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The Stone of Destiny  作者: 櫻井


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「しつこい男は嫌われるわよ! 」


 繰り出される爪をギリギリで避けながら、その爪先を剣で払う。


 AGIに伴う回避率はあくまで素早さの数値でしかない。命中率に関わるDEXは、目視にも関わる。AGI・DEX共に67で<見切り>のパッシブアーツが手に入った。

 これは、動体視力の強化が行われるパッシブアーツで、素の値で条件をクリアしていないと発動はしない。とても地味だが、回避型には重要なアーツだった。

 これがあるから、エネミーの動きに先んじて、回避行動を行うことが出来る。


 バックステップで下がるが、すぐに距離を詰められヴェナトルとの距離が広がらない。足場の悪さが、ユミに砂で滑る事を恐れさせ、彼女から思い切りの良さを取り上げていた。


 速さが売りの弾丸特攻を得意とする彼女が、動きの精彩さを欠けば、ただの少し技術(PS)が高い古参プレイヤーでしかない。


 ユミ自身、二年もこの世界を歩いていれば、ソロでふらふらする事はある。


 だが、流石に砂漠でのソロ狩りは、VIT型でなければ行われない。殴り合いに勝ち、尚且つ立っていられるだけの体力が砂漠では第一に要求されるからだ。

 AGI特化は足場の悪さから、砂漠に出向く時はパーティで、神殿攻略のついでに立ち寄るくらいしかしなかった。


 ヴェナトルの攻撃を往なしながら、ユミは打開策を考えていた。


 空に逃れ、<衝撃波>で削るのが一番簡単ではある。だが、<飛燕>は必ず、地上に戻らなければ次を発動する事が出来ない。着地に失敗したら一気に詰む。

 それだけではない、MPは通常攻撃を当てない限り抜刀中は回復しないのだ。


 ユミは、脳内で可能性をシュミレーションする。


 常に滞空しての攻撃は、着地リスクだけではない、相手の素早さも込みで考えれば使えない。正面からの打ち合いも、こちらが削りきるのが先か、削られるのが先かで微妙なラインだ。


「やはり、下から行くしかないわね」


 MP枯渇大前提の、アーツコンボしか選択肢が残らなかった。一つでも、アーツを余分に使ってしまえば絶対に成功しない。だが、ハマれば強い。


「なんで私、こんなに苦労しているのかしら? 」


 チラリと余分な事を考えたユミの隙を狙うように、ヴェナトルの爪先がユミの頬を掠めた。耳飾りが弾け飛ぶ。


「ちょっと! 」


 頬と耳朶に奔った熱さを伴う痺れるような痛みに、耳飾りが壊れた事を察したユミの眉根が寄る。


「今壊したの、私が初めて買ったものよ! 」


 半歩下がると、次に伸ばされたヴェナトルの爪を避けずに剣で叩き落とした。

 現状、MPは使えない。本来なら避けれる攻撃も、すべて爪を狙って剣を当てていく。ユミは何時かくる一瞬を狙っていた。


 ―――― 今。


 何度目かの爪を弾き返したところで、ユミはバックステップを二度重ね、一気に後ろに下がった。


「<飛燕>」


 着地する直前に<飛燕>を発動する。ユミの足は砂地ではなく、その上に出来た硬い足場に着地した。そのまま真上にジャンプし、垂直に二度、宙を蹴り飛び空へ昇る。

 クルリと天地を入れ替え、真下にヴェナトルを捉えると四度目の宙を蹴った。


「<我、天が落ちようと正義を(スカイフォール)為す>」


 ユミを追って間合いを詰めたヴェナトルの目前に<我、天が落ちようと正義を(スカイフォール)為す>を躊躇いなく落とす。衝撃に砂塵が舞い上がり、視界を塞がれたヴェナトルの動きが止まった。


「<迅雷>」


 逆さまに落ちたユミには、<飛燕>の効果がまだ残っている。足が地に着く直前に、ユミは<迅雷>を発動した。固い足場はユミの狙い通り、砂煙に彼女を隠して真っ直ぐに打ち出す。

 身を低くし、ヴェナトルの横を砂地ギリギリに駆け抜け、ユミは左の剣を砂に突き立てた。


 どうせ滑るなら、それを利用すればいいのよ。


 嫌な音を立て、刃が砂を削るがブレは一瞬で、深く刺さったそれは軸の効果を発揮する。滑る左足で砂を削ることでブレーキ代わりにし、横滑りに遠心力のまま体を半回転させ、ユミはヴェナトルの背後に回り込んだ。

 既に<飛燕>の効果は消えてしまったが、埋まった足は、しっかりを砂を掴んでいる。


「<迅雷>」


 左足に力を込め、ヴェナトルの背中目掛けて飛び出した。


「<我が剣が描くは、光、それ(ジオメトリック)自体>」


 一点集中の<我、天が落ちようと正義を(スカイフォール)為す>に対し、<我が剣が描くは、光それ(ジオメトリック)自体>は範囲で切り刻むアーツだ。振るう剣の回りに小さなカマイタチを複数発生させ、多段ヒットを狙う。


「流石に、硬いっ」


 背後からの不意打ちで、首を落とす事が出来たら良かったのだが、そこまで都合よく世界は出来てはいなかった。


 返し刀を含めて3度、切り付けた首を中心に幾何学模様の傷跡が刻まれるが、ヴェナトルの背骨が前屈みに歪んでいた事も災いして全てが浅い。背中からの攻撃に、押し出されるように前によろめいたヴェナトルが、唸りながら両手を振り回し、その勢いに任せて振り返った。


「<我、天が落ちようと正義を(スカイフォール)為す>」


 地上から空へ。ゼロ距離での<我、天が落ちようと正義を(スカイフォール)為す>は、その威力を半減させたが、ユミの顔を狙って伸ばされたヴェナトルの右手の爪を砕くには十分だった。


 部位破壊され、衝撃によろめくヴェナトルから4m程距離を取ると、ユミは双剣を納刀した。荒い息に肩が揺れる。

 立て続けの大技はユミのMPを枯渇させ、視界を黄色い靄で害していた。生命力を現すHPが、デッドゾーンに突入すれば視界が赤く染まったが、MPの場合は黄色に薄靄が掛かる。


 ユミが愛用するサザンクロスエッジの特殊装備効果に、納刀時のMP回復200%というものがある。ユミがこの双剣を使い続ける主な理由がこれだった。

 納刀さえしていれば、高速でMPが回復していく。


 肩幅に足を開き、砂埃で汚れた頬を手の甲で拭うユミの両目は、薄くなる靄の中、しっかりとヴェナトルを中心に捉えている。


 ユミと睨み合うヴェナトルの右腕が、ぶらぶらと揺れていた。爪を砕くだけではなく、手や腕の骨も砕くことが出来たのかもしれない。


「ねぇ、提案なんだけど。そろそろ諦めてくれないかしら? 」


 賛同が得られるとは思えなかったが、ユミはヴェナトルに話しかけた。


 ジェフサから半日も移動すると湿原に出るのだが、そこに暮らすリザードマンの中に人語を理解する者がいるのだ。ヴェナトルも人型だ。

 例え手足の爪が異様に長く硬い刃物のようだったとしても。例え、口が顎の関節近くまで裂け、そこから覗く歯が肉食獣を思わせる尖ったものだとしても。

 人型なのだ。ボロボロのターバンの間からは黒い頭髪が零れ、その下には長円瞳孔の赤い眼と鉤鼻と、尖った耳がついている。


「ガ……」


 ヴェナトルが反応したことに、ユミの目が大きく開かれた。


「ナ、ナ……イ……ィ」


 声帯が人の言葉を話すように出来ていないのか、吃音に近い音が漏れる。


「ユ、ユル……赦……ザ、……ガレ、ト」


 虹彩が多くを占めるヴェナトルの目は、白目の部分が殆ど見られず真っ赤で、嫌でも異形の者であることを伝えてくる。その瞳が、憎悪を湛えユミを見ていた。


「わ、ワワ我……」


 眉を顰めながら、ユミはヴェナトルの一言一句を聞き逃すまいと耳を澄ます。


「我……ラ・ガ、王、ウゥうラギリし……マァアガ、デッ……ルガぁああぁーーーー!! 」


 魂の咆哮が如き絶叫を上げ、自分に向かって走ってくるヴェナトルを迎え撃つため、ユミは双剣を引き抜いた。




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