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そんな生活が暫くの間続いた。
ここ最近、時々スープに具が入っていることがある。ちょっとだけ温かい時もある。
毎回お盆を持ってきてくれるおじいさんからは「飯だ、食え」以外の言葉を聞いたことが無い。
もうちょっと喋ってほしい。
食事がおいしくないせいか、あまり動くことが無くなった。ソファーに座ってうつらうつらしているか、ベッドで寝ていることが多くなった。
そのせいか今食べたのが朝ご飯なのか、夕ご飯なのかわからない。日差しが入らないこの部屋はいつも明るい。なので時間の感覚が全くないのだ。
ソファーに座りウトウトとしながら、そういえばそろそろアルデビルド様は結婚しただろうかとふと思った。
出来たら幸せになってほしい。一緒に居た2年間本当に楽しかった。本当はずっと一緒にいたかった。塔の中ではだれにも会わず、何もなくて。でもそれが当たり前になっていた。
だから寂しいとか、悲しいとか思うこともなかった。
けれど僕は知ってしまった。人といることの楽しさ、温かさを。
一度知ってしまったから、また一人になるとすごく寂しい。僕は生まれて初めて悲しくて涙が出た。
一度流れた涙は止まらなかった。ぽろぽろと落ちてくる。
会いたい、アルデビルド様とご両親。ウェルスタイ様にエルゴン様。好かれていなかったけれど、良くしてくれたメイドさんたちに家で働いてた人達みんなにもう一度会いたい。けどパフィエルはどうでもいい。
僕はそのまま泣きつかれて眠ってしまった。
目が覚めたら目が開かなかった。なぜだ!と思っていたら、泣いたせいで目やにが凄かったようです。本当はいけないんだけれど、目を擦って目やにを落とす。
目は開いたけれども、瞼が熱を持っていて熱い。
いつものようにコップの水を少し手に取って、トイレで目を洗った。そして濡れた手で顔を撫でる。ちょっとすっきり。拭くものは無いので自然乾燥。
ソファーで長時間寝てしまったせいか体が痛い。ちょっとだけ体を動かして筋肉をほぐす。いや、筋肉ほぼないですけどね。
テーブルの上にはお盆が置いてあった。おじいさんはもう来ていたみたい。今日は声すらかけてもらえなかった。
慣れてしまった硬いパンと、具のないスープのご飯を食べる。
昨日泣いたせいか、ちょっとだけ心がすっきりしている気がする。いつもより気分がいい。
ソファーじゃなくてベッドでごろごろする。
そしてやることなくぼーっとする。今日はおじいさん、「飯だ、食え」以外の事喋ってくれないかな。そんなことを思いながら気が付いたら眠っていた。
「飯だ、食え」
その言葉に目が覚める。引き留めようと手を伸ばすが、ベッドからじゃどう考えても届かない。そのままベッドから落ちた。
痛い。顔打った。
ちょっと寝ぼけていたみたい。鼻血が出ていないか確認。よし、出ていない。もそもそと起きて水を飲む。
どれだけ時間が経ったかわからないけれど、僕の中ではこれは夕飯。食べたらまた寝る。
おじいさんに違う言葉をしゃべってもらおう作戦は失敗に終わっている。おじいさん近づくと逃げるから。
あと、僕が寝ている時に来る事が増えたみたいで、すぐに行動できないのが敗因だと思う。
寝起きなかなか動けないよね。
もうどれだけここに居るのかわからない。1か月経ったのか2か月経ったのか。それとも1年なのか2年なのか。あれから自称お父様はやってこない。教祖様も見ない。見るのはおじいさんだけ。
おじいさんも毎日僕の所に来てくれるけれど、嫌にならないのかな?たまには休みたいとかあるだろうに。
今日もうつらうつらとしながら過ごしていると、なんだか部屋の外の方が騒がしい気がする。気がするだけで、気のせいかもしれない。
どっちにしろ僕には関係ないことだからどうでもいいや。
ベッドでごろごろしながら過ごしていると、急にバタンと大きな音を立てて扉が開いた。
「シーネ!どこだ!」
この声は自称父親。急にどうしたんだろう?
目を擦りながらベッドから起きる。
「早くしろ!」
そう言って僕の腕を掴む。この人は僕の腕を掴んで移動するのが癖なんだろうか?そのせいで内出血するのですが。
そう思いながら引きずられて廊下に出る。そして小走りで移動し始める。一体どこに行くんだろう?
騒がしいと思っていたけれど、上の方が騒がしいみたい。
火事にでもなったんだろうか。引きずられながら考えてみたけれど、別段煙り臭くはない。火事じゃないとするとなんだろう?地震も違うし、雷?それとも親父?なんて見当違いなことを考える。
階段に着いた。上り階段な所を見ると、僕は地下にでもいたんだろうか?だから窓がなかったのかな。
階段を上ってさらに廊下を走る。いつの間にか小走りでもなくなって、僕は小脇に抱えられていた。走りにくかったんだと思われます。
また階段を上がって廊下に出る。そこでようやく窓が見えた。うっすらと暗い。夕暮れなのか夜明けなのか。どっちだろうと思っていると、声が聞こえた。
「シーネ!」
それは懐かしい声だった。




