42 想い出の丘
クオオオォォン……
クオオオォォン……
優しい声がこだまする
空に広がる海で泳ぐ、海の獣たちの歌声だ
柔らかな歌声が降り注ぐ草原の丘で、二つの影が重なりあう
一つは栗色の髪に鋼のような筋肉の鎧をまとった、大きな大きな龍のような青年
もう一つは、緩やかに波うつ金髪に白い雪のような肌の、小さく華奢な美しい娘だ
二つの影は、一糸もまとわぬ姿で一つに繋がり口づけを交わす
鋼のような龍は、腕のなかの娘と唇を重ね合わせ、舌を絡ませ合いながら、心に押し寄せる温かな想いを、惜しみなく娘に注ぐ。美しい娘はか細い背中に柔らかい草の絨毯を、柔らかい胸に熱く大きい鋼龍の体を感じ、ただただ龍に身を委ね、龍の温かく大きな想いを心と体で受け止める
鋼龍は、自分を愛し、自分のすべてを刻み付けたいと言ってくれた娘が愛おしかった……
身も心も委ねてくれた娘が、ただただ愛おしかった……
腕の中で甘く切ない吐息をもらす娘が愛しくて愛しくてたまらなかった……
抑えきれない娘への熱い想い……
鋼龍は己の心を刻み付けようと、何度も何度も娘の心と体に愛情を注いだ
か細い娘が壊れないよう、優しく、優しく、ただただ優しく、娘のなかに己の想いを刻み付けた
それは神殿騎士として、怪異に怯える多くの人々を護る使命を受けた彼が、初めて、たった一人の女性だけに向ける深く大きな愛情だった
すべての力をもって、腕のなかの娘に想いを刻み付ける
鋼龍は分からなかった……
抑えても抑えても心の奥底から湧き上がってくる温かい想いが、このエネルギーがどこから来るのか……
想いを解き放つたびに、奥底から止めどなく沸き上がってくる理由が分からなかった……
理屈ではないのかもしれない……
ただ分かることは、この娘を幸せにしたいこと……
誰よりも幸せにしたいこと……
自分が、幸せにしたいこと……
自分の愛情こそが、色褪せずに彼女の心に刻まれ、彼女は生きていけること……
胸が…………熱い…………
心が…………熱い…………
鋼龍は、ただただ熱い想いを娘のなかに解き放ち、注ぎ続ける……
まるで、可憐な花に陽射しと水を与えるかのように……
娘は熱く大きな鋼龍の胸のなかで、生まれて初めて去来する幸せを感じていた
鋼龍の熱い胸のなかで、温かな想いに包まれ、心と体を溶かされていく
鋼龍の全身から発せられる温かな心が我が身のなかに浸透し、自分の心と結びつく
新たな自分を形作っていく
四百年という長きにわたり、初めて実感する悦び……
想いを注ぎこまれる悦び
想いを刻み込まれる悦び
想いを受け止める悦び
想いを刻み付ける悦び
愛する悦び
愛される悦び
愛しい鋼龍が生きた記憶……
愛しい鋼龍が存在した記憶……
この時代に、確かに存在した鋼龍の記憶……
それらのすべてを自らの心と体に刻み付ける
ずっと……ずっと……この時が来ることを願っていた……
ずっと……ずっと……この時が来ることを待ち望んでいた……
”愛してる……コックリ……これからも……ずっと……”
”愛してる……システィーナ……ずっとそばに……いてほしい……”
愛し合う二人は口づけを交わし、深く、幾度となく結びつき、互いを求め合う……
優しい時……
永遠の時……
美しい丘の上で……
空に広がる海には、愛し合う二人を祝福するように海の獣たちが歌を歌う……
光る海……
忘れることのない、想い出の丘……
次回で完結です




