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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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 バーンドレイクを落とそうと躍起になっているプレイヤーの斜め後方、再び走ってくる人間が見えた。だが、先ほどと違い様子がおかしい。


「もしかして、アレ。ヴェナトルに追われていないか? 」


 逃げるプレイヤーを追うエネミーの輪郭を見て、出海が呟いた。


 きっと、<遁走>でバーンドレイクから逃れた後、他のエネミーを探しに行く途中でヴェナトルに見つかったのだろう。

 追われるのを幸いと再びこちらに戻ってきたのだろうが、ヴェナトルは<俊足>が働いているプレイヤーと同じくらい足が速い。


「まぁ、大変。逃げられないわね」


 ヴェナトルは、砂漠に生息するモンスターエネミーの中で、最も厄介とされる人型モンスターだ。彼らには<隠遁>も<遁走>も通用しない。そして、索敵範囲が異常に広い。


 人型ということもあり、ステータスの解析もし易いのだが、プレイヤーに相当するとSTR40、VIT80、DEX80、AGI120と暫定分析されていた。

 流石、モンスターエネミー。プレイヤーと違い250縛りがない分、色々盛ってきている。


 AGI型のため、動きが素早く当てるのが難しい。それに加えて命中率のDEXも高い。STRが低い分一撃は重くはないが、相性が悪いプレイヤーであれば自分が一撃を入れるまでに、HPがごっそり持っていかれている仕様となっていた。


 AGIの回避率はAGI1で0.75上昇する。AGI100で75%の回避率となり、滅多に被弾しなくなる。AGI120と推測されるヴェナトルは回避率が90%だ。

 それを上回る命中率を求めるならDEXが最低77必要となる。ヴェナトルは高回避型Mobであり、自分と同じ回避型プレイヤーにも、いとも簡単に攻撃を当ててくる。プレイヤー側からしたら、ストレスマッハなモンスターエネミーだった。


「人を呪わば穴二つ、って所だろう。しかし、バーンドレイクにヴェナトルか。少し分が悪いな」


 バーンドレイク一体なら十分な戦力だが、そこにヴェナトルが加わるとなると旗色は悪かった。


「私、今日はシジルを集めに来ただけだから、貰って帰るわよ」


 出海がツルハシをインベントリに収めると、ユミが次の行動を止めるように言った。


「ソロで狩ったことあるの? 」

「ないけど、引き離すだけなら出来ると思うわ」

「その銀箱(死ぬ)前提の考え方は、やめた方がいいと思うよ」

「あら。人間最悪の事態を想定して臨んだ方が、如何にそれを回避するか、考えて行動するものよ」


 笑ったユミが、ザブルーの首を撫でる。今にも駆け出そうと足踏みしていたザブルーは、それを合図にヴェナトルに向かって駆け出した。


「アイツらが帰ってきたら、テレネグラス持っていないか聞いておくよ! 」


 背中から掛けられる声にユミは右手を上げて答えた。




 前方にヴェナトルを捉える。バーンドレイクとの距離も近い、そろそろヴェナトルの索敵範囲に入ったかもしれない。息も絶え絶えに、そこまでヴェナトルを引っ張ってきたMPKが力尽きた。死体が一瞬で銀箱に変わる。


 このゲームでのデスペナルティは、死んで拠点登録をしている街に戻ると、死んだ場所にインベントリからランダムに選ばれたアイテムが複数個、その場に落とされるというものだ。


 落とされたアイテムは銀色の宝箱に収められ、その場に捨て置かれる。この銀箱の所有権は元の持ち主に1時間用意され、その間に取りに来ないと他のプレイヤーが宝箱を解錠できるようになり、箱の中を物色する事が出来た。

 それにも時間制限があり、合計2時間。それを過ぎると自然消滅する。


 砂漠は足場が悪く、プレイヤーが自分の足で走るのは不利だ。そのためザブルーで駆け、距離を詰めたユミだったがMPKが力尽きるまでに間に合わなかった。

 もしかしたら、ユミが走ってくるのを見たMPKがわざと攻撃を受け、死亡したのかも知れない。

 どちらにしろ、銀箱が現れた瞬間、ユミはザブルーから飛び降りた。


「いらっしゃい! 貴方の相手は私よ」


 標的が死亡した事でヴェナトルのヘイトがリセットされる。瞬時に索敵され、バーンドレイクと争うプレイヤー達に向かい、ヴェナトルは駆け出した。

 その進行方向を狙いユミは<衝撃波>を放つ。目算での事だったが、なんとか走るヴェナトルの踵に当てることが出来た。ユミに振り返ったヴェナトルが、長く爪が伸びた五指を天に向け、高らかに吼える。


 ヴェナトルのヘイトが、ユミに固定されたという宣言であった。


「速さ勝負なら負けないわよ」


 言ってユミは、ヴェナトルがやって来た方向に駆けて行く。

 裸足のヴェナトルは足の爪が鉤爪状になっていて砂を捉える事が容易になっているが、いくら<俊足>が常に発動しているとはいえ、ユミが履くブーツの見た目は普通だ。砂漠を全力で駆けるのには適していない。

 背後から迫る殺気に、ユミは<飛燕>を発動し空に逃れた。そのまま走っていたら、確実にユミの後頭部がヴェナトルの爪に抉られていただろう。体を捻り、後ろを確認するユミの目に突き立てられる長い爪が映った。


「空中から<衝撃波>で削り殺すのが妥当だけれど、持久戦になるわね。それはちょっと辛いかも」


 ユミのステータスは、素でAGI100、STR=DEX77とヴェナトルに負けていない。彼女は7回、『魂の練成』を行っているため、ステータスポイントは285ある。そこから必要最低限の5ポイントを除いた数値が自由配分できる。『練成』で伸ばしたステータスはAGIなので、AGIだけは135まで装備補正の恩恵を受けることが出来た。


 装備で上乗せされるステータスポイントは、あくまで100の数値内だ。『練成』で100以上に拡張していない限り、余剰分は切り捨てられる。

 装備補正込みのステータスならAGI135、STR=DEX87とヴェナトルを上回る。問題はVITで、こればかりは元の数値が低いため補正を行っても40を少し超えたくらいしか持っていなかった。正面からの殴り合いでは、持久戦に持ち込まれるとヴェナトルに比べHPが低いユミがジリ貧になる。


 直接攻撃を当てない限りMPは回復しない。INTが低いユミでは、アーツの間に通常攻撃を挟まなければすぐにMPが尽きる。足場が悪い砂地で、自分と同型のMobを相手にどう戦うか考えながら、ユミは他のプレイヤーの迷惑にならない位置までヴェナトルを誘導して行く。



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