンツ一丁の校長像を見て不安に思う未来の学園生活。元学生として学校を久しく思う。


リース・ヴァンテ・ハウンド

…レルが学園に行くと決めてくれてはしゃぐシスコン。嬉しすぎてこの日は眠れなかったという…


ジ・グライア

…レルの能力の1部となった元おっさん。能力『叡智の結晶』がレルに馴染むまでグライアが制御しなくてはならない。




『姫、朝でござるよ。姫!』



暗闇の中で聞き覚えのある声が微かに響く。

…アラームか……



『拙者にアラーム機能はないでござるよ』



響く声に怒りが混ざる。

ふわふわの毛布を頭まで被れど、変わりなく聞こえる声。



『姉君が来るでござるよ〜いいのでござるか〜』


「っ!」



グライアの一言に身体が素早く反応する。睡魔も身を引く始末だ。レルの中でリースはもはや天敵のレベルに達している。

毛布で自分の体を包み、顔だけを出しあたりを確認する。いないと分かり胸を撫で下ろした。



「大層心臓に来る目覚ましじゃないか。ありがとう、グライア。おかげで反射速度が今日も調子が良さそうだ…」


『拙者は眠れないから暇なだけでござるよ。それよりも今日は学園の入試試験でござる。早く支度をしないと遅こ……』


「ふっふっふっ……グライア。抜かりないぜ、もう準備は出来ている!」



レルが自信満々に指をさしたその先にあるのは、パンパンに張っている革製の小型バッグだった。



『…確かに揃ってはいるでござるが、1つ忘れていないでござるか?』


「ん?忘れていないだろ?筆記用具、ルフォード学園案内、ハンカチ、水筒…」


『制服でござる。』


「…忘れていないだr…」


『制服でござる。』


「………」



先程、自分でも言っていて思い出した。そして大きな障害であるそれを。

赤い蝶ネクタイが目立つシンプルなデザインの制服が丁寧に用意されていた。レルが起きるまでにヴィストが用意したのだ。


コンコンコン


「はい…ヴィーさん?」



木製のドアから聞こえたノックに返事をすると、ヴィストは頭を下げてから入室した。



「そろそろ、目を覚まされる頃かと思いまして、お着替えの手伝いにまいりました。」



恥ずかしながら、鈴斗はまだレルの体をハッキリと見れないし下着もまだ見慣れていない。

頬を赤らめつつ視線を斜め下に向け、いつも通りヴィストに着替えを手伝ってもらう。




「…では、私はリース様を起こしにいって参りますのでレル様は先に朝食をお召し上がりくださいませ。」


「わ、わかりました。」



まだ染めた頬を上げられないままパンパンのカバンを片手に、朝食が用意された1階の部屋に向かう。



「入試、か…」



ふと、思い出す。自分も昔、いや前世でもやったことを。

家が近いからという理由でわざわざ偏差値が高い中学校に挑んだことがあった。あまり頭の良くない俺は残念な結果に終わり、遠くの中学校に通うことになったっけ。

…あれ?何中学だったかな……


そんなことを考えながら一人で朝食を食べていた。食べ終わってもリースの姿は見えなかったので、まだ寝ているのだと思う。



「…いよいよか。」



蝶ネクタイを少し強く閉め、リースから貰った手書き地図を手に屋敷を後にする。雲は少なく日が強く照らす中、多くの店が開店の準備を急ぐ。


学園まであと半分を切ると、同じ制服と思われる少年少女がレルを巻き込み行列を作り始める。

そんな中、見覚えのある青髪が視界の端に映り込む。



「アルマさん!」



近くまで寄り声をかける。人間違いだったらどうしようかと思うレルだったがどうやら間違いではなかったようだ。



「まぁ、レルちゃん!奇遇ですわね。」



この人は自重というものの意味を理解しているようで、初めて会った時以外はいきなり抱きついたりしてこなくなった。寂しいとかではない。むしろ姉にも見習って欲しいと思っている。



「その制服…私達の学園に通いますの?」


「えぇ、今日はその入試です。」


「心配なさらなくても大丈夫ですわ!何たってこの私が指導したのですから。」



励ましなのか自慢なのか、おそらく前者なのだろう。アルマは笑顔でレルに言った。

他人の笑顔を見ると不思議と自分も笑顔になってくるものだ。考えていた不安が軽くなってゆく。



どうこう話しているうちに学園に着き、せっかくだからと入試場所まで案内してもらった。



「アルマさん、ありがとうございました。」


「お安い御用ですわ。また今度、撫でさせてくださいまし。それでは。」



ん?今なにか聞こえた気がするぞ?


コロシアムのような場所に案内されたレルは何をしていいのか分からず、とりあえず教師を待つことにした。



「…なぁ、グライア」


『なんでござるか?』


「お前が使える禁術ってどれくらい?」


『拙者は全ての禁術を扱えるでござるよ。』


「…禁術ってさ、『禁』って付くぐらいだから危険なんだろ?」


『禁術は基本そうでござるが、中にはコストと魔法効果が釣り合わない魔法もあるでござるよ。』



誰もいないことを確認し、グライアと話を始める。傍から見たら独り言をするヤバいやつだ。



「ふ〜ん、例えば?」


『使用すると対象者の髪の毛が1本抜ける魔法とかでござる』


「…だから、お前の髪の毛は1本もなかったのか。納得だ。」


『残念ながら拙者は元からでござる』



少し期待をしていたのだが、聞いてみればくだらない内容だ。…いや、この魔法が一般の嫌がらせになっていると考えると、あたり一帯ハゲとなり地獄絵図になる。

そんなの嫌だ。



暫くグライアと禁術について話し合っていると、教師と思わしき男女2人がレルの前に姿を現した。




「ほぉ、この時期に編入する奴はどんな奴かと思えば可愛らしい嬢さんか。」



男はレルを間近で確認すると腰に手を当て大きく笑う。

歴戦を語るかのような幾つもの傷がついた大剣を背に拵えた男。ガタイの良さから、大剣を振り回す姿がすぐに思い浮かぶ。



「昨日、確認したでしょう…はぁ、まったくデウィン先生は……」



男の言動にため息をつくスレンダーな女はレルの試験用紙を挟んだ黒いバインダーを手に持っていた。



「だはは、いいじゃねぇか。こまけぇことはよぉ。それより自己紹介だ。おいはデウィン・ロー・グロント。今から始める実技試験担当の試験官だ。気軽にデウィン先生と呼んでくれ。」


「私はイヨン・ミヴ・ラティス。私もイヨン先生でいいわ。この人、認知症が酷いから注意してね。」


呑気そうにニコニコしながら話すデウィン先生とその呑気さに振り回されているイヨン先生と言ったところか。

少なくとも怖い先生出なくてよかったと思う。



「おr……私はレル・ヴァンテ・ハウンドです。今日の試験、よろしくお願いします。」



危ない…緊張のあまり口が滑る所だった。

そんなことを気にもとめてない2人は試験の説明を始める。


試験の内容は簡単に言うと1対1の戦闘だ。

戦術は自由。いかなる武器、魔法を駆使しても良い。

戦闘の際、決着判定と身代わりを担う人型の札がある。名を「受身転じゅしんてん」と言い、このレフォールド王国内での戦闘に置いて必ず使用させる札だ。

使用方法は簡単で針の先を指に軽く刺し、出た血を札の頭から足に向けてなぞるだけ。ただ、針を刺すのが怖くて嫌がる人もいる。レルもその1人であった。


受身転を使用するとチクチクとした痛みが、かすかに残る人差し指を半泣きになりながら口に差し込み慰める。



「そのうち痛みも消えるさ。それより、嬢ちゃんの扱う武器はなんだ?それとも魔法か?」



デウィンがそう言って懐から取り出した小さな袋から様々な武器がレルの前に並べられる。

一本一本手に取り三、四回ほど降ってみた中で1番自分の手にしっくりくる、他と比べて少し長めの短剣を選んだ。



「よし」


「おう、選んだか!俺は見ての通りこの相棒でいくからよろしくな!」



短剣を選び何だかワクワクしてきたレルを見てデウィンは相棒と呼ぶ腰に抱えた大剣を掲げる。その様子を目の当たりにしてこの短剣で正面から耐えられるか不安になってきた。



「両者構えて…始め!」



声高々に手を振り下ろしたイヨンを目視した2人は互いに手にする柄を強く握る。



「…ふっ!」


『決着が着きました。試合終了です。勝者"レル"』



真っ先に仕掛けたのはレルだった。

レルは転移の能力によって自身をデウィンの背後に瞬間移動させデウィンの首に、握る短剣で致命傷を与えたのだ。

もちろん切れたのは身代わりとなっている受身転の首の方である。

あまりにも早すぎる決着にデウィンとイヨンは呆気にとられた。だが、決着を判定した受身転は勝ったのはレルだ、と遠くにまで響かせる。



「な、何が……」


「……もう1枚、受身転を持ってきますね。」



瞬間で終わった決着を審査員として評価出来なかったため、イヨンは代えの受身転を取りに闘技場を後にした。


…俺、やりすぎた?


レルもレルで2人の反応に困り硬直する。



「え…じょ、嬢ちゃん。一体どんな技を……」



まだ、ポカンとした顔が直らないままレルに説明を求めた。



「俺の…私の能力『転移』を使ったんですけど…」


「嬢ちゃん、能力持ちだったのか…」



言葉から察するに能力を持っている人は珍しいのだろうか…もしくは俺ぐらいの年齢の子は能力を開花させていないとか……


互いを向き合ったまま沈黙の間が続き、気づけば大勢の声が四方八方から耳に入る。

周りを見てみるといつの間にやらこの学園の生徒達が闘技場の観客席を埋めつくしていた。



「…もしや、受身転の判定がどっかの生徒の耳に入ったな?……こりゃ参った。」


「…ぁ……」



受身転の判定の声がこの生徒を呼んだと気づき、どう収拾をつけようかと頭を抱えるデウィンの隣で、あまりの人数にレルは声を失っていた。

どこかで見た覚えがあるような茶髪の女の子や迷惑を知らなさそうにはしゃぐ男の子数人。そんな、様々な生徒の中には先生も少なからず混ざっていた。

デウィンも観客席側を確認した後、まぁいいかと言い笑いだす。



「校舎から生徒の姿が消えてもしやと思って来てみれば…どういうことですか、デウィン先生!」


「まぁ、そう怒んなって。おいは収拾つける方が面倒だと思うがなぁ。」


「そーですよ!いいじゃないですか!イヨン姉さんのケチ!ノッポバb……」


「あ?」


「ひぃぃぃ!嘘ですごめんなさい申し訳ありませんすみませんでした!お姉様は神です女神です、はいぃ!」



デウィンに賛同しつつイヨンを馬鹿にするイヨンに似た顔立ちの女教師はイヨンに睨まれ縮こまる。



「姉妹喧嘩はよそでやってくれよ?フォン先生。」



フォンに喧嘩を辞めるよう促し、デウィンは再び大剣を構え、レルに向けた。



「待たせてすまなかった。さぁ、嬢ちゃ…いや、レルちゃん。試験再開といこうじゃないか。」


「はぁ…ふぅ。分かりました。」



今は試験に集中しようと、レルは深く深呼吸をする。



「今度は能力を使わずに頼めるかな。それだとおいもイヨンも正確な技量を測れねぇからさ。」


「…分かりました。能力以外ですね。」



能力以外…せっかくだし禁術を使ってみようかな。それも、とてつもなくかっこいい技。

グライアから聞いた禁術の中で最も興味を持っている『轟光ごうこう』を試してみようと思う。



「制御頼んだよ、グライア…」



初めての魔法。しかも、禁術ときた。

これほど緊張するとこはなかなか無いだろう。

だが、緊張して心が乱れていると術の成功率がぐんと下がるとグライアが言っていた。


平常心…平常心…平常心……


レルは目を瞑りゆっくりと手に力を集中させる。



「…っ!?この魔力は…」


「お!魔法も使えるのか。いいねぇ、耐えきってやるぜぇ。」



デウィンは対魔法戦は経験が少ないが、本人は未知の魔法を体験することに燃えていた。


どんな魔法なのか分からないため周囲の警戒に意識を回すデウィンの足元を中心にだんだんと魔法陣が作り上げられる。

一つの魔方陣の中に様々な模様、文字が記されていた。妖艶な紫に輝くその魔法陣はゆっくりと天に登って行き、雲程度の高さで動きを止める。



ー その輝きは神の怒りに在らず

その一筋は留まるところを知らず ー



レルが詠唱を始めると急に天候が悪くなり、黒い雲が空の蒼を染め尽くし試験会場を覆うように風がうずまき始めた。

慌てる生徒達に教師達。魔法学に詳しい者達は天候を操っていることに驚愕の表情を見せる。


ー 我が行く道を拒む者に鉄槌を ー


ラストスパート。

あとは座標をしっかり決めて禁術の名前を叫ぶだけ。ただ、目を開けた次の瞬間…


ー 落ちろ『轟ら……っ!?


強すぎる風に巻き上げられた、女子生徒のスカートは可愛らしい模様の下着を露わにさせる。そんな輝かしい光景が広がっていた。しかも、風が意思を持って吹いているかのようにスカートがめくれている方向が全てレルに向けられている。


…ドゴンッ!!!


重く響く音と共に砂埃があたりに広がった。

しばらくして見えたのはひびが入り大きなクレーターのようなものが作られた闘技場。その穴の底にボロボロになって倒れているレルだった。



『決着が着きました。試合終了です。勝者"デウィン"』



皆が沈黙を続ける中、ただなり響く判定の結果。




その後、レルは医療室に運ばれ早退。

編入試験は合格だったものの…


技能評価 F+ /A.B.C.D.E.F.




今日の試験会場の1件による被害総額を聞いて、イヨン先生が倒れたのはまた別のお話。



最近お腹がとっても痛いです。

冷えやら緊張やら色々原因はありますが

長続きするので辛いです。


毎週のスケジュールが混んできたので、

誠に勝手ながら投稿期間を不定期とさせていただきます。申し訳ありません。

それでも読んでいただけると幸いです。

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