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43 エピローグ

 ■システィーナの視点



 温かい日差しの中で、私はまどろんでいる。

 全身が気だるいのだけれども……とても、とても満ち足りて……。

 温かい気持ちが充ち満ちている感じ……。



 ああ、幸せ……四百年生きた中で、今ほど幸せな気持ちになっていることはない……。



 私は大きな胸板に体を寄せ、横向きに抱っこされているみたい……。

 ああ、お姫様抱っこだ……。

 お姫様抱っこされて、一歩一歩静かに、ゆっくりと歩いているの……。

 私の……好きな匂いがする……。彼の匂い……さっきまで、ずっとその匂いに包まれていて幸せだった……。



 私は目を開けた。コックリの顔が間近にあった。



「コックリ……?」

「おはよう……かな?」



 コックリは、リンゴの森を歩んでいる。エメラルド色の光が、やんわりと落ちてきて……ああ綺麗……。サワサワと爽やかな風が枝葉を優しく揺すって……木々が奏でる音色が疲れた体にスッと入ってくるの……。

 ……と癒されている場合じゃないか……自分で歩かなきゃ。



「ゴメンね、今、自分で……あ、あれ……?」



 腰も足も、すべてがガクガクして……あれ?



「ん……ゴメンちょっと……その……刻み付け…………すぎた……体力使い果たしたんだと……ゴメン……」

「あっ」



 私は……私は、気を失う前のことを思い出した……! 私はコックリと……はわあああ……!

 恥ずかしくて、コックリの顔が見れない!

 私は両手で顔を隠した……けれども、手が、腕がプルプルして、気だるくなって……。スルッと腕が……何で?



「うう〜腕が……体が……力が入らない……!?」

「ん……シスの体力のこと考えてなかった……すごく…………したから……」



 はわあああっ!

 身体中が疲れて顔が隠せなくなった私は、彼の顔の間近でただただ赤くなるばかりだった。

 私……私……コックリと……。

 しっかり、覚えてる…………彼が刻み付けてくれた痕跡を……私は腹部に手をあてると……



 と、痛っ……お股が……痛っ、あれ……?

 な、何だかお股に違和感が……あれ……? あれ?



「うん……痛いよな……一週間くらいは歩くとき違和感があるらしい……」ゴニョゴニョ

「え? そ、そうなの!?」



 うう〜ん、そうなんだ……親とはそんな話ししないし、もちろん友人とだってそんな話ししないから知らなかった……。って、何でコックリはそんなこと知ってるのよ!?



 ガレー船がある牧草の丘に出ると、ディートリッヒが船の前にあるテーブルで食事をしていた。ああ~ゴメンね。ディートリッヒは私たちに気がつくと食事の手を止めた。

 どうやってごまかそう……。何をしていたんだと言われるよね……。

 うう~、は、恥ずかしい~。

 どうしようコックリ。



「任せろ。出たとこ勝負だ」



 素敵! 頼むわね! え、出たとこ勝負!?



「ディー、すまん。待たせてしまったな。ちょっと時間がかかった」

「ああ、構わんさ」



 ああ、コックリは普通だ……わ、私も自然に……



「ゴ……ゴゴゴメンね……ちょ、ちょっと……」ゴニョゴニョ

「どうした、何を恥ずかしがっている?」

「え、ええ~と……」

「セックスしてたんだろ?」

「「ぶふっ」」



 コックリと私は、盛大に噴いた。何言って……いや何で知って……しし知ってるなら、もももうちょっとオブラートに……!



「ん? ああすまん。もっと他の言い方がいいか。男女の契りを、媾合(こうごう)をしていたんだろう」

「ななな、何で……」

「聖鏡が教えてくれたぞ。だから放っておいた」



 天上では聖鏡が光り輝いている。ああ~、海の結構先まで見えるらしいから……すぐそこの丘だったら、そりゃ見えるわよね……はわああ、恥ずかしい~!



「システィーナよ、良かったではないか」

「えええ、なな何が?」

「龍と結ばれたことだ」

「ぅ、ぅん……」



 私は他者に、契りの行為を知られていたことに、恥ずかしくて恥ずかしくて……。



「私は貴女と龍は、生涯結ばれないと思っていた。だからこのような結末が待っていて驚くと共に、嬉しくも思っている。おめでとう」

「…………ぁ、ぁりがとぅ」ゴニョゴニョ

「記念の時に、私も立ち会えるとはな」

「「立ち会ってない!」」



 たた立ち会ってないよ! あれは、あれはコックリと私だけの世界だったんだから! あと、おめでとうもやめて!



「しかし龍よ、まったくお前という男は……加減を知らんのか?」

「「え?」」

「何時間抱けば気がすむんだ、お前は?」

「「え?」」



 彼女が食事をしているということは……たぶん待ってる時間も含めれば……二時間くらい……よね……



「……い、二〜三時間……じゃないのか?」

「ほう。お前の中ではあれは二〜三時間か……」

「「え? 違うの?」」

「私は、この食事は二度目だ……」

「「二……」」

「お前たちと別れて一時間ほど待っていた。遅いので呼びに行こうとしたら聖鏡に止められてな……先に食べた。そこからさらに五~六時間は経ってまた腹が減ってきたので食事していたところだ」

「七……と、途中で、ね、眠ってたかも……」

「風にのって、絶え間なく声が聞こえていたがな」

「「ぶふぅっ!」」



 こ、声……? ちょ……嫌ああああ! 絶え間なくって……!?



「やりすぎだろう。少しは自重しろ。首筋にそんなにいっぱいキスマークをつけて」



 嫌あああああっ! 私は首筋を隠したけれど……はわああ、腕の力が抜けて……



「ほらみろ、精根尽き果てて、腕も上げられない」

「ん……うん……そこは、さっき反省した」

「お前は強いが、彼女は華奢で繊細だ。壊れ物を扱うようにしろ」

「う、うんそれはもちろん……」

「だいたいだな、お前は」

「うくっ」


 ”それぐらいで許してあげなさい。それだけ彼は森の娘を愛していたということなのですから”



 ああ、聖鏡が本格的に始まりそうなディートリッヒの小言を遮ってくれた。ああ、コックリが凄い凄い安堵の表情を見せている。うん、そうよね。



 ”さあ、お腹もすいたことでしょう。食事をなさい”


「「はい!」」


 ”あら、鞍のついた水馬たちが光る海の周囲を走っていますね”


「はわあ、本当ですか?」

「おお〜良かったなあ、彼らも無事到着だ」

「ふむ、では私が招き入れるとしよう」と席を立つディートリッヒ


 ”森の娘よ、想いが届き、想いを刻み付けてもらって、良かったですね”


「…………はい」



 私は目頭が熱くなった。もう……胸がいっぱいでいっぱいで……



「彼女が回復するまで一週間くらい、ここに滞在させて頂けますでしょうか? …………その、俺のせいなんですが」


 ”構いませんよ、ゆっくりされると良いでしょう。ただし”


「ただし?」


 ”森の娘を抱くのはやめておきなさい。それだけ、出発が遅れるでしょうから”


「ええ〜!?」「はははい!」



 ええ〜!? と残念そうに言ったのはコックリ……うふふ



 ”刻み付けられる方が、大変なのですよ”


「は、はあ……」



 しょんぼりするコックリ……ああもう、ああもう。胸がキュウッとなる。陸に着いたら……ね……?


 聖鏡は天でキラキラと輝いている。

 空の海では、おとなしい首長竜が飛ぶように泳いでいく。

 風が心地よい。




 ”私も永遠に刻み付けましょう。人魚姫の想いも、森の娘の想いも……”







長丁場最後までお付き合い頂きありがとうございました。


ストーリーの大枠だけ決めて執筆しておりましたので予想外に長くなった上、後から追加挿入・修正するなどございましてご迷惑をおかけしました。次回はじっくり考えてから描いてみます。


次回は推理ベースに戻しまして、4〜5月頃になるかと思います。モン・サン・ミシェルを参考に描いてみたいと思いますが、閑話として法王庁をふらりと立ち寄ったような話も描いてみたいとも思っております。



その他、42話は当所描いていた話があまりにも官能的になりすぎて、ノクターンの方が妥当になり書き直してあの形になりました。

しかしせっかく書いたものが勿体ないので、完成しましたら、ノクターンの方にも番外編としてあげてみようかな……と思っております。



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